第3話

 携帯端末。そこそこ連絡が来ている。とりあえず、通信を繋げた。


「生きてるか?」


『遅いっすけど』


「すまんな」


『今どこですか?』


「ホテル出たところ。ずっとセックスしてた」


『恥じらいがねえなあ』


「いいだろ別に。事実言ってるだけだ」


 通信先。入れ替わる気配。


『どうも。三佐です』


「警察が何の用だ」


 詐欺師の裏取り作業中で、別に警察の手を借りることは起きていない。


『そちらで追ってる詐欺師。盗った金がどうやら裏金だったらしくてですね』


「裏金」


『どうしようかなと思って来たところです』


 裏金を盗るとは、なかなか肝が据わっている。


「こちらの作業の邪魔になるのか?」


『いえ。裏取りが終わって捕まえたら、警察に身柄をいただけますか?』


「手柄を横取りか?」


 少しだけ語気に肚を込める。


『いえいえ。そんなことは。あがりは警察側で上乗せさせていただきます』


「お前が思っている今の額。その二倍出せ」


『ひええ』


「でなければ乗らん」


『わかりました。二倍出しましょう。金額は』


「言わなくていい」


 これで、後ろに退けなくなった。


「三佐」


『はい』


「嫁は元気か」


『元気ですよ。最近、ファミレスに弟子入りしてシチューの研究をし出しまして』


「アルバイトか。いいな。今度食いに行くから住所を教えろ」


『ええ。ぜひとも。恋人もぜひご一緒に』


 通信を切った。


「恋人」


 恋人。恋人か。ホテルでまだ寝ているであろう、あいつが。


「はあ」


 煙草。火を点ける。吸わずに手に持ったまま。

 ただただ、迷う。タバコの煙。ゆらゆらと揺れている。自分の気持ちのようだと、思った。

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