25.英雄を受け継いだ者

 そうだ。

 俺は負けられない。

 英雄たちの過去を、力を受け継いだ俺に敗北は許されない。

 何よりも、俺の後ろには彼女たちがいるんだ。

 倒れてなるものか。

 まだ動く、目も見えるし声も出る。

 振り絞れ――最後の一滴には遠いぞ!


 剣が生まれる。

 剣の加護ではない。

 剣聖の加護によって、一振りの剣が呼び出された。

 それは名もなき聖剣。

 最強の剣士にのみ与えられる……あらゆる剣の頂点。


「ソ、ソレハ!」


 その剣をみた途端、ロードは血相を変えて突っ込んでくる。

 大きく斧を振り上げ、俺目掛けて振り下ろす。

 だが、そんなことは関係ない。

 俺の持つ剣は、あらゆるものを斬り裂く最強の刃。

 たった一振りさえできれば、斧だろうと強靭な肉体だろうと、容易く両断する。


「終わりだ!」


 俺は叫んだ。

 勝利を掴み、守るために。

 その想いに応えるように聖剣は光り輝き、小さき悪魔の王を切り裂いた。


「バカ……ナ」


 聖剣で胴体を真っ二つに切り裂かれたロード。

 崩れ落ち、倒れ込みながら俺を睨む。

 この状態で即死しないのは大したものだが、時間の問題だろう。

 流れ出る血が、肉体の消滅へのカウントダウンを告げている。


「アリエ……ナイ! ニンゲンニワレガマケルナド」

「はぁ、はぁ……生憎だけど」


 俺は切っ先を向けロードに言う。

 勝利者として、敗者にその栄光を見せつけるために。


「俺はただの人間じゃない。数多の英雄を受け継いだ男だ」

「エイユウダト?」

「ああ。お前が相手にしていたのは、伝説そのものだってことだよ」


 故に敵うはずがない。

 負けることなどあってはならない。

 俺は自分に言い聞かせるように、言葉を胸に刻んだ。


 そして、ロードは消滅する。

 王が倒されたことで、ゴブリンたちは慌てふためき出す。

 統率者を失ったことで、自分たちがどうするべきかもわからなくなっていた。

 俺は最後の力を振り絞り、聖剣を高く上げる。


「降れ!」


 剣の加護で剣を生成。

 雨のように降らせ、ゴブリンとの間に境界線を敷く。

 これより先は死地。

 踏み入るなら死が待っている。

 そう伝えるための線であり、ゴブリンたちへの警告。

 これを受けたゴブリンたちは、尻尾をまいて逃げ出した。

 勝てないと悟ったのだろう。

 実際はやせ我慢で、立っているのも限界だと知らずに。


「終わった……な」


 意識が薄れていく。

 ゴブリンがいなくなったことで、張っていた気力も尽きた。

 全身を襲う疲労感で、俺の意識は闇に沈んでいく。


 そうして――


「やぁ、久しぶりだね」


 深層心理の夢の中。

 俺は彼と再会を果たした。

 六人の英雄最後の一人にして、俺に継承スキルを与えた男。

 【幻魔】――ローウェン。


「やっぱり……」

「ん?」

「いたんだな。俺の中に」

「そうだとも。あの日、あの瞬間、私の意識は君の奥底に入り込んだ。こうして会って、話せるようにね」


 ローウェンは笑う。

 まったく掴みどころのない男だ。

 彼らの記憶の中でも、ローウェンは出てきている。

 だからなのか、以前とは少し違って視点で彼を見ている。


「で、何で今さら出てきたんだ?」

「う~ん、機が熟したからかな? いいや、今だからとだけ言っておこう」

「何だそれ」

「今はわからなくていい。私は伝えたいのは一言だけ……君はいずれ、もっと大きな存在と戦うことになる」


 突然、ローウェンはそんな言葉を口にした。

 流れもなく、突拍子もない発言だったけど、俺は驚かなかった。

 不思議なことに、そうなのだろうと納得していたから。


「ロードは予兆でしかない。いつになるかわからない。だが、必ずその日は来る」

「だから、俺に継承をくれたのか?」

「そうだが、そうでないとも言える。あれは君が選んだもので、私が導いたわけではないからね」

「……要するに、そういう運命だったってことか?」


 ローウェンは頷く。


「だったら、突き進むしかないよな」

「その通りだ。君は進むしかない。私たちは、それを少しだけ後押ししよう」

「少しなんて謙遜だ。皆のお陰で、俺はこうして戦えた。本当に感謝している」

「そうか。なら、きっとこれが最善なのだろうね」


 ローウェンはまた笑う。

 さっきと違う気の抜けた笑顔だった。


「期待してるよ。君の未来を」


 夢から覚める。

 俺の意識は、水面へと押し出される。

 ローウェンの言う通り、俺はこれから何かと戦うことになるんだろう。

 もっと強大で、恐ろしい何か。

 想像すらできない相手が、いつか必ず目の前に現れる。


「ぅ……」


 目が覚めた俺の視界には、泣きそうな三人の顔が入り込んできた。

 どうやらロードを倒した後、しばらく意識を失っていたらしい。

 心配する彼女たちに、俺は微笑んで言う。


「ただいま」


 戦いの日は近いのかもしれない。

 だけどまぁ、何にしろ……俺のやることは変わらない。

 いつか来るその日まで、他愛もない日常を守っていこう。

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【WEB版】この冒険者、人類史最強です ~外れスキル『鑑定』が『継承』に覚醒したので、数多の英雄たちの力を受け継ぎ無双する~ 日之影ソラ @hinokagesora

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