瓦礫の舞台、雀と。

天石蓮

瓦礫の舞台の上で少しお喋りを

その世界は唐突に悪魔に侵略された。

悪魔に襲われない様に人間たちは必死に逃げて、地下に潜り込んで、悪魔の囁き声にガタガタ震えていた。

そんなある日、ガタガタ震えるしかなかった人間たちは見つけた。

悪魔に対抗する手段を。

それは、

心のこもったパフォーマンスだった。

心のこもった歌と踊りは悪魔を遠ざけた。

人間たちは地下から這い上がった。

歌と踊りを武器に。

そして、ビルとビルとビルを折り重ねた様な、一本の大木の様な小さな人間に国を作った。

その国の至る所には、パネルが貼られた。

壁一面、床一杯、何処にでも。

四六時中、パネルから鮮やかなネオンの光が、人間たちの強い想いがこもった音楽が絶えず溢れだし、うるさい環境を作り出していた。

だけど、年々、パネルから溢れ出す音は変わっていった。

パネルから溢れ出す音は皆、同じ音。


何でそうなったのか。

それは、

一人で百人力のパフォーマンスをする人が現れたから。


皆、崇める。その人物たちを。

その人物たちのパフォーマンスは、悪魔だけに留まらず、人間たちをも魅了する。

人間たちはこのパフォーマンスが永遠に続くように、その人物たちを安全な奥地で、最高で完璧な舞台の上に縛り付けた。

そして、逃げ出さない様に、人間たちは看守の様に、舞台を囲んで見張っていた。

だから、

最高で素晴らしいパフォーマンスをする人物を否定する事は許されない事。

最高で人間たちに安心を与えるパフォーマンスをする人物の歌が届く範囲は安全な場所だから、範囲外に出るのは危険な事。




「馬鹿馬鹿しい~実に哀れ、憐れ!かわいそう!世界はもっと広いのに!」

一人の少女は歌うようにそんな言葉を口にする。

その少女の腕からは血が僅かに滲んでいた。

しかし、気にする様子もなく、鮮やかな腰まである赤髪を揺らして、安全な奥地から離れた場所へと向かう。



私は瓦礫ばっかりの場所へと足を向ける。

いや、私にとっては瓦礫じゃない。

私にとっては最高の舞台なの。

あーんな、キラキラゴテゴテ、煌びやか過ぎて、舞台に落ちる僅かな影がびっくりするぐらい暗くて、黒い、奥地のあの舞台なんかより素敵なの。

磨けば、あれだってそれだって、もっと素敵なのに、みーんな知らない。

知ろうとしない。

それに、いつまで安心安全な奥地にこもってるんだか。

外にでないと。

青空を見ないと。

悪魔をもっと退けないと。

退けるだけじゃなくて、倒す、滅する方法を見つけないと。

いつまでも、いつまでも。

ちっぽけな、一瞬の、僅かな、安心を与える歌に、踊りに酔いしれているわけにはいかない。

「あーあ。そういう事を言うと皆、怒るんだよね。怒るだけならまだしも、暴力にはしるのは無しだよねー、あぁ、マジで哀れな人間たち~」

私は瓦礫の舞台の上に寝そべり、視線だけはアレに合わせる。

「チチッ」

アレ、こと、雀が可愛らしい声で鳴いて、寝そべる私から少し離れた場所に降りる。

「ねぇ、酷くない?この腕を見てよ、雀さん。同じ人間なのに石とか投げてきたんだよ?そのせいで私の腕、傷ついちゃった。一歩間違えたらあっちの方が悪魔だよ」

腕から滲む血も、自分の腰まである赤髪も同じような色だなーって思った。

なんか、面白いな。

なんでかは、わからないけど。

雀はじっとコチラを見たと思えば、テチテチと歩き、その辺の瓦礫をつつく。

私は立ち上がる。

雀はびっくりしてちょっと離れた場所へと飛ぶ。

チカチカ、マゼンタカラーに点滅するパネルの上に降り立つ。

マゼンタカラー、好きだな、私。

たんったたんっと、チカチカ点滅するパネルの上でステップを踏めば、まるで私の足の動きに合わせた様にパネルが点滅する。

楽しい、楽しいな。

見てみれば、雀がシアンカラーのパネルの上にいる。

可愛い。水溜まりの上にいるみたい。

「ふふ、ふふふ」

笑顔になる。気分がとても良い。

「世界の全ては、こんなちっぽけなビルとビルとビルを折り重ねたこの国じゃないのにね。むしろ、外の、悪魔が蔓延るアチラこそ世界の全て。血濡れたモノの奥に隠されたモノは?悪魔が破壊したモノの下にうずくまっているのは?悪魔の・・・腹の中に囚われたモノは?何だろうね?」

歌うように、シアンカラーのパネルの上で跳ねる雀に聞いてみる。

「ピチッ」

雀が鳴いた。

そんな時だった。

瓦礫の上に置きっぱなしの携帯端末から音が溢れ出す。

ギラギラの希望を詰め込んだ音。

「闇は光で征すって感じだね、まぁ、否定はしないけどさ、いっつも、そればっかりじゃあねぇ・・・」

バキッ

硝子が砕ける音。

私はその瞬間に、携帯端末からの音を消していた。


ここは、安心安全な奥地から離れた、捨てられた場所。

瓦礫と瓦礫の向こう側。

暗闇の中に血濡れた瞳が・・・

「いち、にぃ、さん、し・・・」

4つ。

「雀さん、またね。また、お喋りしよう。私が生きてたら・・・ま、死ぬつもりはないけどね。こんな所で。どうせ死ぬなら外の世界で死にたいね」

私は雀に近寄る。

雀は無垢・・・な感じの艶々の黒い瞳で私を見た。

「チチッ」

そう鳴くと、飛び上がる。

壁一面のパネルを背景に飛んでいく。

一面、シアンカラーのパネルを背景に。

「ふふ、青空の中を飛んでるみたい。素敵だね、雀さん」

がしゃん

またもや硝子の割れる音。

砕け散った硝子がマゼンタカラーのパネルの上に散る。

なんだか血飛沫みたい。

「黒は、闇は、何でも飲み込んじゃうよね。なら、光で闇を征すだけじゃなくて、闇は闇で・・・征する事も出来るかもだよね」


私は瓦礫の舞台の上に降り立つ。

「さぁさぁ、始めようか。悪魔に裁きの鉄槌の歌を!」

そして、奥地の処刑台みたいな舞台で歌い、踊る人たちにすがり続ける人間たちには哀れみの歌を。

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瓦礫の舞台、雀と。 天石蓮 @56komatuna

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