7.新米パーティー

 スキル【魔法弓】。

 自身の魔力で光の弓を生成するスキル。

 左手は弓、右手は矢を生み出せる。

 弓と矢はそれぞれに性質が調整できて、連射したり、射程距離を伸ばしたりも出来る。

 ただしその場合、威力が下がったりするデメリットも生じる。


 スキル【飛翔】+【月歩】

 どちらも空中を移動するスキル。

 違いは、飛翔が空を飛ぶのに対して、月歩は空を蹴るというもの。

 剣聖から継承したスキルの一つ。


 この三つのスキルを使い、ゴブリンを上空から奇襲した。


「なっ、何?」

「上!」


 彼女たちが曇天の空を見上げている。

 矢を降らせた俺は、そのまま彼女たちの前に降り立つ。

 ゴブリンは警戒し、彼女たちは驚き目を見開く。

 俺は背を向けたまま、首だけ軽く後ろが見えるように回して言う。


「大丈夫かい?」

「え……っと」

「後のことは俺に任せて。君たちは手当てを優先してくれ」

「は、はい!」


 剣士の少女は混乱しながら、雨の音に負けない大きな声で返事をした。

 出血している様子だけど、その元気があるなら大丈夫だろう。

 俺は小さく微笑み、前を向く。


「さてと」


 さっきの奇襲で何匹か倒れたな。

 残っているゴブリンは、目視できる限り十二匹。

 後は、姿を見せていないのが左右に二匹ずつ。

 依然として数は多い。

 だが、継承で受け継いだスキルたちを試すには、ちょうど良い機会だ。


「いくぞ」


 俺は両腕を下げて手を開く。

 スキル【剣の加護】を発動させる。

 このスキルは、魔力を消費することで剣を生成することが出来る。

 言うまでもなく、彼から受け継いだスキル。


 そして――


 これが剣聖から継承した剣技。

 瞬きのごとき刹那。

 俺は一歩を踏み出し、ゴブリンたちの中へと入りこむ。

 ゴブリンが気付いた時には、すでに彼らの身体は斬撃を受けていた。


「は、速い!」

「うん……全然見えなかった」

「……! 横!」


 魔法使いの少女が気付く。

 残っていたゴブリンは、魔法が使えるゴブリンメイジだった。

 左右から魔法陣を展開させている。

 魔法は放たれれば脅威だが、その前に止めてしまえば良い。

 例えばこんな風に――


「させないよ」


 自身の両サイドに魔法陣を展開。

 そこから伸びた紫色の鎖が、ゴブリンメイジの魔法陣を破壊する。


「ディスペルチェイン……しかも無詠唱?」


 ディスペルチェインは魔法を無効化できる鎖。

 【魔人】と呼ばれた大魔法使いソロモンから継承した力。

 無詠唱で発動できるのも、彼から受け継いだ技能の一つだ。

 元々魔法の才能がなかった俺だけど、継承のお陰で扱えるようになった。

 嬉しさ半面、彼の記憶の悲しさもあって、気分的には半々くらい。


 魔法陣を破壊した鎖は、そのままゴブリンメイジを縛り上げる。

 さらに別の魔法陣を重ねて展開し電撃を発生させる。

 電撃は鎖を伝って、ゴブリンメイジを感電死させた。


 残りは左右。

 すでに逃げようとしている。

 見逃すという選択肢は存在しない。

 ゴブリンは学習するから、いずれまだ誰かが襲われる。


 月歩を発動。

 俺は垂直に上空へ跳びあがる。

 空中で身をよじり、逆さまになってから魔法弓を発動。

 左右のゴブリンを射抜く。


「っと、こんなもんか」


 なんてことはない。

 相手がゴブリンだったこともあって、ちょっと物足りない勝利だ。

 だけど――


「「「凄い……」」」


 彼女たちは俺を見て、キラキラと目を輝かせていた。

 そんな俺を祝福するように、土砂降りだった雨が止む。

 わずかにできた雲の隙間から、太陽の光が差し込む。

 その光は、俺のことを照らしていた。


 雨が上がる。

 さっきまでの土砂降りが嘘のように、太陽が煌々と大地を照らす。

 久しぶりに日を浴びたようで、ちょっと眩しい。

 そして、ここでようやく彼女たちの顔をしっかりと見ることが出来た。


 剣士の女の子には、犬の耳と尻尾がついている。

 髪色は淡いオレンジ色だけど、耳と尻尾の先だけは茶色い。

 彼女は獣人という亜人種の一種だ。


 弓を持っている彼女も人間ではない。

 優しい緑色の髪から覗く尖がった耳と、エメラルドグリーンの瞳。

 彼女はおそらくエルフ族だ。


 魔法使いの少女は、二人のような人間以外の特徴はない。

 ただ、それを忘れてしまえるほど、綺麗な銀色の髪をしている。

 ちょっと表情が乏しいようだけど、まるでどこかの国の姫様のようだと思った。


 三人は固まり、しばらく俺を見つめている。

 状況についていけず混乱しているのか。

 いや、何となく魅入っているようにも見えるけど。


「えっと、怪我は大丈夫?」

「……え、あっ、はい! 大丈っ……」

「じゃなさそうだね」


 剣士の少女は左腕を負傷している。

 布で押さえているが、出血が止まっていないようだ。

 

「ちょっと見せて」

「はい」

 

 彼女は左腕が見えやすいように体の向きを変えてくれた。

 布を退かすと、ゴブリンにやられた傷が見える。

 なるほど。

 深くはないようだけど、傷口が荒いな。

 俺は右手を傷口にかざす。


「ヒール」

 

 唱えたのは回復魔法。

 これもソロモンから継承した力だ。

 この程度の傷であれば、瞬く間に治癒させられる。

 ちなみに、回復魔法は使用者を選ぶ魔法で、優れた魔法使いでも使えない者が多い。


「これでよし。痛みはどう?」

「ないです! ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 それから彼女たちは順番にお礼の言葉を口にした。

 何度も頭を下げて、嬉しそう顔をして。

 俺はニッコリと微笑み、その場で立ち上がる。


「君たちは、この先の街の冒険者かな?」

「いえ、別の街から移動している途中だったんですけど……」

「その途中でゴブリンに襲われたと」

「はい。急に丸太が倒れてきて」


 予想した通り、ゴブリンの罠に嵌められたようだ。

 詳しく事情を聞くと、彼女たちは冒険者になったばかりの新米パーティーだったらしい。

 俺とは別の街で活動して、この先にある街へ拠点を移そうとしていた。


「自己紹介がまだでしたね! 私はリーダーのアリアです」

「わたしはティアです。見ての通りエルフ族です」

「ボクはマナ。お兄さんの魔法……感動しました」

「ありがとう。俺はユーストス。呼びにくいって言われるから、ユースで良いよ」


 簡単に自己紹介を済ませて、俺は倒れた馬車に目を向ける。

 それにつられるように、彼女たちの目も動く。


「色々聞きたいこともあるけど、まずは荷物の整理と、馬の弔いが先だね」

「はい」

「そうですね」

「うん」

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