11、妖精の里

 景色が代わり、ハッとした次の瞬間、どこかにお尻からドサッと落ちた。


「痛ー!?」


 いててて、と痛むお尻をスリスリしていると、私の前に誰かが立った。


「すまない。運んだ人数が多かったから、少々しくじった。大丈夫か?」


 そう言って手を差し伸べてくれたのはママだった。


「大丈夫……」


 顔をあげると、ママの背景に目を奪われた。

 ママの美しさに目がいってしまっていたが、周囲の景色もすごく綺麗だよ!?


 赤、青、黄色……紫、ピンク。

 カラフルな光りが舞っている。

 そして空が水面のようだった。

 まるで海の中にいるみたい!


「ここは……!」

「妖精の里だ」

「わああああっ!」


 周囲を見渡してみると、空以外は森の中のようだった。

 でも、草木に混じって至るところに歪なかたちの水晶がある。

 まるで地面から生えてきたようだ。

 見える角度によって色が変わり、キラキラと輝いている。


 カラフルで幻想的な森……私がずっといたところとは大違いだ!


「おうさま」

「だれ」

「しらないこ」

「!?」


 近くで声がして驚いた。

 どこから聞こえてきたのだろう。

 ママの方を見ると、空を舞っていた光が三つ、そばにやって来ていた。

 よく見るとその光は、人の形をしている。


「もしかして妖精!?」

「ひゃあっ」

「わあ」


 私の大声に驚いたのか、空飛ぶ光る小人は逃げて行ってしまった。


「もしかしなくても妖精だ」


 やはり妖精だった。

 ということは、空を舞っている、この光のすべてが妖精!?


「素敵……」


 異世界に転生して、ずっとこういう光景が見たかった!


「あまり下がると危ないぞ」

「わっ」


 振り返ると後ろには、茨の蔦が絡み合って出来たような壁があった。


「ここは妖精か、俺が認めた者しか入って来られない」

「わあっ、茨の壁が侵入者を阻んでいるのね! ……あ、でも、ここって水の中なの? お空が水面みたいだけれど」

「いや、妖精の里は誰も立ち入らない森の奥にある。だが、色んな場所と空間が繋がっていて、向こう側の景色が見えるんだ。空は海と繋がっていて、茨の壁の外側にも何カ所か違う景色が見えるところがある。触れるとそちら側に行ってしまうから、見つけても不用意に触るなよ?」

「はーい。茨の外だけ? 中にはないの?」

「現れることもあるが、滅多にない。だから中にいるときは気にしなくていい」

「了解しました!」


 そんなことを言っていたら、いつか突然私の前に現れてどこかに飛ばされたりしそうだ。

 ……いや、この思考がフラグになりそうだから、考えるのはやめよう。


「そうだ。ママ、怪我をしていた獣人たちは!?」


 倒れていた人達はみんな重症のように見えたけれど、大丈夫だっただろうか。


「大丈夫だ。もう治療ができる者の元へ送っている。何日か休んだら、話も聞けるだろう」

「よかった……」


 関わりはない兄弟だけれど、身内があんなことをしてしまって本当に申し訳ない。

 私にできることがあるなら、彼らの力になりたい。

 元気になったらゲームセンターで遊んで貰おうかな?


「そうだ! ダンジョンコア!」


 ゲットできたと確認はできていたが、姿が見えない。

 まさか、落としてきたりしていないよね!? と焦った瞬間、頭の上に何かが乗った。


「カー!」

「ダンジョンコア! どこから出てきた!」


 どこからともなく現れた小さなカラスが、私の頭の上で元気に鳴いた。


「姿は見えなくても、お前と共にあるのだろう。呼べば姿を見せるんじゃないか」

「カァ~」


 ママが指を近づけると、頭の上のカラスが嬉しそうに鳴いた。

 お主、イケメン好きだな? 誰に似た!


「あ!」


 茨に背を向け、里の中心部に目を向けると、そこには大きな湖が見えた。

 波がないから湖だと思ったけれど、海かも? と思うような広さだ。

 そしてその湖の中に、高層ビルのような巨大な木が四つ、聳えている。


「大きな木があるねー! もしかして、世界樹?」


 ファンタジーな世界で大きな木と言えば世界樹でしょう!


「まあ、そう呼ばれることもあるが……。あれが俺達の住処であり、命の源である生命の樹だ」

「生命の樹!」


 生命の樹をよく見てみると、枝の上には色々な建造物があった。

 家や商業施設に見える。


「住処って、樹の上に町があるってこと?」

「そうだ」

「わあ! 可愛い!」


 ゲームの世界に入ったみたいで大興奮だ。

 あの場所に行ってみたい!


「俺達妖精は、生命の樹から命を与えられて生まれるんだ。そして、この樹と共に生きていく」

「ずっとここにいるってこと? 妖精って世界中の色んな所にいるわけではないの?」


 妖精は見えないけれど、どこにでもいると思っていたのだが……。


「ここに常駐するわけではない。みんな外の世界を自由に渡り、疲れたら戻ってくるんだ。妖精には一瞬で里に戻る能力があると言っただろう?」

「聞いたっけ?」

「俺は言ったぞ」


 ママが言ったというのならばそうなのだろう。

 私は自分の記憶力よりママを信じる!


「お前に妖精の里でダンジョンを創って欲しいと言ったのは、生命の樹を救って欲しいからなんだ?」

「救う?」


 近くに作ることで、力になれることがあるのだろうか。


「ダンジョンがどういう役割を果たしているか知っているか?」

「役割……魔族を減らす、とか?」

「……お前、恐ろしい発想をするな」


 だって、ダンジョンと言えば中には魔物がたくさんいて危険なところだろう。

 入った人数より、出てくる人数の方が少ないはずだから、そう思ったのだ。


「お前、魔素は分かるか?」

「マッソ」

「魔素だ」


 今世で初めて出会うワードだ。

 でも、ファンタジー脳でなんとなく予想はつく。


「魔力の元?」

「そうだ。魔素とは自然に溢れているもので、魔素を元にして魔力が形成される」


 突如始まったママの授業に耳を傾ける。


「魔法として消費された魔力の魔素は、『廃魔素』となり、世界を漂う。廃魔素が増えると、魔力を形成する際にも廃魔素が混じり、濁った魔力になるんだ。そして濁った魔力では、魔法は十分な効果を発揮しなくなる」

「ふむふむ」


 呼吸したら酸素が二酸化炭素になる、という感じ?


「ダンジョンには、根付いた周辺の廃魔素を魔素に戻す力があるんだ」

「ほう」


 それって光合成じゃん!

 ダンジョンは二酸化炭素から酸素を生み出す植物的な役割をするのか、なるほど。


「この辺りは廃魔素が多いからダンジョンが欲しいってこと?」

「ああ。そうだ。生命の木は魔力を養分としているのだが、魔力が濁っているため栄養が足りず、三本枯れてしまった」


 ママはそう言うと、私の手を取って空間移動をした。


「あ……」


 景色が変わった次の瞬間に見えたものは、枯れて黒くなってしまった三本の巨木だった。

 黒い巨木の上には、廃墟のようになった建物が見える。

 とても寂しくて悲しい光景だ。


「妖精は生命の樹から生まれる。でも、三本も枯れてしまったことで、生まれる妖精の数が激減した。妖精の里は……確実に衰退している。どうか頼む、ここにダンジョンを創って、生命の樹を……妖精を救ってくれ」


 そんな事情があったから、ママは私の卵を真剣に育てていたのか。

 それなのに私は唯一選別落ちした……。

 ママがあんな態度を取ってしまったのは仕方ないかもしれない。


 ちゃんと謝罪してくれたし、卵の間だけでも育ててくれた恩はあるし、ダンジョンコアを手に入れることができたのもママのおかげだ。

 ここからは恩返しタイムだ!


「私に任せて!」


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