第6話  女王、福引を引く

わたしが福引クイーンなどという不本意な名前で呼ばれ始めたのは、高校に入ってからだ。


最初は小学二年の頃、おばあちゃんに連れられて行った福引で、その頃好きだったアニメの変身セットを当ててから。

当時はどうしてもそれが欲しくて、祖母に泣きついて最後の一回をやらせてもらったら運良く当たってしまったのだ。

その時は嬉しくて仕方なかったのを覚えている。


ただ、それから毎年、何かしらの品物を当て続けるとは当時の私は想像もしていなかった。

もちろん5回引いて5回全部当たるワケでは無いが、絶対に1回は何かしらが当たる。

そしてそれは年々当たりの等数がジワジワ上がっているのだ。

今や環が当たっていないのは、1等と2年前から追加された特等のみとなっていた。


「・・・はぁ」


先に引いた茜は4枚引いてそのすべてが赤玉でハズレ、ティッシュかお菓子の選択で、お菓子に変わっていた。

何ならもう袋を開けて食べ始めていた。


本来なら来る予定の無かった、いや来たくなかった福引だが、

先程の買い物で補助券を貰ってしまったため、手持ちのものと合わせて丁度一回引ける10枚が溜まってしまったのだ。


嫌なら来なければ良いし、引かなければ良いのだが、生来の貧乏性が補助券を捨てる事を許さなかったのだ、ため息の一つも出る。


ならば、と茜に渡そうとしたのだが、頑として断られた。


「自分の運は自分で試せ」


そう言ってはいるが、顔がニヤついている。

そもそも、この状況を茜は知っているのだ。

今思うと面白がって連れてきた節がある。

完全に嵌められたな、そう環は思っていた。


「さぁ、今年はどの賞を当てるのかな?私は今年こそ1等だと思ってるんだけどね」


典子おばさんが目を輝かせて捲し立てるが、商店街側としたら、そこは当たらないことを前提に話すのではないのか?そう思う。

そう思いながら、環は横の立て看板に目をやる。

1等、冷蔵庫と書かれた文字の横には金色の丸いシールが貼ってあり、それがイコール抽選機に入っている玉の色だという事は分かっている。

2等のロボット掃除機は銀色だ。

看板についてる印を見ると、1等、2等共に残りは一つ。


要は、金と銀の玉を出さなければ良いのだ。

この年末の福引に対し、環は毎年少なからずプレッシャーを感じていた。

そろそろ、この舞台から降りたい。

女王として引退し、冠を脱いで一人の少女に戻りたい。

大げさだがそんな風に考えていた。


「よしっ!」


気合を入れて(他の抽選者とはベクトルの違う気合いだが)、環は抽選機のハンドルを握った。


「さぁ、クイーンがハンドルに手を掛けた!今年は何等を引き当てるのかぁ!!」


典子おばさんの実況に熱が入っている。


「環!冷蔵庫!冷蔵庫っ!!」


茜ちゃんも応援してくれている。

でも、ごめんね。

今回は私も茜ちゃんと同じお菓子を貰って帰るから。


そんなことを考えながら、環はゆっくりとハンドルを回し始める。


いつの間にか抽選会場の周りには、クイーンの抽選を見るために少なからずギャラリーが集まっていた。


「あ~た~れっ!あ~た~れっ!」


集中している為、環にはギャラリーの声は聞こえてこない。

ゆっくり回し始めた抽選機を加速し、シャッフルさせるように何度も回す。


(お願い!金と銀はいらない、金と銀は出ないで!)


そう願いながら、環は回転する抽選機を止めた。

一同の目が玉の出口部分に集まる。

ゆっくりと、スローモーションのように出てきた玉の色は・・・。


環の願い通り、金でも銀でもなく、赤色だった。


「やったぁぁぁっ!!」


赤玉!ハズレだ。

環は大喜びで両手を突き上げバンザイする。

女王の政権に終わりが告げられたことを喜んでいたが、それに反して周りが静かすぎる事に違和感を覚えた。

周りを見ると、茜や典子を含むギャラリー全員が一点を、出玉を見ていた。


赤ではなく、良く見ると光沢のある赤。


「おめでとうございます!特等が出ましたぁぁぁっっっ!!!」


典子の鳴らす鐘に全員が我に返り、会場は興奮の坩堝と化した。

鳴りやまない鐘の音、女王を称える声まで聞こえる。


「うそだぁぁぁぁ」


その状況に、環が信じられないと声を上げ。

へなへなとその場に崩れ落ちる。


典子も興奮冷めやらぬというように、皆に聞こえる様に秘密にされていた特等の正体を明かした。


「特等!4K対応テレビとラフステーション・ハイグレード&VRセットです!」


群衆に響いたその言葉に、茜が驚愕の声を上げた。


「うそだぁぁぁっ!!」




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