第14話 無理と言うのは嘘吐きの言葉なんですよ!


 前回までのあらすじ


 芸能事務所Cが主催するイベントを見に行ったGhostと役者A。出演者のレベルは高い物の、ネタが少ないせいか次第に単調になっていくパフォーマンスに少々苦痛を覚えながらもイベントは終了。


 翌月には次のイベントが行われるとの事だったけれど、その一週間前、突然役者Aから電話がかかってくるのであった。




〇無茶ぶりで尊厳を傷つけ、手玉に取るはブラック企業の常套手段。


 芸能事務所Cの二回目のイベント開催日の一週間前の金曜日の夜の事でした。僕がパソコンに向かって小説を書いていると突然鳴り響く携帯電話の着信音。画面を見てみれば『役者A』の名前が表示されていました。


Ghost

「はい、もしもし」


役者A

『あ、Ghost君。あのさ、ちょっと手伝ってほしいんだけど』


Ghost

「手伝うって?」(嫌な予感!!)


役者A

『イベントで寸劇をするんだけど台本書くの手伝ってくれないかな』


 予感的中! 

 まぁ、手伝いと言ってもちょっとアドバイスしたり、手直しするくらいだろうと思っていました。この時は!


Ghost

「ま、良いですよ。明日友達の結婚式なんであんまり遅くならなければ」


役者A

『ありがとう! これから向かう』


 そんなこんなで我が家ヘルハウスになってきた役者A。とりあえず寸劇の趣旨を聞くと、


役者A

「芸能事務所Cで売り出し予定の女の子五人組のユニットがあってさ、その子らをメインに寸劇をするんだ」


Ghost

「へー、そのイベントっていつ頃です?」


役者A

「来週」


Ghost

「来週! アホか!?」


役者A

「しかも全員演技の経験ないから、難しい脚本は作れないし」


Ghost

「未経験! アホか!?」


役者A

「二日前に脚本書けってC社長に言われて、明日には必要なんだよね」


Ghost

「段取り下手か!」


 なんてツッコんだものの、過去に超絶ブラック企業、そして当時も普通のブラック企業で働いていた僕です。このやり方には少々思うところがありました。


(あ、これ無理難題を要求して失敗させて、叱り散らしてプライドをズタズタにしてから良いように従わせるヤツだ)


 つまりこれは。仮に名作が出来たとしてもボツを食らうのが確定してます。

 悪い老害が若者をために行われる物なので、本気でやるだけバカを見るパターンです。とはいえ立場的に役者Aは上手く立ち回らないといけないでしょうけれど、この男はそんなに器用じゃありません。


Ghost

「それで、脚本の叩き台くらいは出来てるんです?」


役者A

「いや、俺パソコン持ってないから。頭の中にアイディアがあるけど」


 いや、書けよ! お前の課題だろ!!


役者A

「それに俺、失読症でキーボード打つの遅いからさ。ちょっと喋ってみるから文章に起こしてもらえないかな?」


 はぁ!? テメェ、太宰治気取りか、ボケェ!! 入水しろ!! 一人で!!


 今の僕なら啖呵を切って追い返しそうな物ですが、当時の僕は病的に(まぁ、ある意味ホントに病んでるんですけどね)お人好しだったので、


Ghost

「ま、まぁ、良いですけど……(それでも、さすがにひいてる)」



 そう言って役者Aのアイディアとやらを口述筆記することになったのでした。あふん。




〇私はあらゆるジャンルの文芸のファンだが、これは耄碌もうろくしてわめくワナビーの悪臭を放つ前立腺ぜんりつせんからひねり出した検討不足で自慰にも劣る脚本だ!


 あ、サブタイトルはイギリス人作家アービン・ウェルシュ氏がボブ・ディラン氏のノーベル文学賞受賞の際に、ノーベル財団に向けた批判コメントのパロディでございます。歳をとっても全く錆びないウェルシュ氏の毒舌っぷりに感動したのですけれど、これ以上脱線する前に本題へ戻ろうと思います。




 今回制作する脚本のテーマはズバリ!


役者A

「月9っぽいヤツ!」


Ghost

「はぁ?」


役者A

「いやね。ダンサーA君の要望でさ。月9っぽいのが良いって」


 抽象的! 余りにも抽象的!!

 テーマにならないし、作品作りの材料にもならないよ!


 そしてここから地獄が始まります。役者が語るひたすらに退屈な物語を淡々と文章にしていく作業が朝方まで続きます。明日、友達の結婚式だって言ったよな(# ゚Д゚)


 さて、肝心の役者Aが考えた脚本のストーリーを思い出せる範囲で書いて行ってみようと思います。


《起》

 芸能事務所Cから女性五人組ユニットがデビュー! これから頑張ります!


《承》

 ダンサーAが演じる事務所の社長が女性メンバーの一人に恋人にならないかとアプローチ。付き合ってくれたら君を優先的に売り出すよ、的な誘い方をする。


《転》

「私たちは恋愛禁止よ!」

「でも! 私はこの世界でどうしても成功したい!」

みたいな感じで五人はいざこざちょっとした口喧嘩に。悩んだ末に

「私は私の手で夢をかなえる!」


《結》

 事務所社長(ダンサーA)登場。

社長(ダンサーA)

「実は君たちの本気を試したのだよ」

一同

「そーだったのかー」

 お・し・ま・い。



 と言った流れ。

 、起承転結は成り立っている(?)のかもしれませんが、何とも脈絡のない展開とご都合主義な流れが痛々しい……。

 オイ、マジかよ。オレこんなサムいもの書くために朝方まで口述筆記させられてたんか……つーか自分で書けよ。


 一連の流れを書き終えた時、あまりにサムくてムズ痒くなるよな出来栄えに危機感を覚えた僕は、せめて文体や校正だけでも整えようとブラッシュアップを試みたんですが、


役者A

「ちょっと、パソコン借りて良い? 自分なりに推敲したいからさ」


 僕がブラッシュアップを終えてから役者Aはそう言って僕のパソコンの前に座り、左右の人差し指だけを使ってキーボードを叩き始めました。

 一時間後……


役者A

「よし、出来た。見てみてよ」


 モニターに表示されたものはブラッシュアップ前とほとんど変わらない文章。

 あー、ナニか? 他人に口述筆記させるけど、他人に文体の修正や間違いを訂正されるのは気に入らないってか(#^ω^)ビキビキ



 まぁ、良いんですよ。作品の悲惨なクオリティはブラッシュアップ以前の問題でしたし。それよりも、僕には役者Aに言わなければならない事がありました。


Ghost

「あのさ! 絶対にこの脚本、僕が書いたって言わないで!(こんな駄作書いたと思われたら恥だ!!)」


役者A

「おう! いいよ! (多分、自分の手柄に出来るからご機嫌)」


 そんなこんなで脚本は完成。喜び勇んで役者AはC社長に脚本を渡したそうですが、速攻で自分が書いていないことがバレて怒られたそうな。

 ま、パソコン持ってないし、しかもキーボードもろくに使えない人間が、綺麗に印刷された脚本持って行ったら一瞬でバレるだろうさ。アホやなー。

 そして思い返してみると改めて僕はお人好し過ぎ! あほやなー。


 to be continued(/・ω・)/

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