8.冒険者の街レガリア

 倒れた馬車から荷物を運び出す。

 ゴブリンの襲撃で、車輪が破損していたから、もう使うことは出来ない。

 道の邪魔にならないように燃やして、残った部分は土に埋める。

 死んでしまった馬は、近くの木陰へ埋葬した。

 三人は申し訳なさそうに合掌していた。


「三人もレガリアを目指してるんだよね? 俺もそうだから、良ければ一緒に行かないか?」

「良いんですか?」

「ああ。一人分の荷物しかないから、荷台も空いてるし。三人くらいなら乗せられるよ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 アリアは嬉しそうにほほ笑む。

 純粋な目で見つめられると、少し恥ずかしいな。

 そんなことを感じながら、俺は彼女たちの荷物運びを手伝い、馬車に乗り込む。

 運転席に俺とアリアが座り、荷台の余った座席にティアとマナが腰掛ける。

 全員が乗ったことを確認してから、馬に鞭を打って出発する。


「あの、ユースさんはどこの街から来たんですか?」

「俺か? 俺はレストって街だよ」

「レストってここより西の街ですよね。結構遠かったと思うんですけど、どうしてわざわざ?」

「う~ん、色々あってね。拠点を移そうかなって思ったんだよ」


 そう言いながら、彼らのことを思い出す。

 今頃、新しい仲間と楽しくやっているのかな。

 まぁ今更どうでも良いのだけど。


「そういう君たちは?」

「私たちは、マードっていう隣の町から来たんです」


 マードか。

 確かレストとレガリアの中間くらいにある小さな町だったな。

 以前にクエストの一環で訪れたことがある。

 のどかな町で、とても居心地が良かった。


「生まれもマードなの?」

「はい」

「三人とも?」

「はい!」

「なるほど、幼馴染ってやつか。良いね」


 少し羨ましいと思った。

 俺はこの辺りの出身じゃないし、辺境の小さな村だったから、同年代の友達もいなかった。

 冒険者になるためにレイスへ来た時も、めちゃくちゃ心細かったのを覚えている。


「それで、君たちはどうして?」

「えっと、マードも良い所だったんですけど、小さな町だから冒険者への依頼も少なくて。冒険者として活動するには、やりにくかったんです」

「あぁ~ そういう理由か」

「はい。だから皆で話し合って、レガリアに移住しようって決めたんです」

「なるほど。確かにレガリアなら、活動しやすいだろうね。何せ冒険者の街って呼ばれてるくらいだから」

 

 そうこう話していると、ガラド大森林の出口が見えてきた。

 ここを抜ければ、目の前にレガリアの街が見える。

 石の壁に囲われ、大きな門が聳え立つ。

 壁の向こう側から、高い建物が少しだけ見えている。

 レガリアは、世界で三番目に大きな街であり、世界で最も冒険者人口の多い街でもある。

 周囲を様々な地形に囲まれたこの場所は、経験を積むにはもってこい。

 だから、多くの人たちが冒険者の街と呼んでいた。


「見えてきましたよ!」

「ああ」


 森を抜け、レガリアの入り口が顔を出す。

 大きな門は、近づくほど存在感を増していく。


「着いたよ! 二人ともって寝てる?」

「ん? あぁ、道理で静かだと思ったよ」


 後ろを振り向くと、ティアとマナが肩を寄せ合って眠っていた。

 決して乗り心地の良くない馬車で眠るなんて、相当疲労が溜まっていたのだろう。

 俺とアリアは顔を合わせて話す。


「このまま寝かせておこうか」

「そうですね」


 着いたからといって、無理に起こすこともない。

 入場手続きもあることだし、今はそっとしておこう。


「君は大丈夫なの?」

「はい! ユースさんに回復してもらったので元気です!」


 いや、ヒールに疲労回復の効果はないんだけど……

 まぁでも、確かにとても元気そうだ。

 それに誰か一人は起きてくれていないと、手続きも出来ないしね。


 そうして俺たちは、レガリアの門前へと移動した。

 門番が待っていて、身元を確認したり、不審な荷がないかチェックする。

 身元の確認には、ギルドから発行される冒険者カードが有効だ。

 五分ほどでチェックが終わり、入場許可証が発行される。


「よし、入っていいぞ」

「どうも」

「ありがとうございます」


 馬車を再発進させ、門を潜れば街並みが見える。

 レスタとは全然違う景色に、俺は思わず感動してしまった。

 まず建物が高い。

 どれも立派だし、おしゃれな物が多い。

 そして何より、人の数が桁違いだ。

 お祭りでもあるんじゃないかと思うくらい、たくさんの人が行きかっている。


「凄い賑わいですね」

「ああ。初めて来たけど、噂以上だな」

 

 馬車をゆっくり走らす。

 通行人の中には、冒険者らしき服装の集団もチラホラ見受けられる。


「このままギルドに行きますか?」

「いや、もう時間的に遅いし、先に宿を探そう。馬車も早く返したいしね」

「わかりました」


 それから三十分くらいかけて街中を移動した。

 宿屋を探しながら、ちょっとゆっくり目に。

 すでにいくつか見つけてはいるのだけど、どこも部屋が空いてないらしい。

 さすが冒険者の街だ。


「次で四軒目ですね」

「ああ。そろそろ決めたいよ」


 見つけた宿は、四階建ての白い建物だった。

 他と比べて少し高そうだけど、この際どこでも良いと思い始めている。

 俺とアリアは馬車から降りて、宿屋の中へ入る。

 扉を開けると、目の前に受付があって、女性が座っていた。


「すみません。部屋って空いてますか?」

「何名様でしょうか?」

「一人と三人なので、二部屋あれば」

「はい、二部屋ですね。二人部屋を二室であれば、今すぐご案内できますが」

「二人部屋か……」


 できれば三人部屋とかがあれば良かったな。

 二人部屋に三人はちょっと狭いだろ。

 かといって、他の宿屋も空いていないだろうし。


「どうしようか?」

「えっと……私は良いですよ。ユースさんと一緒の部屋でも」

「そっか、じゃあ二人部屋を二つで――ん?」


 ちょっと待て?

 今、何だかよくない言葉が聞こえたような……


「かしこまりました。準備してまいりますので、少々お待ちください」

「え、ちょっ!」


 引き留めようとしたけど、ひと声遅かったようだ。

 受付のお姉さんは奥に消えてしまう。

 二人だけになった俺たちは、何ともいえない空気の中にいた。

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