秋 episode; ground zero
「ねえ、ガーランドの
嘆くような風が吹き荒れ、雨上がりの色濃い草原の匂いがぶわりと舞う。瑞々しく甘い、豊潤な香気が胸いっぱいに満たされていく。
少女は、魔女に差し向けていた札を思わず留めた。
「ヨッカの秘密……?」
甘やかに目を細める魔女は、唇から蕩けるような声音を零す。
「そ。……こーんな僻地のキャンベルなんて片田舎で、どうしてひっそりと暮らしているのか。どうしてその身に呪いなんか持っているのか。よわっちい日和っこちゃんなんかを、どうして守ってやっているのか」
草原をぐるりと見渡す魔女は、杖を高らかに振り回した。絵本に描かれた姿さながらに、あくどい真似事をしでかすかのように。だから、きっと、これはうそぶいているのかもしれない。この甘く辛い口振りは、単なる戯言なのかもしれない。
「それはね、ぜーんぶ、日和っこちゃんのせい」
けれど言葉一つで、決めた心はいつだって揺れる。真実は、いつだって信じたくないところからあまねく落ちてくる。
「ねえ、神さまなんて馬ッ鹿馬鹿しいものを信じた一族のお姫様。そんなお前を信じて擦り切れていった一族が、代わりに呪われてしまったのさ。……すべてはガーランドからもたらされた、かなしいさびしい呪縛」
邪悪な魔女はうそぶく。巧妙に騙る。揺れる心を些細に歪ませ、確実に惑わしていく。
それでもそれは、かつて少女の救いとなった善き賢者の、紛れもない真実だった。
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