第43話 決戦決定!?【前編】


「ってわけで今日からモナとフリードリヒを仕込むよ!」

「お待ちになって。その話を整理しますと、ゼジル王子たちの目的は管理人さんなのではありませんの?」

「ふふーん、ボクには[模写]があるから平気なんですぅー!」

「な、なんたる卑劣……」


 幼少期から貴族としての立居振る舞いを指導されてきたエリザベートとヘルベルトには、リズの奥の手——の割にもう使う気満々——は卑劣に映るのだろう。

 二人は上級貴族として、かなり厳しく躾けられてきたのだから、そう感じるのも無理はない。

 だが、そんな風に時間と金で培った教養をコピーしてでもこの戦争、勝たねばならぬ。


「なんとでも言うがいい。ボクは売られた喧嘩は買う。金を出してでも買う。ましてあいつらマジ反省しないし。徹底的にフルボッコにしていい加減黙らせたいんだよね」

「……ま、まあ、管理人さんの話を聞いていた限り、妨害行為というか、嫌がらせというか……なかなかに姑息なことを繰り返しているのはあちらの方ですしね」

「ホホーゥ!」

「でしょー! ロベルトはわかってるねー! そうなんだよ、いい加減ウザいんだよあいつら! ボクが在学中からだからね!?」


 ばぁん、とリズがテーブルを叩く。

 そう、思い返せば奴らの嫌がらせはリズが王立学園に入学した頃からだった。

 同じ日に入学した六歳の幼女。

 十五、十六の貴族の娘たちはその愛らしさに「かわいー!」と口を覆ったとか覆わなかったとか。

 だがそれも数分のうちに終わった。

 ゼジルとラステラがいちゃもんをつけてきたのだ。


 ——「なんでこんなところに子どもがいる! ここは王立学園! 十五歳から入学が許される場所だ!」


 残念ながらこの国に『王立学園への入学は十五歳から』などという法律はない。

 仕事にも年齢制限などありはしない。

 あれば国中の平民の子どもらは、十五歳になったら学園に入学せねばならないし、今親の仕事を手伝って働いてる子たちはどうなる?

 そんなことにも考えが至らない王子たちに落胆したのを、よく覚えている。

 そしてリズはそれをずけずけと二人に突きつけた。

 王子とその婚約者は顔を真っ赤にして怒り、忌々しいとばかりにリズを睨みつけて入学式に臨んだ。

 その後もことあるごとにリズの年齢や態度をバカにして、見下した。

 リズの方が精神年齢が年上なので、この性格なりに我慢して、我慢して、我慢して——。


「今度こそ黙らせる。ありとあらゆる権力と力と権利を用いて」


 あ、これは怒らせちゃいけないのを怒らせたんだろうな、と生徒たちが察したのも無理はない形相とセリフ。

 なにはともあれ、エリザベートとヘルベルト、ロベルトも公的なパーティーの場は久しぶりだ。

 数ヶ月前に行われたロベルトの母の誕生日パーティーとは違う。

 王族や、敵対貴族も多く出席する。

 リズから言わせれば「あと五年くらいで魔王が復活するのに、国内で足の引っ張り合いするとかバカじゃないの」と言いたい。

 だが、実際しつこく足を引っ張られてきたので第三王子とその婚約者は話が別だ。

 潰す。

 今度こそ、必ず。


「仕方ありませんわね。とりあえずまずは全員分のドレスとタキシードを拵えませんと」

「あとは小物だな。私たちはもともと持っているものを使えばいいだろうが、モナやフリードリヒは一から仕立てなければならんだろう」

「お金の方はどうします?」

「仕方がありませんから、モナはわたくしが実家に頼んでみますわ」

「じゃあフリードリヒ分は僕が……」


 と、お兄さんお姉さんのおかげでモナもフリードリヒもドレスとタキシードの算段がついた。

 エリザベートは特に口ではああ言いながら顔はノリノリ。

 そんなエリザベートを眺めるロベルトも楽しそうで、フリードリヒのタキシードなど一式は任せろ、とのこと。

 頼もしい。


「え、あ、あの、でも……」

「お金のことなら気にしなくてよろしくてよ。それよりもモナ、今度のパーティーは貴族学生ばかり。あなたと歳の近い者が多いわ。平民のあなたとも友達になってくれる人や、あなたを妻にしたいという殿方もいるかもしれない。ビシッと決めて、学園の者たちを見返してやりましょう!」

「え、えー……」

「なんで不服そうなのです!」

「うっ……だ、だって……」


 指先をツンツン合わせながら、モナは一瞬チラリととある人物を見た。

 それはヘルベルトとロベルトに、パーティーでの作法などを質問しているフリードリヒ。

 はーーーーん、と理解したエリザベートとマルレーネとリズ。

 確かに冒険者の仕事で、フリードリヒはモナをよく誘う。

 平民出身と騎士爵子息。

 地位的には近いが、そもそもフリードリヒは身分差などあまり考えてないだろう。

 だがあれだけ毎回誘われていれば、意識しないはずもなく……ということなかもしれない。


「や、やっぱりお金のこととか気になるべ」

「いいのよ、本当に気にしなくて。いえ、むしろ今のでますますやる気になりましたわ、わたくし」

「なんでだす!?」


 エリザベート姐さんは自分の恋がうまくいっているので、他のことにたいそう余裕が生まれておられるのだ。

 それをによによ眺めるリズ。

 マルレーネも可愛い妹分がそれではやる気が起きないはずもなく。

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