第6話 暴かれた僕のゲスな本性

2限目の始まりのチャイムが、鳴り響いた。

しかし、モエはまるで聞こえていないという感じ。サボる気まんまんである。まあ、僕としてもいきなり過去に飛ばされて右往左往だから、いきなり体育とかいわれてもウザいだけだし、都合いいかな?と思う。

こういった展開が僕には都合良すぎて、やはりここは意図して作られたヴァーチャル世界なのかなと思う。


「え…?手は出してないよ、プラトニックだよ?」

僕は、すぐに反論した。いや、ミカという本命の彼女がいながら、浮気をして

ヨアにちょっかいをかけたことは認めたんだから、反論になっていないか。

「ふ~~ん、そう、かなァ~?ヨアちゃんのようすからして、ぜったい、一線を越えてるって思ったんだけどォ~♡」

「…んなわけ、無いだろ?まだ中学生なんだし」

「ほんとかなァ~?じゃ、試しにあたしの頭を撫でてみて」

「へっ?」

僕は、思わずモエのショートヘアの似合う可愛い小さな頭を見た。


ごくっ。

僕は、学校一の超絶美少女を前に、少し息をのんでから、恐る恐るモエの頭に右手のひらを持っていき、そして触れた。

『ううーっ!可愛いなあーっ!』

僕は、思わず手のひらを動かし、その可愛い小さな頭を、なでなで、なでなで。なでなで、なでなで。なでなで、なでなで。なでなで、なでなで…。


ハッと気づくと、すぐ目の前のモエの可愛い顔が、笑顔満面で、にこにこ、にこにこ。にこにこ、にこにこ。にこにこ、にこにこ。にこにこ、にこにこ、していた。

「わッ!?」

と僕は驚き、手を引っ込めた。

「へへへ~~♡ケイタくん、女の子の頭を撫でるの、すっごい慣れてるぅ~~♡それに、撫でるの、超うまァ~~♡さすが、スケコマシの、プレイボーイの、ドン・ファンの、経験豊富なケイタくんだァ~~♡」

モエは、超ニヤついて、僕の顔をまじまじと眺めてる。

いや、僕が女子の頭を撫でるのに慣れてるのは、実人生で娘が泣き止まないとき頭をなでなでしてなだめていたからで。それに、モエは超可愛いし、その可愛いなあ可愛いなあという気持ちも、現れてのことだ。

これがリアルのDC(童心)中学生時代だったら、僕は、まったく慣れていないし、幼い未熟さと恥ずかしさが先に立って、優しく撫でる余裕もなかっただろう。

それに、実人生では当然、僕は女子と一線を越えた経験を持っている。結婚し、家庭を持っていたんだから。


「い、い、言っとくけど、僕は、ヨアには手は出してない」

僕は、重ねて弁解した。

「うん…、まあ、ヨアちゃんには手は出してないみたいだね…。それは、認めるよ。でも、ミカさんを裏切ったことは認めるんだ?」

「うっ…、ううう…」

裏切った、という言葉が、僕の胸にぐさりと突き刺さる。相思相愛のかけがえのない本命の彼女を、なぜいとも簡単に裏切るような行動(ヨアに色目を送り、ヨアの心を惑わせ、ヨアを恋に落ちさせた)をしてしまったのだろうか、僕は。

いや、理由は、自分で既に分かっている。モエに指摘された通り、僕は、持って生まれた浮気症なのである。女子ひとりじゃ満足できない、どうしようもないゲスな性癖が、僕の本性なのであった。


「ケイタくん、ミカさんのこと、本当は好きじゃないでしょ?」

モエの次の言葉に、僕は、先ほどのモエの言葉の突き刺さった自分の心の深度を更新して、さらに深いところをぐぐぐっとえぐられたような何とも言えない気持ちになった。

返す言葉を失った僕を、モエは、大きな胸をぐぐっと前に突き出してじっと見つめ

「ケイタくんは、美少女から好かれていることを知って、ウキウキになって、鼻高々になって、どうだ、僕はこんなもんじゃい!みたいな気持ちになって、それでミカさんと付き合ってたんでしょ?」

とズバリ、僕の心の深層を暴いてしまった。

そう、中学を卒業した後、ミカと音信不通になったというのは、じつは連絡を取ろうとすれば家に電話をかければいいだけで。いくらヤスオたちが監視しているとはいっても、電話までは盗聴されないだろうし。(実人生の僕の40歳代のころなら、科学が発達して盗聴器を仕掛けることがすごく容易になってしまったが)

けっきょく、僕は、高校時代、大学時代と次々に巡り合っていく女子たちにうつつを抜かし、本気で好きではなかったミカのことが記憶から薄らいでいたのである。


「う~ん、でも、ケイタくんにはもう1つ、思いがあるのよね?なんというか、優しすぎるというか、女子から好かれていると分かると、その女子を悲しませたくない、答えてあげなくちゃいけないと思いすぎて、それで自分の本当の気持ち…本当は好きでもないのに好きだと自分にウソをついて、女子の想いに答えていたんでしょ?」

じつは、それも正解であった。

「ケイタくん…、それって、本当の優しさじゃないって、気づいてる?女子の想いに答えることは、結果として、女子の心を傷つけることになるってこと、知ってる?」

僕は、頭を垂れた。

「…知ってる」

「うん…、知ってたんだ…。でも、あたし、そんなケイタくんの気持ち、よく分かるよ?だって、あたしもおんなじだし~~♡」

え?


「あたしの状況、知ってるでしょ?男子たちからちやほやされて、女子たちからも崇められて、あたし、正直、逃げ出したい…。でも、みんながあたしを慕ってくれるから、その想いに答えなくちゃと思ったりするし。それに、女王様でいるのも、悪くないしね?おかげで、番長からも一目置かれて、とりあえず身の安全…彼氏も含めてね、それは守れてるし」

「モエちゃん、彼氏、いるんだ…」

「うん。5人くらい、いるよ。でも、ケイタくんと同じで、5人とも本気じゃないんだ…。告白されて、ハンサムだし、ま、いいかと思って、ね…」

…って、5人も彼氏、いるのかよ?さすが、女王様だ。


「ケイタくん、ヨアちゃんとのいきさつ、教えて欲しいなァ~♡」

「え?なんで、きみにそんなこと言わなくちゃいけないんだよ?」

「だって~、あたし、ヨアちゃんとは友だちだから…。恋の相談…、つまりケイタくんとの事ね?それに乗ってあげてるし」

モエとヨアが友だち関係であることは、僕も知っている。この中2の前年、中1の時、僕のクラスに、モエとヨアがいたからだ。

2人は、肌の色が対照的で、モエが透き通るような白い肌なのに対し、ヨアは南国的な小麦色の肌だった。そんな美少女の2人がつるんで歩いているのを、みな<白黒コンビ>と呼んでいた。

自分が犯した過ちを他人に話すのは、勇気が要る。

しかし、これもあの天の声の主が僕に課した、過去の人生振り返りイベントの一環なのだろう。僕は重い口を、押し開くことにした。

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