第9話 過去の身勝手
ラナイアとアルグスは、三度目の喧嘩を始めていた。
最初は、お互いに褒め合っていたが、それもいつか普通の喧嘩になっていた。お互いに、何が発端なのかなど、もう覚えていないのだ。
「大体、あなたは勝手なのよ。あっちの世界にいた時も、急に会社をやめて、店を始めたいとか言い出して……」
「あれは、店が開きたかったんだ……」
「開きたかったじゃないわよ。開きたかったからといって、もう少し私に相談してから決めて欲しかったわ!」
「言い出せなかったんだから、仕方ないだろう!」
二人の話は、いつも通り昔の話になっていた。
かつて、アルグスは会社に勤めていた。ただ、突如、その会社をやめて、店を開きたいと言ったのである。
「というか、結局それはお前も受け入れただろう!」
「あなたがあまりにうるさいから、受け入れてあげたのよ」
結局、ラナイアもそれを受け入れて、二人で店を開いた。
アルグスがあまりにやりたいと言ったので、ラナイアもそれを受け入れてあげたのだ。
「結構、繁盛したし、概ね成功だっただろう」
「結局、潰れたじゃない」
「それは、そうなんだけど……」
ラナイアとアルグスが開いた店は、結構繁盛した。
ただ、結局は潰れてしまったのである。
「というか、そんな昔の話なんかどうでもいいだろう。お前も、潰れた時は納得してくれたはずじゃないか」
「まあ、それなりに頑張っていたのは知っていたし、店があった周辺も色々と変化したから、潰れるのも仕方ないとは思ったわよ」
「だったら、別にいいじゃないか」
店が潰れた時、アルグスはかなり悲しんでいた。
そんなアルグスに、ラナイアはよく頑張ったなど優しい言葉をかけていたのだ。
もちろん、その時はラナイアも納得していた。だが、ラナイアが言いたいのはその前のことなのである。
「私が言っているのは、急に会社をやめたことよ。店が成功したかどうかなんて、この際どうでもいいわ」
「あれが勝手な決断だったというのか?」
「当たり前じゃない! 私は何度もやめておいた方がいいと言ったのに、あなたはまったく聞いてくれなくて、結局私が折れたのよ。あの時の私が、どれだけ不安に思っていたか……」
「不安は……それは、悪かったと思っている」
だんだんと、アルグスの語気が弱まっていた。
ラナイアに対して、色々と迷惑をかけていることを自覚しているからだ。
そして、ラナイアの勢いも落ちていた。どちらかの勢いが落ちると、釣られて落ちるのが二人の関係性なのである。
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