④ コロナとて事ぞともなく明けぬるものを


 先日、高崎にいる友人から久々に飲まないかと連絡が来たため、早速飲み会をした。

 といっても、どこかで待ち合わせたわけではなく、いわゆるオンライン飲み会というものをしたのである。


 その友人とは10年以上の付き合いで、私にとって数少ない気の置けない友人である。

 彼は、大学に進んだのち群馬県の溶接会社に就職しており、月に1回の登山を趣味とする、アクティブな男だ。

 彼とは頻繁に飲みに行っていたが、ここ数年はお互い忙しく、なかなか会えずにいたものだった。

  

 オンライン飲み会は、予定通り始まった。

 久々に顔を見るということもあって、私も彼も始めのうちはどこかぎこちなかったが、時間が経つにつれていつもの調子で会話が進んだ。

 

 酔いも回り始めた頃、「まさか、結婚したんじゃないだろうな?」と私は何の気なしに問いかけた。

 ほとんど冗談のつもりだったのだが、彼は、「実は結婚したんだよ。誰かに聞いた?」とこれまたさらりと答えた。

 

 やはり、と私は思った。

 今日の飲み会を誘われたときから、何かしら報告があるに違いない、と予想していたからだ。

 もっといえば、社会人の友人の報告といえば、転職か結婚と相場は決まっているのだ。

 私は、平静を装いながら、「いや、聞いてない。なんとなくそんな気がした。」と返事をして、彼の話を促した。


 彼の言うところには、相手は取引先の職場で知り合った女性で、結婚式はまだ決めていない、ということだった。 

 結婚の話や相手の女性の話をしているときの彼の顔は、とても幸せそうだった。

 元より、酒が入ると笑い上戸になる彼だったが、その日はいつにも増して笑顔が多かったように思える。

 私も、長年の友人の吉報ということもあって、自分のことのように嬉しくなり、いまだかつてないほどの高揚感と幸福感で満たされた。

 

 その日のオンライン飲み会は大いに盛り上がり、次回の約束をして終わりを迎えた。

 時間にしてほんの2時間程度。移動もなく終電も気にしなくてよいオンライン飲み会は、便利で楽しいものであると感じた。

 

 昨今は、感染症の影響で、遠方の家族や知人と頻繁に会うことが難しく、不自由を強いられている。

 そしてこの不自由な生活は、終わりが見えず、今後は感染症ありきの新しい生活様式がスタンダードになっていくと言われている。

 目に見えない脅威とともに生活するのは中々に難しいが、受け入れて乗り越えていくしかないのだろう。

 しかし、また以前までと同じような、遠方の友人と余計な心配なく会える生活が戻ってくることを、願ってやまない。

 

 それにしても、オンライン飲み会のあの時ばかりは、日頃の心身の疲れなど遥か彼方へ吹っ飛んでしまっていたようだった。

 

 想い人に会えば秋の夜長も名ばかりのものとなってしまうように、オンライン飲み会で友人と会えば、終わりの見えない危機もあっけなくどこかへ行ってしまうのだ。

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