4、予想外

「今から保有魔力量を測定する!」


 仕切り役が宣言すると、場が更に静まった。

 ピリリとした空気が張り詰めていて、私も緊張してきたのだが……。


(卵から出てから、思考は元気だけれど、体が全然動きません!)


 他の幼子たちは座っていたり、自分のしっぽで遊んだりしている。

 横になったまま、ぐったりしているのは私だけだ。


 こんなに体がだるくて重いのは、スキルに魔力貯金をした直後で、体に魔力がほとんどない状態だからだろうか。

 今までこんなに疲れたことはなかったけれど、それは卵の中にいて守られていたからなのかもしれない。


「まずは『憤怒の卵』から生まれた者――」


 仕切り役の声と共に、視線が一つの土台に集中した。

 そこにいるのは、赤髪の生意気そうな男の子だ。

 人の姿をしているが、肌に鱗が生えているし、トカゲのようなしっぽがある。


(あれが憤怒の卵から生まれた子かあ。竜人とか?)


 観察していると、男の子の前に魔法陣が現れた。

 クルクル回っている様子は、『計測中』という感じだ。

 魔法陣の回転が止まると、魔法陣の中央に『99』という数字が映し出された。


「魔力99!」


 仕切り役が数字を読み上げると、周囲からはどよめきが起こった。


「生まれてすぐだというのに、ほぼ三桁とは……中々ですなあ!」


 周囲の声が聞こえた赤髪の男の子は、「ふふん」と得意気な顔をしているが……。


(そうなの? 666の私って、もしかして凄く優秀なのでは?)


 なんだかドキドキしてきた。

 私の数字がオープンになった瞬間、みんな度肝を抜かれるのではないだろうか。ふふっ!


「次は『怠惰の卵』だ」


(怠惰……あ! 私は強欲、さっきは憤怒、そして次は怠惰ということは……)


 台座は七つだし、『七つの大罪』を元にしているのでは? と気がついた。

 漫画やアニメでよく使われていた七つの大罪の一角を担えるなんて、テンションが上がる。

 贅沢を言えば、色気のある美人がなりそうな『色欲』がよかった。


「……56!」


 思考を巡らせている内に測定は進んでいた。

 怠惰の子は他の子よりも別格に体が大きいが、魔力は普通なのか、周囲のリアクションは特にない。


 続いて『暴食の卵』の子が測定を受けた。

 暴食というと、勝手に巨漢を想像していたが、台座にちょこんと座っていたのは可愛らしい幼女だった。

 口が寂しいのか、自分の親指をずっとちゅーちゅー吸っていて可愛い。

 測定された魔力は『63』だった。


 次に呼ばれたのは『嫉妬』。

 中性的な黒髪の子だが、影から黒蛇を出したり入れたりして遊んでいる。

 え、申し訳ないけれど、気持ち悪い……。

 魔力は『88』で、周囲の反応もよかった。


 そして私が憧れる『色欲の卵』が呼ばれた。

 台座の上にいたのは、羊のような角がある、長いすみれ色の髪の子だった。

 足を組み、退屈そうにして指に髪を絡ませている姿は、幼子なのに色気を感じる。素敵!

 測定結果は『90』で、「将来有望ですな」という声が上がっていた。


 そろそろ私が呼ばれるかと思ったが、先に呼ばれたのは『傲慢の卵』の子だった。

 褐色の肌に銀髪の男の子で、見た目は一番魔王に近い。

 測定しなくて将来有望だと分かる。


「測定結果は……なんと! 108だ!」


 飛び出した三桁に「おおおお」と歓声が上がった。

 今まで暫定魔力値一位だった赤髪の憤怒の子が、悔しそうに傲慢の子を睨みつけている。

 興奮の中心である傲慢の子は澄ました顔をしているが、ジーッと魔王のことを見ていた。

 そして将来有望な息子の視線を受けている魔王は……何故かずっと私を見ている。

 どうしてなの?

 眼力が凄いので逃げたいです。


 あ、もしかして、脅威の『666』を誇る私に気づいたか!

 さすがは魔王!


「最後は……『強欲の卵』!」


 ここでとうとう私の番がやってきた。

 皆、さぞ驚くことだろう!


 私の前にも観測する魔法陣が現れ、どきどきわくわくしてきた。

 私はまだ動けなくてぐったりしているけれど、心の中では大騒ぎだ。

 私の異世界チートストーリーが始まってしまったらどうしよう!


 そしてついに、魔法陣の回転が止まり、私の魔力が表示された。


『6』


 …………?

 予想外の数字に困惑する。

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