第3話 喋り方の変化

 ラナイアとアルグスは、二人で休んでいた。

 先程までは喧嘩していたが、とりあえず今は二人とも落ち着いている。


「というか、お前のその喋り方はどういうことなんだ?」

「え?」


 そこで、アルグスはラナイアにそんな質問をしてきた。

 ラナイアの喋り方に、何か疑問があるようだ。


「こっちの世界に来てから、ずっと思っていたんだが、昔と喋り方が全然違うだろう?」

「今更、そんなことを言ってくるの?」

「言うタイミングが、今までなかったんだよ」


 ラナイアは、少し呆れていた。

 なぜなら、アルグスの質問はとても遅い質問だったからだ。

 こちらの世界に来てから、既に十年以上経っている。それなのに、今質問することなのかと、ラナイアは思っているのだ。


「まあ、この喋り方は、今のお父さんとお母さんに言われたから、こうしているというだけのことよ。それに、昔の喋り方だと、この年齢に釣り合わないでしょう?」

「それは、そうなんだが……」

「というか、あなただって、口調は変わっているでしょう?」

「まあ……」


 ラナイアの指摘に、アルグスは何も言い返すことができなくなっていた。

 それは、ラナイアの指摘が正論だったからだろう。

 ラナイアもアルグスも、昔とは喋り方が変わっている。それは、あちらの世界で最後にしていた喋り方は、完全に年寄りの喋り方だからだ。


「どうして、そんな無駄な質問をしてきたの?」

「いや、別に……」


 当然、今の年齢で年寄りの喋り方をするとおかしくなってしまう。そのため、二人とも喋り方を変えている。

 それは、アルグスもわかっていたことであるはずだ。それなのに、そんな質問をした。そのことに、何か意図があるのではないだろうか。

 ラナイアは、そのように思っていた。いくら馬鹿なアルグスでも、こんな無駄な質問はしない。心の中で、少しアルグスを馬鹿にしつつ、ラナイアはそう思考したのだ。


「もしかして、昔みたいに喋って欲しいの? そうなら、そうしてあげてもいいけど?」

「別に、そういう訳じゃないが……」


 ラナイアの質問に、アルグスは微妙な反応をした。

 どうやら、昔が懐かしかったという訳ではないらしい。

 そう思ったラナイアだったが、アルグスが素直な人間ではないことに気づいた。彼が、本心から言葉を放つとは限らないのだ。


「お爺さん」

「……何?」


 そこで、ラナイアはアルグスに向かって一言呟いた。

 それは、昔の口調である。素直になれないアルグスなので、ラナイアはとりあえず昔の口調にして、反応をみることにしたのだ。



「お爺さん、さっきから訳がわからないことを言ってくるけど、どうしたんだい? また、ボケてしまったのかい?」

「……その口調は、やめろ! なんか、その姿で言われると変な感じがする」

「やっぱり、あなたの質問は無駄だったようね」

「別にいいだろ。世間話なんだから……」


 ラナイアが昔の口調に帰ると、アルグスは少しだけ嬉しそうだった。

 やはり、アルグスは昔が懐かしくなったようだ。

 それを素直に言えないことに、ラナイアは少し笑うのだった。

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