第6話

不思議な関係が続いて何カ月か経った。俺も推しに対して考えが変わった。中身があいつだからだろうか......。俺もあいつと一緒にゲームがしたい。遥としても、のえるちゃんとしても。わがままだろうか、無謀だろうか。こんな声だと気味悪がられるだろうか。顔かたちはどうにでもなる。それこそ、お金は山ほどある。だが、声は難しい。遥は地声は低いが、のえるちゃんとしては男女どちらともとれる両声帯ボイスで話している。これは地道な努力としか言いようがない。彼自身の才能というのもあるだろうが


「え!? 配信がしてみたい?」


「うん。押崎さん、どんなガワがいいと思う?」


「えええ~?そりゃ、私としては眼鏡配信者を推したいところですが思い切って人外系もいいと思いますよ。一途くん一推しののえるちゃんみたいに! 吸血鬼とかいいんじゃないかと!」


「なるほど~、吸血鬼か。個人的には女の子の見た目にしたいけど難しいよね」


「いえ、そうでもないですよ! 聞いた話によるとボイスチェンジャー最近性能のいいものだと自然な女性ボイスをだせるとか!!」


うなずきつつ、一緒にサイトを見てみると高い。先行投資としても回収できるか微妙なラインだ。いやいや、弱気になるな。俺はあいつと百合配信がしたいんだ(?)

 というかキャラのせいかのえるちゃんが女の子とコラボした配信を見たことがない。色香に騙されホイホイ連れてこられた男性ライバーたちという設定でコラボしてるからだ。


「でも、少しうれしい気持ちですが、複雑です」


首をかしげると押崎さんは続けた。


「最近仲良くなった、その......お友達がVになるなんて夢のようです。誰かの推しになって私もそれを共有できる立場になれると思うと嬉しくて、恥ずかしくて......」


確かに、これをあいつにも共有したいがあいつには本当のサプライズをしたい。彼と同じ舞台に立ちたい!


そして数週間後、ガワが届いた。思ったより女性要素の少ないスーツ姿だが胸はある。思ったより露出が少ないのもいいな......。これに俺が魂を吹き込むのか。押崎さんには初回配信予定日を伝えておいた。絵師としてキャラ原案を頼んで正解だったよ君は......。よし!練習通りにすれば大丈夫! 舞台に立て‼ おれ......はもう違うな。私、頑張れ、私! 誰かの推しになるために!


『みなさん、初めまして、だな。 私はヴァンプクイーン、ジル・ド・ウニマニエル。気楽に“ジル”って呼んで欲しいな?』


掴みは割とよく、絵師の力もあってか登録者も少しながら出てきた。今後の配信予定とか世界観を壊さずにジルを演じきった。遥はいつもこんな心臓の悪いことをしているのか。でも、悪くない。承認欲求とかなんとかじゃなくて純粋に楽しい。殻を破れなかった、塞がれていた俺の世界に新たな自分を見出せた。これを早く遥に......。のえるちゃんに見せてみたい! そして、コラボしたい!

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