第1話:vs.雷帝
「えっと、何かの冗談ですか?」
さすがにこの順位は信用できずに、思わず九条先生に聞き返してしまう。
「冗談だと思うか? 全てはお前の試験結果を見て判断したまでだ」
――僕の試験結果? 確かに学科はそれなりに取れている。でも、あとは決して褒められた成績ではないはずだけど?
「言ってる意味がわかりません。僕、そこまでいい結果を出していませんよね?」
「なにを言ってるんだ? お前は――」
「よい、九条。あとは妾から説明する。まずは学科。これはそこそこは取ったようじゃな。まぁ、学園ランキングの比重はそこまで高くないので、こんなところじゃろう」
一番自信のあった学科をそこそこ扱いされてしまった。
しかもランキングの比重がそこまで高くないという裏情報付きで。
「そ、それじゃあ、どうして僕のランキングがこんなおかしいことになってるのですか?」
「それじゃ。あとの結果がおかしかったんじゃ。まず、魔力測定。これが『――』だったな?」
「えぇ、つまりはゼロより下の無……」
「それは計測不能を意味するものじゃ。測れる範疇を超えたものだけに表示される数字じゃ。過去に一人、妾だけが出した数字で当然ながらその魔力は教師が束になったところで敵わんレベルじゃ。それを学生で出したのじゃから、当然学園トップクラスなのは間違いなかろう。むろんそれ以外に置く方が頭がおかしい」
――僕はあり得ないほどの高魔力を持っている!?
一瞬隠された力があるのでは期待してしまうが、すぐに実技試験で魔法を使えなかったことを思い出す。
「あとは実技試験じゃ」
「そうですよね。僕がなにもできなかった――」
「流石に魔力測定をしたばかりの入学生がまともに魔法を使えるわけないからな。だからこそ、教師の放つ魔素の圧力をどの程度耐えられるか、という試験じゃったわけじゃ。主はそれを涼しい顔で耐えて見せた。しかも、九条は本気を出していたな?」
魔素とは空気中にある魔法の元になる元素で、これが地上に現れたから魔法が使えるようになったと言われている。
魔法はこの魔素を体内に取り込み、圧縮し、魔法として体外に放出させるものだった。
だからこそ、魔法の強さはこの魔素をどのくらい体内に取り込めるか、魔素をうまく扱えるか、圧縮率はどのくらいか、という三点で決められる。
ロリ長から名前を出されて、九条先生はため息混じりに言う。
「おっしゃる通りです。まさか私の放つ魔素をここまで軽くいなされるとは思わずについ本気を出してしまいました」
魔素を放つと言うのは、魔法として形作らずに圧縮した魔素のまま放つことで、体外的なダメージは負わさずに、相手に圧をかけることができる手法だった。
なるほど……。つまり通常なら自分の魔力で抵抗するのだが、僕の場合はそもそも抵抗する魔力がない。そもそも魔素を体内に取り込むことがないので、それを感じることもなかった。
それを強大な魔力をうまく扱って防いだ、と思われたのだろう。
「以上が主をランキングトップに置く理由じゃ。何か異論はあるか? もちろん聞かんが――」
「聞かないなら何を言っても無駄ですよね? はぁ……、わかりました」
何を言っても無駄だということがわかってしまった。
まぁ、すぐに負けてランキングから落ちていくだろう。
そう思っていたのだが――。
◇◇◇
九条先生と共に学園長室を出ると、すぐに僕はとある男子生徒に絡まれる。
「おい、そこの
振り向くとそこには肩ほどまでに伸びた金髪の男がいた。
――上級生かな?
確認がてら九条先生の顔を見る。
「
――えっ? 初耳なんだけど?
驚きの表情を浮かべる僕をよそに六角先輩は頷いていた。
「当然だろう? 決闘のルールを知らない奴がこの学園にいるはずもない。本来なら俺が学園最強になる予定だったんだ。それをそんなチビに横入りされたわけだから、許せるはずもないだろう!」
「わかった。名倉もいいか?」
「えっと、嫌だけど――」
素で本心が出てしまう。
すると、六角先輩がニヤリと微笑む。
「自分のランキングの前後十位以内からの決闘は断れないぞ?」
「あぁ、六角の言う通り、順位が近いものからの申し入れは断れない決まりになっている」
「なら、聞く意味がないですよね!?」
まぁ、ここで負ければ少しランキングも下がるし、目立たなくなるか……。
「決闘の場所は訓練場だな。校内だと狭すぎる」
「俺は異論ない」
「僕は異論しかないよ……」
「よし、両者とも問題ないなら早速向かおう。俺が立ち合いを引き受ける」
決闘には教師の立ち合いが必要になる。
生徒だけで勝敗を言ってもそれは証拠にはならないから。
あと、僕の意見は一切通らないことを理解し、諦めの表情で告げる。
「わかりました。サクッと終わらしましょう」
――僕が負けて……。
そのつもりで言ったのだが、六角先輩にはまるで違う捉え方をされてしまう。
「くそっ、俺なんか一瞬で倒せるだと!? 舐めやがって! 後悔させてやる!」
六角先輩は額に皺を寄せて、怒りを露わにしていた。
◇◇◇
訓練場は屋外にある周りを回復魔法の結界で覆われた場所で、どんな怪我をしてもあとから治療することができる場所だった。
……ただし、僕以外は。
ここに向かう途中に九条先生が説明してくれたのだが、どうやら治療は本人の魔力に紐づいて行うらしい。
「もし魔力を全く持っていない人がいたらどうなるのか?」という質問をしたら、笑いながらその人物は回復されないな。と答えられてしまう。
最後に「学園長クラスの魔力を持つお前には関係のない話だけどな」と捕捉されていたが。
それを聞いて苦笑いしか浮かべることができなかった。
「くくくっ、それにしてもお前も不運だな。測定ミスで学園最強になってしまって、最初の相手がこの俺だなんてな」
「えっと……、お手柔らかに……はできませんよね?」
「安心しろ。全殺しにしても結界魔法が治してくれるからな!」
「そ、その……、降参は……」
「動けなくなったら聞いてやるぜ!」
――やっぱり殺す気なんだ!?
僕は必死に生き延びる方法を探す。
訓練場は見た目、普通のグラウンドで障害物になりうるものはない。
相手は手元でバチバチと静電気のようなものが起きているところから雷の魔法を得意としていることが見て取れる。
前もってわかっているなら電気を通さない装備を用意するところだけど、今は何ももっていない。
――に、逃げられない!?
い、いや、それなら相手が魔法を放つ前に倒すしかない。
覚悟を決めた僕は九条先生の試合開始の合図を聞いた瞬間に六角先輩めがけて走り出していた。
「なんだそれは。俺を舐めてるのか?
飛んでくる巨大な雷の槍。
それはかろうじて僕をそれてまっすぐに進んでいった。
そして、結界の壁にでも衝突したのだろう。凄まじい破裂音を鳴らしていた。
「くくくっ、この程度で最強? やはり計測ミスではないのか?」
六角先輩が笑みを浮かべる。
次は確実に当ててくるだろう。僕に取れる手は――。
そういえばロリ長と九条先生は僕のことをどう言っていた?
魔素を軽くいなした……?
そもそも、僕の体は魔素を通さない。
つまり、今の僕にできることは、相手が魔法を放とうとする前、魔素を練り上げてるときに妨害するだけだ!
それが僕にできる唯一のこと。
ただ、そのためには相手がある程度溜めの必要な魔法を使ってくれないとダメだった。
そうなると相手を挑発することが必須だった。
「……魔法学園の上位者はそれなりに力を持ってるって聞いてたけど、この程度なんだ」
震える声のまま、上級生である相手を小声で挑発する。
ただ、それがしっかり相手の耳に入ってくれる。
「な、なんだと!?」
「この程度だと魔法を使う必要もないよ。面倒だからさっさと降参してくれないかな? 時間の無駄だから……」
わかりやすく挑発をする。
でも、相手は短絡的な性格をしていた。
挑発に乗ってくれるはず――。
そして、僕の目論見通りに六角先輩は怒りをあらわにしていた。
「くそっ! これを喰らっても同じことが言えるか!?」
六角先輩は両手に力を込め、魔素を込め始める。
それを見た瞬間に僕は真っ直ぐに六角先輩の手を掴みかかる。
理屈は簡単だった。
魔法とはパンパンに魔素を溜め込んだ風船のようなもの。
一箇所穴を開けてやれば、起こる結果はただ一つ。
僕が手を触れたその瞬間に、六角が溜め込んでいた魔素は暴走をする。
その瞬間に僕は六角先輩から距離を空ける。
「な、なんだ!? 何が起き――」
ドゴォォォン!!
行き場のなくなった魔素はその場で破裂し、六角先輩は倒れていた。
――や、やり過ぎた!?
目の前には爆発に巻き込まれて倒れる学園ランキング三位。
それを見下ろすのは魔法が使えない無傷の
実際にはたまたまうまくいっただけで、一方的に僕が襲われていたのだが、爆発音を聞きつけ、寄ってきた――最後の光景だけ見た人たちはどう思っただろうか?
学園ランキング三位ですら子供扱い。
軽く手玉にとる最強の新入生、と思われても仕方がなかった。
こうして、名実ともに僕は学園トップの座に君臨することになってしまったのだった。
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