ボッチも積もればリア充となる
虎野離人
第1話景虎、作家を目指す
僕、臼井景虎は、なかなかのゲーマーらしい。それは、親戚一同がそう言ってくる。だが、当の僕には自覚が全くないのである。
いや、そりゃ中学時代、おこずかいもらったら次の日にはゲームに変わってはいるのだが・・
でも、それは僕にとっては、当たり前のことだった。なぜなら、この世に面白いゲームがあるのが悪い。
そんな考えを抱きながら、僕は、我が家の一室でゲームをたしなんでいた。
一室しかないのだが・・。
「いきなり言われてもな・・・」
ふと、そんな言葉がこぼれてしまった。それはというと、少し前まで遡ってしまう。
一週間前、僕は高校受験に受かってのんびりとゲームの日々が続いていた。そんな平穏な日々は僕にとって、悲しい言葉が、叔父から言われたのであった。
「なぁ、景虎。お前は、これから一人暮らしをしなさい」
叔父からの言葉は、なかなかショックなことだった。
「えっ、急に・・。何でですか。そりゃ・・・。ゲームばっかりしている底辺みたいな僕を育てるのに嫌気がさすのも分かりますが・・。そんな・・。見捨てないでください」
叔父からの一言を聞いて、僕は、動揺を隠せなかった。
「いや、そういうんじゃなくてだな。お前そんなこと思ってたのか。俺は、お前を自分の子供のように育ててきた。別に見捨てるわけじゃない」
叔父は困惑している表情を浮かべている。いや、もはや憐れんでいるようにも思える。
そんな。自分の子供のようにって・・・。
僕は、表情は無視する方向で。それでも叔父の否定の言葉に感動を覚え、なぜか目頭が熱くなったが、どうにかおさえた。
叔父はそんなのには気づかずに話を続けた。
「お前の従姉である琥珀も高校に入るときには、一人暮らしをしたんだ」
「そうですね。琥珀姉さんは一人暮らしをしましたね」
「ああ、琥珀もだが、お前にも独り立ちというのをしてもらいたいんだ。もちろん、教育費と家賃だけは、こっちが払うがな」
「分かりました・・・」
僕は不服そうな顔をしているに違いない。いや絶対そうだと思う。
「よろしい。ちなみにもうお前の家は、決まっている。学校から自転車で二十分程のところだ」
「決定事項だったんですか。それより、自転車って・・・」
スポーツなぞしてきてはいない僕にとって、毎日のなかなかの苦しみではないだろうか。
「ああ。俺は、運動不足のお前を気遣って少しでもだな」
「分かりました」
「まぁ、入学式までには、引っ越しを終わらしてくれよ」
と、こういうことが起こったのです。そして、叔父にも悪いので、早々引っ越しをしたというもの。
誰にも邪魔されずにゲームができるなんて天国なんだ。
そう僕は、天にも昇る気分でいた。あの叔父の言葉は、悲しくもありうれしい提案であったことに気付いてしまった今日この頃である。
そんなこんな僕は、やはり一人暮らしでもゲーム三昧には変わりなかった。あれから二週間と日が流れても変わりゃしなかった。
そして僕は、ピンチを迎えていた。
はぁ、終わってしまった。何もかも・・・。
僕は、大事な入学式というイベントに行けなかったのである。いや、わざとじゃなくて。
なぜだか、僕は、入学式の日にちを間違えていたようだ。そんなことの事実を知ったのは、たまたまゲームを買いに行った帰り、琥珀様が僕の部屋にごちそうとともにいることであった。
「お帰りなさい、景虎君」
僕が部屋のドアを開けると長い黒髪を一つに束ねているよく見知った女性がドアの前に立っていた。
「うわっ、琥珀姉さん。来てたんですか」
僕の目の前にいるのは纏うことなき僕の従姉である琥珀姉さんである。
「景虎君そんなことよりどこに行っていたのですか」
何故だろうか。琥珀姉さんがとても怒っているように思える。
「えっとですね。ゲームを買いに行ってました」
はぁーという深いため息を琥珀姉さんは漏らしていた。僕の頭の中では疑問がどんどん出てきて何から処理していけばいいのか分からなくなっていた。
「食事をしながら話しましょうか」
僕と琥珀姉さんは玄関から部屋に入り、琥珀姉さんが作ったであろう豪華料理が並んでいた。何故こんなに豪勢になっているのかが僕には全く見当がついていなかった。
「それでなんの話なんでしょうか」
僕は唐揚げを口に運びながら琥珀姉さんに尋ねてみた。
「今日入学式をサボったみたいですね」
...........。
入学式..........。
僕はそのキーワードを聞いたが今日自分の思っている日にちは明日のはずだと思っていた。
「入学式は明日だと思っていたのですが.....」
「そんなことだろうと思いました。だから私は一人暮らしに反対だったんですよ。景虎君はどこか抜けている部分があるので心配だったんですよ」
ひどい言われようであった。僕はゲームをして徹夜したせいで日付感覚が狂っていたようだ。今日はもう入学式当日という事実を確認していなかったのだ。
「.......。ボッチ確定ですね」
「今日はそれを踏まえて話があります。これを」
琥珀姉さんは財布の中から一万円札を取り、僕の前に差し出すのであった。
「お小遣いではないですよね.....」
僕の中には何か確信めいたものがあったのかもしれない。入学式シーズン。それすなわち、月初めであること。
「はい。今月の仕送りとしてこれだけです。足りない分はバイトでもしてください。明日は早いので私はもう行きますね」
琥珀姉さんは、ご馳走と一万円を机に残し、そそくさと帰った行くのであった。
僕は、目を疑った。仕送りとして一万円とはどう足掻いても独り暮らしの僕にはまったくもって生活できるとは思えない。ましてやバイトなどゲームの時間を減らす要因でしかない。
「とりあえずバイト探さないと.....」
ゲームが散乱している机の上に綺麗に取り付けられているカバーを外した。デスクトップが姿を現す。
「えっと.....。とりあえず」
いつも見ているゲームのまとめサイトを覗いていた。もうそれが僕の日課になっていると言っても過言ではない。
「じゃないでしょ」
僕はまとめサイトをマウスのホイールを下にしながら自分に突っ込んでいるのであった。
「どうすればいいんだ....。ん、これは....」
まとめサイトの広告をクリックしてみた。
『東都文庫大賞 ライトノベル部門
あなたもラノベ作家を目指そう。必要なものは書く力のみ』
「これだ」
僕はもう自転車に乗って走り出していた。行き先はというと本屋であった。
ライトノベルは読んだこともないためどういうものかを読む必要がある。
ライトノベルコーナーで僕はわからぬまま一冊の本を手に取った。
『君に捧ぐ歌 作 霧島きな』
店員一押しって書いてあるこれにしよう。
僕はそれを持って店のレビの方に向かっていく。
バンッ
何かにぶつかった。長い前髪の隙間から見えたのは、チャラそうな男だった。
「いてぇなあ」
「すみません」
チャラ男はとてもお怒りの様子に僕には思えたが.....。僕の落としたラノベを拾い上げ、渡してきたのだった。
「ほらよ」
「あっ、ありがとうございます」
「そんな髪なげえから前見えねんだよ。気ーつけろよ」
チャラ男はその言葉を言い残し僕の前から立ち去っていくのだった。
「ふぅ〜殴られるかと思った。見た目はあれだけど、優しい人だったな」
そのままレジの会計を終わらして家に帰って行くのであった。
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