第2話 入浴と食事

「胸が大きくなったかしら、イブ」

「それはないわね、ヤエ」」


 浴室でシャワーを浴びながら会話をする二人。


 浴室といっても十メートル四方の空間があり、天井も高いので無駄に広い印象がある。


 水色の床タイルこそ現代的だが、内装は洋風で、貴族のおたわむれといった雰囲気があった。


 その中央に二人はいるのだが、注がれるシャワーは器具を使わず、浴室に標準装備された魔法によって頭上の空中から湯雨を浴びている。


 立ち上がる湯気が霧のようになって裸身を包んでいる。


「私たちは同生体にして固定体。変わることはないわ、ヤエ」

「ええ。希望を言ってみたのよ、イブ」


 そう言ってお互い、無表情で見合わせる。


「……」


 髪と瞳の色こそ違うが、身体つきや白い肌は同一である。


「そろそろ出ましょうか、イブ」

「そうね、ヤエ」


 ヤエの意見にイブが同意すると、湯雨は止み、二人は出入口へと歩き出した。


「メニューは何かしらね、イブ」

「楽しみね、ヤエ」


 細やかに装飾された木製扉の前に立つと、二人は左右にあるドアノブを握り、同時に引いた。


 中から光があふれ出し、二人を飲み込んでいく。


 光は二人の身体を瞬時に乾かし、ショーツ、キャミソール、ソックスと、身につけさせ、最終的に黒を基調としたゴシックロリィタの姿になった。


 その過程はまさに魔法少女の変身を思わせた。


 光が消え、扉を抜けると、浴室と同規模の広さをもったダイニングルームに出た。


 内装はやはり洋風で、中央にテーブルと二人分のイスがあった。


 職人の手によるものであろう黒塗りの木製品で、温かさと優雅さが感じられる。


 長方形のテーブルには真っ白なテーブルクロスが敷かれ、上品なレストランを思わせた。


 二人はそれぞれ両端に移動し、イスに腰を下ろす。


 すると目の前に一人分ずつ、大きな皿に盛られた出来立ての明太子スパゲッティとキラキラ輝く銀製のフォークとスプーンが現れた。


 館が二人のために食神しょくしんを通して用意したものである。


「とても美味しそうね、イブ」

「そうね、ヤエ」


 表情、声のトーンも変わらないが、見た目と香りが二人の食欲を刺激した。


「いただきます」


 手を合わせ、同時に言う二人。


 フォークとスプーンを手に取り、麵を絡めてそっと口へ運ぶ。


「素晴らしいわね、イブ」

「最高ね、ヤエ」


 淡々としているが、最上級の味に、次から次へとスパゲッティが口へと運ばれていった。


 気がつけばあっという間に皿は空になっていた。


「とても美味しかったわね。イブ」

「そうね、ヤエ」


 二人揃ってフォークとスプーンを置き、手を合わせ、

「ごちそうさまでした」

 と言いながら軽く頭を下げた。


 すると、食べ終えた皿などはテーブルから消え、かわりに水が注がれたグラスが現れた。


 それを左手に持ち、二人は一口飲んだ。


「ふう……」


 同時に幸せの息をはく二人。


 そして、お互いの顔を見た。


「入浴と食事をすませたけど、どうする、イブ」

「寝る流れだと思うわ、ヤエ」

「じゃあ、そうしましょうか」

「そうしましょう」


 イブの意見にヤエが賛成した。


「寝ると言えば私たちはいつも一緒ね、イブ」

「そうよ、ヤエ」

「さっきの葉っぱさんもそうだけど、ここへ訪れるお客さんは基本的に単体よね」

「そうね」

「いつか、私たちみたいな二人組のお客さんも訪れるのかしら」

「可能性はあると思うわ。ただ……」

「何かしら」

「ここでそんなことを言うと、前フリというやつになりそうね」


「……」


 二人は見つめ合い、肩をすくめた。

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