第20話 海辺の白い街

思い出した。

海沿いの、白い街の話だ。


ある夏の日、青田くんとバルセロナの中央駅から列車に乗り、30分くらいか。小さな駅で降り、少し歩くと、白い、こじんまりとした家々が並ぶ、海辺の街があった。


スペイン語より、フランス語だのドイツ語などがよく聞こえる、小さなリゾート海岸だ。


でもその風景は、高校生くらいの時、雑誌で見た、まさにあの地中海の街だった。


私と青田くんは、白い街並みをぬって海岸に出るなり、ちょっと喜んでしまった。


トップレスの女性がとても多く、男女とも申し訳程度に局部に布切れをつけているだけで、まるで性の無法地帯に来たみたいだった。


今はどうなのだろう。

その頃は、とくに性の解放が急激に進んだ頃だったのかもしれず、皆それを享受しているというふうだった。


でも、それにも増して、青い海に沿って続く白い街の美しさに、私は感動した。

こんなところに、来てみたいと思っていた。


海辺のバールという店に入り、何か飲んだのだと思う。


カヌーを借りて、漕いで遊んだのだと思う。


砂浜に寝転んで、陽を浴び、私は今後のことや自分の生きる道などについて考えていた。


青田くんは結構明確な目標があった。


実家が靴屋さんで、スペインで、革靴の勉強をして、仕事に生かすという目標だ。


えらいなあ。


私なんか、ただぼんやり日々を過ごすだけで、なにをやっていけばいいのか、皆目検討がつかなかった。


私が通うスペイン語の学校は、青田くんのように現実的な目標を持った日本人もいれば、画家を目指してスペインに来たという人たちも何人かいた。


私の夢は、映画監督になることだったが、まあ、無理かなあ、などと思っていた。


夢と現実とは違う。


それでも毎日のようにアートシアターに通い、海外で評価されている日本映画や、日本ではあまり知られていない映画や、公開されていない作品も沢山観ていた。


スペインで過ごした夏は、今思うとすごく長く感じられる。

青春の1ページというより、私の青春の全ページがそこにある。


夕暮れが近づく。裸の人たちはぽつりぽつりとホテルへと消えていく。


私も青田くんもホテルに泊まる金などないから、ぼちぼち町の駅に向かう。


今はあの街はどんな風になっているだろう。

シッチェスという町だ。


駅に電車がやって来る。

海は遠ざかっていく。

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