掲示と手配

 聖騎士とも呼ばれる彼らは、この街における絶対的な権力を有している。彼らが悪だと断じれば、だいたいのことはその通りになってしまう。

 以前この街に訪れた際、盗人ぬすっとに間違えられた魔術師が捕らえられたのを目撃した。

 盗人は別の人物だったのだが、その後捕らえられた魔術師は戻っては来なかった。結局どうなったかもわからない。

 奴らは、それで正義面をして、街を悠然ゆうぜんと歩いている。それが一番気に入らない。

 

「やな奴らね」

 

 そうした過去を説明すると、カレンが同調するように言った。


「まあな」

 

 その通りすぎて、同意しかできない。それほどに彼らが嫌いだ。

 

 二人は通りに戻り、街の中央にむかって進む。宿屋探しのためだ。

 奥の方には背の高い時計塔が見えた。街を覆う壁と同じ真っ白な外壁をもつ。おそらく街の中心で、見張り台も兼ねているのだろう。

 とりあえずは、そこに向かって歩くことにする。

 そこで、ちょっとした人だかりを見つけた。

 

「あっ」

 

 カレンが興味をかれた様子で人だかりにむかう。

 やれやれと肩をすくめて、ロイスがその後ろに続いた。

 

 そこにあったのは、大きな掲示板だった。木製の、簡易的なものだが、掲示板の上部に教会の紋章が記されていることから見て、教会の知らせが貼られているのだというのはわかる。

 掲示板にはびっしりと似顔絵やら、告知やらの張り紙がされていた。

 文字を読めない者も多いのだろう。掲示板のそばで、読み上げる者もいる。

 この街の掲示板など初めて見たな。とロイスは思いながら、カレン同様に興味深く掲示板を眺めた。その時。

 

「あれ、ロイスじゃないの?」

「あ?」

「だからガラ悪いってもう」

 

 カレンが茶化すように笑いながらロイスをたしなめる。

 

 ──俺がなんだって?

 

 不快感を隠さずに掲示板に近づいたロイスは、掲示板をまじまじと見て、ギョッとして目を見張った。

 そこにあったのは、ロイスの似顔絵。明らかにロイスだとわかる鮮やかな夕焼け色の髪が描かれ、瞳の色まで正しく再現されている。

そして似顔絵の下部には、【指名手配】の文字。罪状は。


「詐欺、誘拐……」


──どういう……あ……。


 これ、レイの仕業だ。と、ロイスは直感で断じる。


──あいつ生きてたのか!


 まず最初にそう考えて。


──なんつーことしてくれたんだ!


 と次に考える。

 そして頭を抱えて数秒。


 やけに情報が早くないか? と首を傾げて顔をあげ、自らの手配書をまじまじと見つめた。


 今朝のことだ。ロイスとレイと魔王が三つ巴のような状態になったのも、ロイスがカレンを連れていることをレイが知ったのも。

 あの戦いは今朝のことだ。あのヨウラ村で、レイはロイスがカレンを連れているのを見て、誘拐だと言ったわけだし、この指名手配はその後に作られたのは間違いない。詐欺師扱いはよくわからないが。

 それにしては情報の伝達が早い。


──ヨウラ村からエヴンズベルトまではそれなりに距離があるはずだが……。


 思い浮かぶのは、勇者と行動していた魔術師の少女エスター。もしかしたら、ロイスが知らないだけで、情報伝達に長けた魔術を使えたのかもしれない。


 それにしても。


 ──指名手配ってなんだ! そんなことされたらどこの街にも入れないだろうが。だいたい、カレンは魔王の娘だぞ。知らないのか。あの騒ぎの中でその事実に気づかなかったってか? アホかあいつ。


 ロイスは一瞬頭痛を感じた気がして、眉間をつまんだ。

 あの阿呆勇者。と内心で毒付く。

 そうとう嫌われたらしい。これは厄介だ。

 それから道中ですれ違った商人のことを思い出す。妙に警戒した様子。それから突然エヴンズベルトに連れて行くといいだした、あの提案。

 これを知って懸賞金を得ようとしたのなら話は簡単だ。


──やっぱり、騙すつもりだったんじゃないか。


 カレンの言っていた、善意で連れて行ってあげようとしていたのでは。という問いが打ち砕かれたわけだ。

 あの時は、それを聞いて、世間知らずの馬鹿娘と思ったロイスだったが。


 ──なんだ。やっぱりそうじゃないか。


 少しだけ虚しい気がするのは、きっと気のせいだ。ロイスはそんなふうに自分に言い聞かせた。


 そこでロイスはハッとした。

 ここまではっきりと似顔絵が出されて、流石にそれを見つめている姿を見られたらまずい。比較されたら溜まった者じゃない。

 そう思って慌てて周囲を見渡すが、誰も彼も視線は掲示板に向いていて、まだ誰もロイスの存在には気付いていない様子。


 ──この街にも、長居はできないな……するつもりもなかったが。

 

 外套を翻して、ロイスは掲示板に背を向ける。その時だった。再び、カレンが「あっ」と声を上げた。

 何事かとカレンをみやると、視線はとある張り紙に向いている。

祭りの告知やら、色々とのっているが掲示板。その一角にいくつかの顔の似顔絵が載せられている。そこに、見覚えのある顔があった。


「レイ?」

 

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