第16話 ギルドでの買取りです。お金持ちになったので異世界の風俗街に繰り出します。前編





 街へと向かう途中、ダンジョンに遭遇した。

 アカネ曰く、それは新種のダンジョンということだ。

 普通だと街に行って冒険者ギルドにダンジョンの所在を報告し、大規模な探索隊を組んでもらうのが通例ということなんだけど――

「うずうず……」

「うずうず……」

 覚醒したばかりの自分の力を試したいエリスとアカネがそわそわしていた。

 なので、仕方ねーなとばかりに俺たちはダンジョンに潜り込むことになったのだ。




「姫……っ! 武神のようなその動き――何があったのです!?」

「エリス殿も一流の使い手とは聞いていましたが、これほどとはっ!」

 そんな感じでアカネの従者が騒いでいたんだけど、まあ本当に壮観としか形容のできない光景だったな。

 ダンジョンの中にはオーガキングが20以上いたんだけど、その全てを返り血すら浴びずに二人でやっつけちまったんだから。

 最終的に鬼獣王とか言う馬鹿みたいにデカい、斧を振り回すユニークモンスターが出てきた。

 ちなみに討伐難度はSSクラスで、田舎の冒険者ギルドでは討伐隊を組んでも到底手に負えないレベルって話だ。

「くそっ! 中々に手ごわいっ!」

「アカネさん! 私がサポートしますので……回復魔法(ハイヒール!)」

 最終覚醒しているとはいえ、二人はまだまだレベルが低い。

 俺の≪仙界3分クッキング≫のバフ効果を併せても互角……いや、少し劣勢だな。

 既にかなりの回数を斧と刀で撃ち合っているが、パワー負けしているのは明らかだ。

 アカネはアカネなりに、敵の圧倒的パワーをスピードと技で補ってはいるんだが……って、いかん!

 アカネの刀にヒビが入った!

 それにヒビに気づいてないアカネが鬼獣王の斧を刀で受けようとしているぞ!?

 不味い……このままじゃ武器を破壊されて、そのまま頭も割られてしまう!

「サトル殿!?」

 途中で割り込んだ俺が、ミスリルの剣で斧を受けた。

 で、続けざま、俺は飛び上がり鬼獣王に向けて脳天唐竹割りを敢行したんだ。

「どりゃあああああっ!」

 気合一閃。

 上段振り落としと共に鬼獣王の体は真っ二つに裂けて、その場に崩れ落ちることになった。

「サトル殿……流石としか言葉が出ませんっ!」

「やはり、私たちの旦那様は本当に凄いですね!」

「いや、お前たちも本当に強くなったと思うよ」

 俺たちはニコニコとみんなで笑ってたんだけど、アカネの従者たちは「あわわ……」とばかりに、腰を抜かしていた。

「サトル殿は分かるとして、本当に……姫に何があったんだ?」

「鬼獣王と10数回も撃ち合うなどと……アカネ様のお父上でもできるかどうか……っ!」

「それにエリス殿の剣と魔法を変幻自在に操るあの動きは、かつての猫耳族の英雄を思わせるぞ」

 と、そこでエリスがペコリと頭を下げてきた。

「旦那様。こんな素敵な力まで授けてくださってありがとうございます!」

 と、まあ、そんなこんなで俺たちは魔物たちの角を回収し、今度こそ本当に街に向かったのだった。



 ☆★☆★☆★



 街に到着した俺たちは冒険者ギルドへと向かった。

 そこはファンタジー世界の冒険者ギルドのイメージそのまんまの場所だった。

 依頼募集の掲示板があって、受付カウンターのある部屋は酒場と食堂も併設されていて、昼間っから屈強な男たちが飲んでいるって感じだ。

 で、カウンターにはエルフの受付嬢がいるわけだ。

「素材の買取をお願いしたいのですが」

「素材の買取? これは珍しいですね」

「珍しい? ギルドと言えば買い取り業務は日常でしょう?」

「普段はそうなのですが、今は交易路を荒らすオーガ討伐隊が組まれている関係で、外で採取や害獣駆除をしている人が非常に少ないのですよ」

「ああ、そうなんですか」

「オーガが他の魔物も襲って食べていますしね、狩りに出てもロクな魔物がいないので、討伐隊選考から外れたベテラン級以上の冒険者は開店休業中です。まあ、貴方たちのような一般市民が、街の中でも手に入るような安価の低級薬草素材を、小遣い稼ぎに持ち込んだりしますが。それで、何を買い取ればよろしいので?」

 アイテムボックスを呼び出して、オーガキングの角を一本出したところで、エルフの受付嬢は「ほう」と溜息をついた。

「オーガキングの角……ですか。先ほどは小遣い稼ぎと言って失礼しました。貴方たちは一流の冒険者の方のようです」

 で、俺がオーガキングの角を2本目、3本目と出すとエルフの受付嬢の顔色が変わっていった。

 そうして、総計40本程度のオーガキングの角を積み終えた頃には、その顔色は蒼白に染まっていたのだ。

「こ、こ、こ、こ、これは、いったいどういうことなのでしょう?」

 うわ言のようにそう呟いた所で、俺はアイテムボックスから更にサンダーバードの死骸も取り出した。で、それを見たエルフの受付嬢は――

「うひゃっ!?」

 っと、そんな感じで、悲鳴とも奇声ともとれる声を発した。

「肉は一部持ち帰りたいんですけど」

「さ、さ、さ、サンダーバードっ!? 討伐ランク……Aランク!? そ、そ、それでそれで……Bランクのオーガキングの角も40本……え? え? ええっ!?」

 半ば放心状態となっている受付嬢さんの前に、俺は更にサンダーバードの死骸を積んでいく。

「全部で4体あります」

「……」

「どうかしましたか?」

「……」

「あの、受付嬢さん?」

「……あ、いえ……あまりのことに我を失っていました。ちなみに、貴方様たちはどちらの英雄ご一行様の長期遠征のお帰りなのですか? 事前に連絡を頂かないと困りますよ、ここは田舎のギルドなのですよ?」

「いや、英雄とかそんなんじゃないですけど」

 と、俺は最後にコトリと鬼獣王の角をテーブルカウンターに差し置いた。

「これで最後です。買い取り金額は全部でいくらになりますか?」

 そして、俺のその言葉を受けて「鬼獣王の角……SSランク……」と、受付嬢は白目を剥いて、そのままバタンと真後ろに向けて失神して倒れたのだった。

 しかし、毎度思うがこの世界の人間ってどうしてこんなに大袈裟なんだろう?

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