7-3.


「俺は折角2回目の人生を始める事が出来たのに、相変わらず肩書きだけ立派の無力な男だ。今の俺ではそのリストに載っている人物を1人も裁く事が出来ない。だから力を付けて味方を増やすつもりだ。その為には子爵にやってもらう事はたくさんあるぞ。」


「では私はまず何からやればよろしいのでしょうか?」


「まず、もう1人の俺を作ってもらいたい。」


「もう1人の殿下ですか?」


「影武者を用意しろという意味ではないぞ。書類上別人を創って欲しいのだ。王太子という身分では何も出来ないのでな。貴殿にはそれが出来るか?」



 書類上別人を作り上げる。


 それはまごう事なき犯罪だ。

 バレてしまった場合、重罪になりえる可能性もある。


 ドリトン子爵はルイスの問いに数秒間の間を置いて口を開いた。



「・・・・・私の知り合いにその様な事に精通する者がおります。」


「ほお、まさか貴殿の知り合いにその様な者がいるとはな。」



 正義の男だと思われていたドリトン子爵には意外な友好関係があった。



「ではその者に頼んでくれ。」


「かしこまりました。」



 ルイスはほっとした表情になり、ふーっと息を吐いた。



「一歩づつだが、これで敵に見つからないように資金を貯めることができる。」



 ルイスは王太子として利用できるお金はあるのだが、そのお金は王宮で管理されているお金なので、敵に不信に思われない為に別人の存在を作り上げて資金を作り貯める必要があった。



「そして次に・・・・・。」


「殿下?」



 ルイスは言葉の続きを言うのを躊躇ったが、少し間を空けた後に口を開いた。



「母上の事を調べて欲しい・・・。」


「王妃様をですか?何故です?」


「とある人物に言われたのだ。母上の事を調べろと・・・嫌な予感がするが、調べないといけない気がしてな。」



 渋い顔になるルイスにドリトン子爵も只事ではないと緊張が走る。


 

「俺の人生で印象の薄かった王妃の母上を、まさかその人物から調べろなどと言われるなんてな。とても驚いた・・・どんな関係があってどんな意図があるのか、母上の事を調べると同時にその人物を探し出して欲しい。」


「その人物とは?」


「アンという女だ・・・いや、アンという名ももしかしたら嘘かもしれない。性別も女だったかも怪しい。ともかく何もかも胡散臭い奴だった。ただ・・・。」


「ただ?」


「ローズを愛する心だけは本物だった。」



 アンとい名のローズ専属メイドの老婆。


 自分を憎しみに満ちた目で睨んでいるアンの顔を思い浮かべるルイス。


 ローズに再び会う為にアンと協力関係を結んでいたが、不審に思う点がたくさんあった。


 どこまでが本当でどこまでが嘘か解らない嘘臭い人間、それがルイスから見たアンだ。


 だけどアンのローズを深く愛する心だけは本物だったとルイスには解った。



「母上との関係も気になるが、そ奴が持っているかもしれない物が重要でな。それを早く手に入れたいのだ。」



 今現在この王宮にアンはいない。


 アンがメイドとしてやってくるのがいつになるか分からないので、ドリトン子爵にアンを探してもらう事にした。



「もしかしたら名前も性別も偽っている可能性があるのと・・・・・見つけるのが大変そうです。」


「ローズに"口が聞けない"と偽っていたのだ・・・理由は解らないがな。口が聞けないとされる人物も一応探ってくれ。」


「秘密があってその上王妃様と関係があるとは、気になる人物だ・・・必ずやその人物を探してきて参りましょう。」


「母上の事といい面倒な事をさせてすまないな。」


「良い国を作る為なら何でも致します。」


「貴殿にはこの先たくさんの苦労をかけるだろうな・・・。」


「望む所です。」


「(何で俺は彼のような男を、家族もろとも国外追放にしたのだろうな。)」



 人の良い笑みのドリトン子爵に、1回目の自分の愚かさにルイスは心の中で大きなため息をついた。



「それと貴殿にはクルム家の三男の少年を見守って欲しい。」


「クルム・・・・・多額の借金により没落してから現在は平民と同様の生活をしているあのクルム男爵家の事でしょうか?」



 ルイスからの意図の解らない意外な命令に呆気に取られそうになるドリトン子爵。

 


「そうだ。直接会った事はないので噂程度の情報しか知らないが、その者はクルム家の三男坊らしい。」


「クルム家とは数年前までは友好関係がありましたが・・・確か三男は、テオ?という名前だったと思います。テオ・クルムをどうして見守るのです?」


「反乱軍のリーダーとなる男だ。」



 ドリトン子爵は息を飲んだ。



「安心しろ。別に子どもの内に殺そうなどと思っていない。むしろ彼には助けられて恩しか感じていないのだからな。ただテオを見守って、ピンチの時にだけ手を差し伸べて欲しいのだ。」


「ピンチの時だけですか?没落している男爵家を助けるのではなく?」


「男爵家を助ける事は簡単だ。だが、頭が賢く切れて正義感のある反乱軍のリーダーはあの没落して苦労をした環境だからこそ育った精神だからだと俺は思うのだ。」



 ルイスは他人の人生を無闇に変える事はあまりしたくなかった。


 なぜなら、自身の手に負えない未知の出来事が起こる可能性があるからだ。


 愛するローズやドリトン子爵の様な自身の過ちで直接不幸にしてしまった善人は助け、それ意外は見守る様にしたいとルイスは考えていた。



「テオ・クルムは俺が思い描く男に成長した時、俺の臣下として迎えたいと思う。」



 テオ・クルムは宰相のケイネスの策略にハマる事なくルイスの処刑を止めた人物なので、テオを味方にしたら心強いとルイスは思っていた。



「だけど2回目の人生が始まってまだ数週間しか経っていないが、どうやら1回目と少し違うようでな・・・。」



 ローズとの1回目とは違う出会いから、念には念を入れて行動すべきだとルイスは考えていた。



「そこでもしもの時にテオが死なない様に見張っていて欲しいのだ。ついでに悪の道に染まらないようにな。」


「殿下は、本当に魂は子どもではないのですね。」



 10歳の少年の口から出る似つかわしくない言葉の数々に平然と聞いているように見えるドリトン子爵だが、内心は話の内容が衝撃的過ぎてひたすら圧倒されていた。



「フッ、中身は78歳だからな。貴殿が子どもに見えるぞ。」


「こ、子どもに!?」



 ルイスはクスクスと笑う。



「やる事が多いが、頼んだぞ。」


「お任せください!」


「そうだ・・・・・。」



 ルイスは近くの本棚から一冊の本を取り出しドリトン子爵に渡す。



「大陸年表記?この本がなんなのです殿下?」



 ルイスは目をスッと細めた。



「貴殿は魔法を信じるか?」


「・・・・・あの、500年前にあったとされる魔法ですか?」


「そうだ。」



 ポカンとするドリトン子爵にルイスはニッコリと微笑んだ。




next→8.



 

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書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。 鈴木べにこ @beni5

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