12.新しい仲間たち

 朝食を済ませた俺たちは、宿屋を出てギルド会館に向っていた。


「今晩はボクがお兄さんと同じ部屋で寝る。アリアがまた迷惑かけると良くない」

「駄目だよ。マナは一人で起きれないでしょ」

「そうね。まず一人で起きれるようになってからよ」

「……二人とも敵だ」


 後ろで三人が話している内容を、出来るだけ聞こえないフリをして歩く。

 どうやら窮地を救ったことで、彼女たちに好かれているようだ。

 嬉しい反面、どうしていいのかわからない自分がいる。

 そもそも彼女たちの年齢は?

 確実に年下だろうけど、十近く離れていたら白い目で見られるんじゃ……

 今度さりげなく聞いてみよう。


 ギルド会館への道順は、昨日の時点で調べてある。

 というのも、馬車を返却したとき、偶々見つけていたんだ。

 宿屋を出て道なりに進むと、噴水がある広場に出る。

 待ち合わせにはピッタリな場所を超えると、他の建物より横に長いレンガ造りの建物が見えてくる。

 そこがレガリアのギルド会館。

 大きさだけで、レスタの三倍はあると思う。

 

「大きい……」

「さすが冒険者の街ですね」

「豪華すぎて、逆に入りづらいかも」

「ははっ、確かにそうだね」


 でも、入り口前で突っ立っているのるわけにもいかない。

 他にも冒険者たちが中へ入っているし、俺たちも冒険者なんだ。

 堂々としていれば良い。


「行こうか」


 そう思って、俺は先陣を切る。

 俺を見てから、彼女たちも後に続く。


 中は意外と普通だった。 

 というより、俺たちが知っているギルド会館の内部を、ただ広くしただけって感じだ。

 他と違うのは見た目だけで、中は普通のギルド会館の景色。

 少しほっとする。


「おはようございます。本日はどのようなご用件ですか?」

「この街を活動拠点にしたいので、登録をしていただけませんか?」

「拠点登録ですね。冒険者カードをご提示ください」

「はい」

 

 俺は冒険者カードを受付嬢に見せる。

 続けて、後ろの三人も自分のカードを見せて、冒険者であることを証明した。

 確認した受付嬢が言う。


「確認いたしました。四名のパーティーでご登録すればよろしいですか?」

「あ、いえ、俺は一人なんですけど」


 俺がそう答えると、受付嬢は困ったような表情を見せる。


「ソロは駄目だったりするんですか?」

「いえ、登録は可能です。ですが、この街での依頼のほとんどが、パーティー限定ですので、あまりソロでの活動を推奨できないんです」

「そうなんですね」


 知らなかった。

 レスタではなかったけど、そんなこともあるんだな。


「ですので、どこかのパーティーに所属することをお勧めします」

「なるほど。でもなぁ……」


 パーティーと聞くと、どうしても彼らのことが頭に浮かぶ。

 しばらく一人で活動するつもりだったのに、どうしたものか。

 考えていると、後ろから彼女たちが声をかけてくる。


「あの!」

「ん?」


 俺が振り向くと、三人がまっすぐ俺の顔を見つめていた。

 意を決するように、アリアが言う。


「もしよければ、私たちのパーティーに入ってくれませんか?」


 それは突然のお誘いだった。

 俺は少し驚いた。

 ただ何となく、彼女たちならそう言うんじゃないかと予感もしていて。

 中途半端な反応になってしまう。


「君たちのパーティーに?」

「はい」


 わかりきった質問をして、考える時間を稼ぐ。

 彼女たちは冒険者になったばかりだと言っていたし、おそらく最低ランクだろう。

 パーティーにはランクという制度がある。

 一番下がF、最上位がSSSランク。

 ランクはギルドへの貢献度や、実力などを加味され、定期的にギルドが審査し昇降が決まる。

 また、パーティーのランクによって受けられるクエストが違ったり、報酬に差があったりもする。

 基本的に結成して間もないパーティーは、最低のFランクが付けられる。


「やっぱり駄目……ですか?」


 考えていると、アリアが悲しそうな顔で訪ねてきた。

 彼女は続けて言う。


「Fランクパーティーの私たちじゃ、ユースさんみたいには合わないですよね」


 強い人。

 その言葉に、俺の心が激しく震えていた。

 今までにない感覚だ。

 たった一言だけど、今まで言われたことのない言葉だった。

 同時に、誰かに言ってほしかった言葉でもある。

 この瞬間、俺の中で何かが動いて、ガチっとハマったように思う。


「あの、無理なら私たち――」

「良いよ」

「へっ?」

「俺で良ければ、君たちのパーティーに入れてほしい」


 俺は出来る限り優しい笑顔で、彼女たちにそう答えた。

 彼女たちは時が止まったようにピタリと固まる。

 断られると思っていて、驚いているのだろうか。


 ランクとかで選んだわけじゃない。

 ましてや、可愛い女の子たちだからでもない。

 ただ……俺のことを褒めてくれて、うれしかったからっていう単純な理由だ……と思う。

 自分でもよくわからない。


「良いんですか?」

「ああ」


 他に理由をつけるなら、彼女たち以外の知り合いがいないから、とか。

 考えればいくつか浮かびそうだ。

 ともかく俺は、彼女たちと冒険がしてみたいと思った。

 純粋な目で俺を見つめてくれる彼女たちなら、きっと裏切ったりもしないだろう。

 もう一度だけ、誰かを信じてみようと思う。

 彼女たちで駄目なら、俺は一人で生きていくだけだ。


「これからよろしく」

「はい!」

「こちらこそ」

「よろしくお願いします」


 三人は深々と頭を下げた。

 周りの冒険者も、受付の人も困った顔で見ている。

 そういえば、手続きの途中で話し始めてしまったんだっけ?

 そんなことはお構いなしに、俺も丁寧にお辞儀をした。

 

 しばらくの間、俺たちのことは『お辞儀パーティー』なんて呼ばれていたよ。

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