第8話 トラウマ一気に解決せよ…てか?

「え?あ?え?あの、その、この…」

僕は、突然現れたヨアにびっくりし、めちゃくちゃバツが悪くて、まごまごした。

ヨアは、その南国的な浅黒い顔をじっと僕のほうに見上げ、僕をじいっと見つめている。

「さあ、さあ。あとは、お二人で、ごゆっくり~~♡」

とモエが、今までヨアが入っていたトイレの個室に入って、ドアを閉めてしまった。

ごゆっくり~とか言いながら、外に出ていかず、そこで話を聞くんかい?モエさんよ!


「え…、え…」

何を話していいのやら、と思ったが、僕は、頭の中を素早く整理した。

『えっと、ここは、僕が死んで送られた過去の世界で、しかも自分に都合よく話が進んでいくほとんどヴァーチャルな世界で、天の声の主が僕に過去の心残りを解決させようと仕組んだ結果で…』

こういう冷静な状況分析は、DC時代にはムリなことだ。僕は、酸いも甘いも噛み分けた、不惑のアラフォー男子なのである。

ヨアに言うべきことは、決まった。


「ご、ごめんっ!」

僕は、まずヨアに頭を下げて、平謝り。

「ぼ、僕は、本命の彼女というものがありながら、きみに色目を送って、ちょっかいをかけて、きみの心を惑わした…。本当に、ゴメンっ!」

僕は、しばらくの間、頭を120度の角度で下げ続けていた。

ヨアの返事は、無かった。かなり怒っているようだ。

しょうがない。僕は、心を決めると、頭を上げた。

「…え?」


目の前のヨアは、しかし、顔を赤らめて、ウットリとした穏やかな表情だった。

「ケイタくん~、どうして頭を下げてるの~?何を、謝ってるの~?」

ヨアが、可愛い声で口をとがらせ、尋ねてくる。

「いや…、だから、その…、浮気…」

とつぶやくと、ヨアが

「ケイタくんって、ミカさんのこと、好きなの?」

と言った。

「うッ」

そうだ、僕はミカのことが本当は好きじゃなくて、ミカが僕を好きだからその想いに答えるために好きだと装っていたのだ。先ほどモエによって、その僕の本当の気持ちが暴かれた。ヨアも、個室の中でそれを聞いていたはずだ。

「好き…じゃない」

その答えを聞いて、ヨアはものすごくうれしそうな表情をした。

「ということは、ケイタくんがわたしを見つめてきたのは、浮気じゃなくて、本気と言うことになるね?うれしいナ~~~ッ♡ケイタくん、わたしもケイタくんのこと、好きよ♡大好き~~~♡」


僕は、いや違う、本当はヨアのこと本当に好きかどうか分からないけど、ヨアが僕に好意を持ってくれたのでそれに答えようとして…という言葉を口にしかけ、しかし、それを思いとどまりその言葉をぐっと飲みこんだ。

すると、トイレの個室の中から、モエの言葉が響いた。

「ケイタくん、それは、本当の優しさじゃないんだよ?」

まるで僕の心の動きが見えているかのようにズバリと言ってくる、モエ。

そうだ。ここで僕の本当の気持ちを言わなければ、実人生の二の舞になるんだと僕は思い定めた。

「ごめん、ヨア。僕、ヨアのこと、本当に好きかどうか分からない。それじゃなぜ、ヨアのことを見たかというと、それは…、ヨアがみんなにとても注目されていて、とても人なつっこくて面白くて、とても可愛かったから」

僕は、はっきりと、ヨアに色目を送った時の気持ちを、白状した。


すると、個室のドアが開いてモエが出てきた。

「ヨアちゃん、よかったね」

と言って、ヨアの肩をポン!と叩き、ヨアはニンマリと微笑んでいる。

「え?なにが?」

僕はわけがわからず、ぼうぜん。ヨアは、ニヤニヤとニヤついて、なんだかすごい幸せそうな表情になっていて、そして言った。

「ケイタくんの本当の気持ち、わかったよ~。ケイタくん、ありがとね、教えてくれて♡わたしも、ケイタくんのこと、好きよ~~~♡」

え?え?いったい、何を言ってるんだ?僕は、ぽかんとしていた。


「じゃ、これで、一件落着ってことで」

とモエが言った時、とつぜん、大きな叫び声が女子トイレの中に響いた。

「ちょ、ちょっと~!わたし、は?わたしは、どうなるの?」

僕は、その声を聴いて、驚いた。その声は、ミカのものだったからだ。


ヨアが入っていた個室の隣りのドアが開き、中から、長身のすらっとした身体、胸もしっかりと膨らんでいるが、それはエロというより健康的に膨らんでいると言ったほうがよい、女子中学生らしい姿の、黒髪セミロングヘアの似合う美少女ミカが体操着短パン姿で現れた。

「え?あ?お?わ?い?う?え?お?」

僕は、まるで演劇部の発声練習のような声を出してしまった。

そりゃそうだ、僕の目の前には、いわゆる本命の彼女であるミカ、浮気して色目を送ってしまったヨアの2人が、いる。秘かに憧れていた超絶美少女のモエも、そこにいる。

モエは別としても、いわゆるこれは修羅場である。


モエが、めちゃくちゃニヤついて、僕ら3人を眺めている。ちくしょう!モエのやつ、なんてことをするんだよ?

「ね、ケイタくん、ミカにも言ってあげて。ケイタくんの本当の気持ちを」

ヨアも、僕とミカの様子をじっと見ている。

『しかたない。これは、過去のトラウマを一気に解決せよミッションなんだな?』

僕は、言った。

「ミカ、ごめん。僕、ミカのこと、実は好きじゃないんだ。それじゃ、なぜミカと恋人のような関係になっていたかというと…、ミカはすごい美少女で、男子のみんなが憧れていて、そんな可愛くて可愛くてたまらないミカを恋人にすれば鼻高々だと思ったからだ…。本当に、ゴメン!」


頭をうなだれているとき、モエがミカに近寄って

「ほら、分かったでしょ?ケイタくんの本当の気持ちが」

と言った。するとミカが

「ありがとね…、モエ。こんな場を作ってくれて…」

と言い、しくしくと泣き出した。

「本当に申し訳ない。ごめんなさい!」

と僕がさらに謝り、顔を上げると、ミカはなんだかめちゃくちゃうれしそうな表情で、僕をじいっと見つめていた。


「それで、2人とも、どうする?ケイタくんを奪い合う?」

モエが、ミカとヨアに、意味不明なことを言った。

ミカ、ヨアは、首を振った。

「たがいに、友だちとはいかないけど、良きライバルとして助け合っていけたら」

と2人は、何のライバルか知らないが互いに見合っていた。

ま、とにもかくにも、僕はやっと心に重荷になっていた過去のことを一気に解決することができた。ミッション、クリヤだった。

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