ヒナタとミツキ

「くっ」


(間に合わないっ、ボールも・・・くそっ。ない!)


 ツルンッ


「んっ???」

 僕はわからず混乱した。


 影のカギ爪は金髪のツインテールの少女の体に当たったはずなのに、腹部をすり抜けて、金髪のツインテールの少女はまるで足をすくわれたように見事に転んだ。


「いったあああああっ」

 ギャグ漫画のように転んで尻もちついた金髪のツインテールの少女は悔しそうに痛がる。

 

 銀髪のポニーテールの少女は影の攻撃の隙をついて、攻撃をしようとするが、高速で影は外野の方まで走り抜けて、距離を取る。


 それを見て悔しそうに銀髪のポニーテールの少女はその姿を目で追っていたが、お互いの攻撃の射程距離じゃないことを確認すると、銀髪のポニーテールの少女は膝をつき、金髪のツインテールの少女を心配そうに見つめる。

「大丈夫?ヒナタ」


 どうやら金髪のツインテールの方はヒナタと呼ぶらしい。

 銀髪のポニーテールの少女が手を差し出す。

「もーっ、腹立つ!!!」

 ヒナタはその手を掴み、立ち上がる。


 もしかしたら、お尻は真っ赤になっているかもしれない。

 ヒナタは痛そうにお尻をさすっている。

 

「だっ、大丈夫ですか」

 僕は二人の元へと駆け足で駆け寄る。

 大した距離じゃないけれど、物凄い緊張していたようで、息が上がっている。


 息を整えて、二人をもう一度見る。

「あっ」

 僕は息を呑んだ。


 二人は近くで見ると、どことなく似た顔をしつつも、タイプが違う美少女だった。

 

 危なかった。

 

 少女達が一人だったら、僕は一目ぼれした自信がある。

 しかし、脳も急に美少女二人が出てくると、混乱するようで一目ぼれせずに済んだ。


「ねぇ、ミツキ・・・」

 金髪のツインテールを揺らしながら、ヒナタは銀髪の方をミツキと呼んだ。


 ヒナタの方は太陽のように元気で満ち溢れているのだろう、パッチリとした瞳などや声に表れている。真夏のスポーツドリンクのCMが似合いそうだし、幼馴染でいたら楽しそうだと妄想してしまった。


 それに対して、ミツキの方は月のように神秘的な雰囲気があり、奥ゆかしさがあった。普段は本を読んでいて、甲子園の時だけ外に出て、お守りをぎゅっと握りしめて、僕の勝ちを祈ってほしい、そんなタイプだ。


「ねぇ、君」

 ミツキが話しかけてきた。


「なっ何かなっ!?」

 僕は妄想から現実に復活する。そして、ちらっと影を見るが、やっぱりあれも現実らしい。


「どうして、ここにいるの?」

 ミツキが話しかけてくるが、抑揚よくようのない声で何を考えているかわからない。


「いや、甲子園の周りを歩いていたら、女の子の悲鳴が聞こえたから。男として助けに行かないと、と思って・・・っ」

 僕は少し照れながら答えを返すと、ミツキはヒナタをじとーっと見る。


「えっ、だって、声出ちゃうのは仕方ないじゃないよ~」

 ヒナタはミツキに弁明している。

「君名前は?」

「岡本幸太郎です。コウちゃんって呼んでくれると嬉しいな」


「・・・っ」

 二人は冷めた顔で見てくる。

(やばいっ、外したか?)


「んで、あんた。なんでこんな時間に、こんなとこにいるんだよ~」

(あれっ、名乗った意味は!?)

「えっと、コウちゃん・・・」


 ギロッ。


 そう呼んでほしいともう一度言おうとするが、ヒナタが怖い顔で睨んでくる。


 怖い。


「あっ、すいません。その・・・高校球児だったんですが、県予選の決勝で負けちゃって・・・それで、友達の応援に来てそれで・・・」

 

(そう、負けてしまったんだ・・・)

 自分で言って自分で悲しい気持ちに覆われる。


「ちょっとっ!!」

「えっ?」

 ヒナタに言われて気が付くと、黒い靄が僕の中から抜けていく。


「なにこれっ」

 黒い靄は先ほどの影の元へと飛んでいく。


「ウゴオオオオオオッ」

 その黒い靄を飲み込む影。すると先ほどより大きくなり、先ほどよりも一回り大きい翼が生えてきた。


「コウタロウ君、君がシルフィーの糧だったのね」

 ミツキが呟き、二人とも戦闘態勢に入る。

「たくっ、あんた。どんな負け方してるんだよっ」


「シルフィー?それがあいつの名前?」

「さっきは助かりました、ありがとう、コウタロウ君。だけど、ごめんなさい。心の整理ができていない、負けた高校球児が、今、この時、この場所にいると私たち、困るの」

 ミツキの言葉はきつい言い方ではなかった。感情をあまり込めてはいなかったが、どちらかといえば、思いやりを込めていたかもしれない。


 けれど、それは僕には堪える言葉だった。


 甲子園ここは僕のいる場所ではない。


 僕は拳を握り締めた。

(そんなの・・・わかってるさ・・・っ)

 さっきフィールドに降りた時の罪悪感が再び自分を襲う。


(それでも・・・)

「ねぇ、聞いてもいい?」

「んだよ、私たちは忙しいんだっ」

 ヒナタはボールをボールとバットを持って、構えている。


 怖気づきそうになるが、意を決する。

「あいつは、なんなの?悪いものだよね?」

 じーっと僕を見る、二人の少女。


「あいつは甲子園の魔物。敗れていったり、選ばれずに甲子園球児になれなかった者たちの嫉妬や無念、そして呪いを糧に育った12匹の魔物のうちの1匹。1番・・・いたずら好きのシルフィー」


 ミツキの言葉に混乱する。


 甲子園の魔物?

 嫉妬、無念、呪い?

 12匹の魔物?


「いたずら好きのシルフィー?」

「魔物がいるから、甲子園の悲劇が生まれるんだよ。てかもう、いいでしょ!?ミツキが言うように、頼むから出てってよ。コタロー?だっけ。あんたが近くにいるとシルフィーが強化されちゃうのっ。もう、尻もちつくなんてごめんだから、あたしはっ」

 ミツキもお尻を土で汚しながら、シルフィーに目掛けてボールを打つ。


(待って、何これ。甲子園の悲劇の原因があいつ?それでそいつが強くなるのが僕のせい・・っ?)

 僕からまた、黒い靄が出てくる。

「これは・・・ヤバッ」

 ヒナタが焦る。


 シルフィーが先ほどよりもどんどん大きくなり、動きも速くなっていく。


「くっ、ごめんっ」

 甲子園に立つ資格のない僕のいるべき場所ではない。

 僕は急いで二人の邪魔にならないようにフィールドから立ち去ろうと走った。

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