第38話 路上で出会った変態怪奇ファイル・その4。底抜けに楽しい人たち。

 前回までのあらすじ


 ついに発狂して一週間ほど失踪したGhost。

 失踪から帰ってから数か月の間、杖なしでは歩けないほど膝が壊れて、さらに目つきも殺気立っていたのですが、そんな状態でも路上に出て絵を描いていました。


 今回はそんな《絶対に関わりたくない奴》に変貌してしまったGhostと路上で出会い、意気投合した強者たちをご紹介(/・ω・)/



 

○手負いの狼、旅人と出会う。


 一週間の失踪後、突然消えた僕に対して理由を聞いてきた役者AやミュージシャンB。そもそも失踪中も何度も電話を掛けてきた彼らは(失踪中はガン無視)アレヤコレヤと言っていましたが、この時の僕は目つき、言動が正気でなかったせいか、それほどしつこくはなかったと思います。


 多分、目のピントは合わないし、瞬きもしないし、会話してる時も一点をジッと睨むだけで表情が乏しい……その上、汚言症おげんしょうが悪化して口を開けば暴言しか出てこない。そんな状況でしたが、路上に出て絵を売る活動は続けていました。

 いやぁ、絶対関わりたくないタイプだわ(/・ω・)/


 そんな中、いつものように元暴走族の絵師Aとメンヘラ絵師Bの二人と路上で絵を描いている時、声を掛けてきた人がいました。

 その人は片足が古い義足。不精髭で、この辺の地域とは微妙に違う訛りで喋る人で、僕らの活動を見ると

「おー、面白そうな事やってるね」

 と声を掛けてきました。




《プロフィールから抜粋》

○詩人B


 日本中を旅しながら出会ったお客さんに詩を書く事を生業にする詩人。

 元右翼団体に所属していた、凄く気のいい男。依頼があると大学で講演を行っている。片足が義足。


《所有する芸術スキル》

・詩人。

・旅人。

・風のゆくまま、気の向くまま。




Ghost

(何だかキャラの濃い人が来たなー)


 というのが詩人Bさんへの第一印象。今思うとキャラの強烈さは人の事言えないぞ(/・ω・)/

 さて、詩人Bさんとは少し話しをしただけで僕らはすっかり意気投合。彼は駅の反対側でお客さんに詩を書く活動をしていたのですが、僕らと話しをしてからは一緒に並んで活動するようになりました。

 彼は全国を旅しながら、お客さんに詩を書いて、……というのを何年も続けていたそうです。そんな旅も順風満帆ではなく、お金を盗まれてホームレス生活を余儀なくされたり、そんな彼を見かねた人(たまたま知り合った他人)に助けてもらって旅を再開したり紆余曲折の人生を送りながらも、詩人の活動で新聞に載ったり、大学で講演に呼ばれたり(お金を貰っていない)と活躍もしたいたそうです。

 けれど、お高く留まっている芸術家、というキナ臭さは一切なく、僕らと並んで作品を作りながら馬鹿話に花を咲かせるような人でした。


 そんな彼とは僕だけでなく、一緒に路上に出ていた元暴走族・絵師Aと元キャバ嬢・絵師Bも仲良くなり、詩人Bさんが再び旅に出るまでの間、よく一緒に路上に出る事になります。




〇手負いの狼、靴磨きの青年と出会う。


 詩人Bさんとの出会いから数日後、路上で絵を描こうと一人某駅に向かうと、いつもの場所に詩人Bさんと、その隣に一人の青年が居ました。彼は自分の前に靴磨きの道具を並べて詩人Bさんと談笑していました。

 ちなみにこの時の僕は失踪時の後遺症で膝を痛めていて杖を突いて歩いてます。


殺意の波動に目覚めたGhost

「お疲れ様っすー」(瞳孔開いてる)


詩人Bさん

「おー、来たねー」


殺意の波動に目覚めたGhost

「そちらの方は?」(瞳孔開いてる)


ミュージシャンC

「あ、どうも」




《プロローグから抜粋》

○ミュージシャンC


 二十代前半。男性。

 駅前で靴磨きをやっていた時にGhostと知り合う。高校時代に地元ラジオ局に呼ばれるくらいの人気バンドに所属。


 ステージ上ではギラギラしているが、素の彼はめちゃくちゃ礼儀正しい好青年。そして愛すべき変態。

 Ghostの事を『手負いの狼』と呼んだ人。


《所有する芸術スキル》

・作詞、作曲。

・弾き語りスキル。

・靴磨きスキル。

・驚異の下ネタ好き。

・関わる人の多くがファンになる人たらし。




 ミュージシャンCさん曰く、僕の初対面の印象は


ミュージシャンC

「杖ついてフラフラになって歩いてるのに、目だけ不自然に凶暴でみたいな人だと思った(/・ω・)/」


 と言っておりました。最悪の印象やん(笑)。

 ミュージシャンCさんは、そんな最悪の印象の僕とこの後十年来の付き合いになっていくのですが、ほーんと、あんな怖い顔してた僕と良く友達になってくれたよなぁ、と今になって真面目に感心してしまいます(/・ω・)/


 さて、話しを戻しましょう。

 ミュージシャンCさんは当時、靴磨き職人として路上に出ていたので試しにボクも彼に靴磨きを頼んでみました。これが僕が彼のファンになるきっかけ。


 僕の目の前で”超”丁寧に靴を磨き始めるミュージシャンCさん。

 本当に一生懸命、真剣に、それでいてどこか嬉しそうに靴を磨く彼を見ていると”すっごい不思議”で”上手く言葉に出来ない”のですが、

 発狂、失踪してすぐの心がささくれてるどころじゃないくらい荒れに荒れていた心が、ふっと何もかもを忘れて靴を磨くミュージシャンCさんに目を奪われる。磨かれているのは靴なのに、まるで自分の心が磨かれているような錯覚を覚え、靴を磨き終えるまでの十数分間ひたすら彼の仕事を見つめていました。


ミュージシャンC

「はい、完成です」


Ghost

「……めちゃくちゃ、感動した!」


 ま、端から見たら瞳孔の開いた杖を突いたヤバい男が、靴磨きの青年にひたすら感動を伝えている、というシュールな情景なんですが、とにかくこの時の感動はすごかった。一発で彼のファンになるのも無理はない!

 こういった感動させる能力を持っている人と言うのは、音楽などのアート的な表現でなくても絶大なエネルギーを人に伝える事が出来るみたいです。


 その後、僕らは意気投合。初対面だというのに(ちなみに詩人Bさんも会うのは二回目くらい)、みんなで僕のヘルハウスに来て飲んで騒いで語り合ってワイワイやっておりました。




 そこで詩人Bさんが話してくれたことで、今でも何度も思い出す話題があります。

 彼が言っていたの事は


「むやみに人の手助けをしない事」


 これは詩人Bさんが旅の途中に持ち物を盗まれて完全なホームレスになってしまった時に、彼の事を助けてくれた人が言った言葉だそうです。


「人を助けて良いのは、自分が倒れない、ダメにならない状況の時だけにしろ。自分を守れないヤツが人を助けようと思うな」


 この時、この言葉をとしては理解していましたが、その奥にある本当の意味をしっかり理解するまでかなりの年月が掛かりました。

 不思議と僕は、この夜の詩人Bさんの言葉を事ある毎に思い出す事になります。その度に言葉の意味を咀嚼して、比較的最近になってようやく自分なりの考えとして纏まりました。


 詩人Bさんの言う通り、簡単に人を助けちゃいけないんです。

 自分を守れないクセに人を助けようとする思いの先にあるのは、だったんですね。

 そして、誰かを助ける時に、助ける力が無ければ自分も助けたかった相手も痛い思いをする結果になってしまいます。

 詩人Bさんの言葉は感情論的な意味あい以上に、非常に合理的な考え方だったわけです。


 さて、それから数日後の事。

 路上に出てみると詩人BさんとミュージシャンCさんが居ました。前に会った時と違ってミュージシャンCさんの傍らには靴磨きの道具の他にアコースティックギター、


Ghost

「あれ? ギター弾くの?」


 初めてミュージシャンCさんと会った時、彼は靴磨き職人として路上に出ていたので、彼が音楽をやっているとは思いませんでした。


ミュージシャンC

「あー、昔ちょっとバンドやってたんですよ。なんか靴磨き暇なときに歌ってみようかな、って思ってハードオフで一〇〇〇円で買いました」


Ghost

「安っ!!(/・ω・)/」


 こんな風に普通に話していますが、実のところミュージシャンCさんは高校時代に地元ラジオ局に呼ばれるくらいのバンドに所属していた才能溢れた青年でした。けれど、そういう事を自分から話すことはしません。こういった所も彼の魅力だったと思います。

 ま、その出演したラジオ番組で放送禁止用語連発して「二度と来るな!」と怒られて出入り禁止になったそうですが(/・ω・)/

 強者過ぎる(/・ω・)/


 そして某駅の路上でミュージシャンCさんの演奏を聞かせてもらうのですが、こっちも凄かった。

 路上、人々が行き来する中で『S〇X! S〇X!』とシャウトするミュージシャンCさん。多くの人々は見なかったことにして去っていくのですが(笑)、彼の歌、詩を真剣に読み取ると、そこには笑いあり涙ありの人間模様が描かれている。表現は悪趣味なくらいふざけているけれど、その奥底にはものすごくレベルの高い心理描写が隠れていて、そこに気づいた人は足を止めて彼の歌を聞き入っていました。



 さて、ここで少しばかり余談です。

 比較的最近、彼と再会した時に、彼が作った最新のアルバムを買ったのですが、その中に入っていた一曲がパッと聞いてみると『幼児に対する性的悪戯を示唆するような歌』にしか聞こえないのですが、その歌を聞いて、


Ghost

(うーん、なんか違う。彼が伝えたいのはそうじゃない!)


 そう感じて何度も聞き直しているうちに、


Ghost

(そうか! これは生まれて初めてエロ本を拾った少年がエロ本に対して抱いた欲情と、欲情と言う言葉すら理解出来ていない幼い感情を描いた歌なんだ!)


 と気付き、その事をミュージシャンCさんに語った事がありました。「なに言ってんだコイツ?」という反応が返ってくるかと思いきや、


ミュージシャンC

「え? なんでわかったんですか? 絶対誰にも伝わらないと思っていたのに」


 と言って、ミュージシャンCさんは、ちょろっと涙を流すくらい感動。これには僕ももらい泣き。


ミュージシャンC

「あー、音楽やってて良かったってこういう時に感じますね」


Ghost

「俺も十年たっても根っこのところで変わらない、繋がってるって思える友達がいる事に感動してる」


 と、二人の変わらぬ友情にライブハウスの片隅で涙を流したのですが、これってよくよく客観的に見てみると、子供の頃に拾ったエロ本の話しでアラサーの男二人が感動して泣いてるっていう頭のおかしい状況なのよね(/・ω・)/




 と言った感じで失踪直後、僕にとって良い出会いがあったのですが、彼らのお陰で今の僕は割とまともに戻ったと言っても過言ではありません。

 ミュージシャンCさんとは今だに付き合いがありますし、詩人Bさんが話してくれた色々な考え方、哲学などは今だに思い出して再確認することがあります。


 さて、良い出会いばかりなら良いのですが、そうはいかないのが某駅の路上!

 次回は路上で出会った対照的な二人のをご紹介します。


 それにしても僕の印象でしかないかもだけど、詩人って命がけで表現に向き合っている人と、向き合っているふりをしても権力的な物が大好きなだけの人のふり幅が極端すぎる印象なのです(/・ω・)/


 to be continued(/・ω・)/

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