第5話 僕のトラウマ過去その1

僕のキャラは、平平凡凡。つまり、可もなく不可もない。

そう、不可が無いのである。だから、中学生時代、相思相愛の間柄の女子が、いた。

ただし、それが1名でなく、2名という…。


その2名のうちの1名は、2年A組に在籍している、ミカという名の女子。

もう1名は、2年C組に在籍している、ヨアという名の女子。

2人とも、この2学年のいわゆるビッグ5美少女のうちの2人である。


ミカとは、保育園児のころからの知り合い。

ただ、自分にまとわりついていたという印象はなく、僕はミカの存在にほとんど気づかなかった。しかしミカの保育園児時代からの同性の友人たちは、僕とミカがよく一緒に遊んでいた、すごく仲が良かったと口をそろえて言う。

ちなみに、僕は保育園児だったころ、なぜか知らないが数人の女子たちと一緒によく遊んでいた記憶がある。当時は、男女はたとえ幼くても一緒に居てはいけないという古いしきたりが残っていて、僕も幼心で、女子と遊ぶなんてちょっとまずいんじゃ?と思ったりしていたわけだが。その女子たちの中に、どうやらミカが居たらしい。

後でミカが僕に言っていたのは

「保育園児のころのケイタくん、女子にすごく優しくて、女子たちからモテモテだったんだよ?」

という話。僕には、まるでそんな記憶がない。


それから数年が経ち、小5の時、ミカと偶然、接点があった。校内スポーツ大会みたいな行事があって、僕とミカが、偶然、走り幅跳びという同じ種目で、大会前に十日間くらい放課後に合同練習をしたときに再会した。

ミカは、そのころから美少女の気配を漂わせ、同学年の男子たちの間で話題に上るようになっていた。

バッタリ顔を合わせた時、ミカが驚き、そしてすごく懐かしそうな顔をした。

「ケイタくん…、ひさしぶり…」

しかし僕は、ミカのことを完全に忘れていたので、え?この美少女、僕の知り合いだったっけ?とびっくりした。

「保育園で一緒だった…」

というミカの言葉を頼りに、僕は保育園のアルバムを探し、見つけて調べてみると、あったあった。

なんと?僕のすぐ隣に引っ付くように、写真に納まっていたのがミカだった。

もちろん、アルバムの中のミカの姿を見ても、まるで記憶にない女子である。アルバムの写真の脇に、映っている人物の名前が全部記されていたので、分かった。


僕は、正直、喜んだ。こんな美少女と自分が、旧知の間柄だったとは。

そのとき以後、ミカはしきりに僕に近づこうと努め、小5から始まった部活動で僕と同じ部に入って共に時間を過ごしたり、僕の下校するのを下足室で待っていて一緒に下校するようになった。

小6になると互いにクラス活動が忙しくなり、少し疎遠になったが、中学生になると僕とミカは再び親しい付き合いを再開した。

一緒に校内活動をするとか下校するとか、あるいは校外でデートするとかは、ある事情があり叶わなかったが、いちおう告白もし合い、校内で互いに顔を合わせるたびに目と目でコンタクトを取り合う間柄になっていた。

なぜ、ミカと本格的に付き合う間柄に進展しなかったのか?


じつは、この3年間の中学生生活は、学校の教師たちはまったく知らないが、僕とミカが卒業した小学校とは別の小学校の出身である4人組の男子とその傘下の暴力組織により、毎日が生き地獄の様相を呈していた。

学校内の隅々はもちろん、通学路や、校区内の主だった道路や公園、施設は、すべて彼らとその傘下の連中たちにより、厳しく監視されていた。

「男女のカップルがいる」

という情報が彼らのもとに届くと、カップルは強制的に別れさせられ、男子は4人組のサンドバッグにされ、女子は4人組の慰みものにされてしまうのである。


僕は、その4人組のリーダー格であるヤスオの、事実上のパシリだった。僕の父親が、ヤスオの父親が経営する会社の平社員で。

「おい、ケイタ。俺の言うことを聞かなかったら、おまえの親父、クビにするぞ?」

などと脅されていた。

僕は、ミカに難が及ぶのを怖れて、ミカとの関係を極力隠し、目で見つめ合うだけにとどめていた。


実人生で中3になると、ヤスオの組織が強大化し、他校も巻き込んでその市全域を覆いつくすようになった。受験勉強という口実もあって、僕とミカはほとんど接点がなくなり、疎遠になった。

そして、高校進学の時、僕は、ヤスオの力が及ばない場所、つまり他の市の高校へと逃げてしまった。ミカは、ヤスオの力が及ぶ地元の市の高校に進学した。

結果、僕とヤスオの悪縁は、日常の接点が少なくなったことで薄れた。

ミカのことが心配だったが、ま、どうせ地元にとどまっても、ミカとは会うことも出来なかっただろう。


けっきょく、ミカとはその後も連絡を取れず、互いに音信不通になっていった。

地元の市で行われた成人式にも、僕は、出席しなかった。どうせ、ヤスオらが仕切っているからであった。

30歳のころ、中学の学年同窓会を開くという連絡があったが、僕は、無視した。人から聞いたことだが、その同窓会ではヤスオがお山の大将で、女子たち(ビッグ5、つまりミカも恐らく含まれていた?)をはべらせハーレムのようにしていたという。ヤスオは、同学年の女子たちがすでに人妻になっているのも構わず、手籠てごめにしていたという嫌なうわさも耳にした。


*****回想、終わり*****


「あ、あいつらの目があるから…」

僕は、モエに、ミカとの仲を進展させずに放置しているその言いわけを、した。

すると、モエが

「ええっ?そんなの、関係ないじゃんっ!」

と甘えるような語尾から一転して、きつい言い方で叫んだ。

モエの大きな声に、僕は、ビクッと周りを見渡し

「こ、声が、大きいよ…」

と言った。

するとモエが

「この校舎、B棟は、だいじょうぶだよ?幽霊が出るしね?番長、怖がりだし」

と言い、声を低めて

「その幽霊話は、あたしが流した、真っ赤なウソだよォ~~♡」

と再び語尾を甘くしてささやいてきた。


驚く僕に、モエは再び顔をきっと引き締め

「番長が居るからって、関係ないじゃん。恋は、障害があるほど燃えるというし、ね?」

と言い、そして

「ケイタくんって、もしかすると、一人じゃ満足できないんでしょ?だから、ヨアちゃんに手を出しちゃったんだよね?」

と、言った。

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