第10話 ちーちゃんと下駄箱

 その後悔と言い訳もする間もなくちーちゃんはこちらに背中を向ける。


「……帰る」


 そう言って校門の方へと歩いていく。


「あの……」


 何も考えることなく呼び止めてしまう。起こってしまったのなら弁明はしたい。

ちーちゃんはぴたりと足を止めるがこちらを向かない。


「……なに?」


 ぼそりと小さな声で問い返してくる。考えなしに呼び止めたことで、またさっきと同じ状況を作ってしまった。何を言えばいい。緊張はないが焦りだけが残る。


「えっと、その、今日さ一緒に帰らない?」


 突拍子もない言葉が出てしまった。


「……私、この後バイトなの。それに、ゆきくん部活じゃないの?」


 返答はしてくれたものの表情が見えない。


「あ、部活六時くらいに終わるからさ、その後、ちょっとだけとか……」


 また自分の発言に失敗してしまう。部活終わりとバイト終わりで一緒に帰る意味がない。

 訂正しようとすると。


「……バイト七時までだから、その終わりだったら……」


 思いがけない答えが返ってきた。


「え、あ、じゃあ部活終わったら、連絡するよ。バイト先って……」


「商店街のパン屋さん。そこで、七時に待ってる」


 そう言うとちーちゃんはほんの少しこっちを向いて恥ずかしそうに言った。その笑顔は心なしか表情が赤くなっていたような気もした。


 そして、そのまま校門へと向いて帰っていった。

 その後姿を直立不動で見続けることしかできなかった。今何が起きたのだろう。

 自分では夢の中だから、何でもやってやろうと息巻いていたのだが、実際何もできずに縮こまっていた。だが、焦り、口から出た言葉を受け入れてくれた。


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