居場所

 悔しい。


 けれど、僕がいれば、どんどん魔物のシルフィーが強くなっていってしまう。表情豊かなヒナタと神秘的なミツキ、二人の美少女に迷惑はかけたくない。

(仲良くなりたかった・・・っ)


「きゃあああっ」

 振り返ると、ミツキが転ばされていた。


「ケケケケケケケッ」

 シルフィーは笑っている。

「こんんんのおおおっ」

 ヒナタがバットで殴ろうとするが、一瞬で外野まで移動してしまう。


「コウタロウ君には、まだ未来があるからっ!」

 振り返って立ち止まった僕に転んでいたミツキが叫ぶ。


「きっと君は頑張った分だけ、今、傷ついていると思うっ。でも、自分を褒めてあげて。あなたは頑張った分だけ、素敵な人になれたはずだから。生きていれば、きっといいことがあるからっ!!だから・・・悩まないで・・・っ。辛かったら逃げたっていいのっ、幸せは必ず訪れるから・・・生きて・・・っ」

 ミツキは涙を流していた。

「どうして、そこまで・・・」

 初対面の僕に何を見ているのかわからないが、感情を出すのが得意そうではないミツキが僕のために涙を流している。



「そうだよ、ミツキの言うとーりっ!!人生甲子園だけじゃない!!振り返ったっていい!!でも、そんだけ悔しいって強い気持ちがあったなら、他のことでも頑張れるはずだから。頑張れ、コタロー!!負けるな!!あんたにはきっと自分で新しい目標を見つけて、それを叶える力が・・・あるっ!!!」

 ヒナタがボールを打ちながら、叫ぶ。

 迷惑をかけた張本人である僕にヒナタはエールを送ってくれる。


 僕はベンチの外へと走っていった。


 甲子園のベンチ裏がこんな構造になっているとは知らなかったが、好奇心が足を止めようとするが、僕は走らなければならない。この場から一刻も立ち去らなければならない。


 なぜ?


 それは、僕が甲子園に出場する資格のない存在だからだ。

 甲子園球児の聖域に、負けた高校球児が立つことは、聖域を穢すことだからだ。


 僕は立ち止まる。


 そして、振り返り、グラウンドへ戻る。


「きゃあああっ」

 二人はまた転ばされていた。


「く・・・っ」

 ヒナタが悔しがるが、立つのもしんどそうになっている。バットを使って何とか立ち上がっている。どうやら、攻撃が当たると、体力も奪っていくようだ。


「ヒナタさんっ!!!ミツキさんっ!!!」

 僕は叫んだ。


「なんで、また・・・きたの」

 ミツキが驚く。

「僕は、この場にいちゃいけない球児ですっ」

 

 僕は二人に駆け寄りながらボールを拾い、シルフィーに当てようとするが、ベース付近まで逃げられる。


「でも、決めましたっ。新しい目標。とりあえず、あいつを倒します!!倒したいんです!!」

 ボールを打ち込む。


「ちょっと・・・っ」

 ヒナタが呟くのを無視して、僕は打ち続ける。

 ヒナタが物申したくなるのもわかる。


「ギャアハハハハハッ」

 シルフィーも笑っている。そして、外野の定位置へと戻っていく。


 僕が打ったボールは外野の芝生に届いても、シルフィーに届いていなかったり、届くような距離に落ちても、方向がずれていてシルフィーの横で止まってしまったり、シルフィーに当たりそうな球でもゆっくりしたふわっとした球で、しゃがんで避けられてしまう。


「よしっ」

 僕は満足するまで打ち込んだ。


「よしっ、じゃないわよ!?何その満足そうな顔!?あなた高校球児じゃなかったの!?言っちゃ悪いけど・・・バッティングセンスないでしょ!!?」

 ヒナタが呆れる。


「待って・・・」

 ミツキが外野を考えこみながら見ている。

「えっ」

 ヒナタも外野を見る。


 シルフィーは困惑していた。

 持ち前のスピードを活かすことをやめて外野の真ん中、センターの定位置で動かずに立ち止まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る