3、選別

 突然津波にさらわれたような衝撃に襲われた。

 何が起こっているの!?

 抗えず身を任せていると、それは次第におさまった。


(ああ、びっくりした……なんだったの?)


 ホッとした次の瞬間、「わああああ」という歓声が直接耳に響いて驚く。

 卵になってからは、水の中にいるような音しか聞いたことがない。

 もしかして、卵の殻が割れた?

 その可能性に気づき、体を動かしてみた。


 瞼を上げると、視界には暗い空が広がっていた。

 雲は真っ黒で、この場所の真上を中心に渦巻いている。

 歓声に交じり、豪雨の中轟く雷鳴が聞こえる。

 どうやら嵐の中にいるようだが、不思議なことに雨風は感じない。

 見回してみると、私や歓声を上げている人たちは、淡い紫の光を放つ透明なドームの中にいた。

 これが雨風から私たちを守っているのだろう。


(結界のようなもの? 魔法かな?)


 生まれてすぐのファンタジー展開にワクワクする。


 私は石の祭壇のようなところに横たわっていたのだが、卵の殻のようなものはなかった。

 殻は消えたのだろうか。


 自分の体を確認する。

 小さな手、小さな足、長すぎて体中に絡みついている金髪。

 顔は確認することができないが、どう見ても幼稚園児くらいの幼女だった。

 よかった、人型だ! ゲーセンで遊べるぞー!


「魔王様。お祝い申し上げます」


 魔王?

 耳に入った声をたどり、そちらを見る。

 すると、人だかりの中心にいる金髪の美形男に目を奪われた。


(うわあ、迫力のあるイケメンだ……!)


 存在感が周囲の者とは桁違いだ。

 きっと彼が魔王に違いない。

 胸元が大きく開いた衣装で、フィギアにすると映えそうな素晴らしい胸が見えている。

 見事な雄っぱいだなと思っていると、魔王と目が合ってしまった。


 魔王の瞳は黄金で、極彩色の輝きを放っていた。

 マンガだとキラッキラッに描かれていそうだが……冷たい目だな。

 機嫌を損ねると一瞬で消されてしまいそうだ。

 私は恐ろしくなって、思わず目をそらしてしまった。


「皆の者、静粛に!」


 魔王のそばいる神経質そうな男が声を張り上げた。

 オールバックにしていて、ドラキュラのような恰好をしている。

 彼がこの場を仕切るようだが、魔王の右腕的な存在なのかな。


「無事、この場に魔王様の血を継ぐ者達が誕生した!」


 魔王の血を継ぐ!?

 それって、魔王の子供ということ!?

 しかも私だけではないようだ。

 改めて見回してみると、石の祭壇は七つで、それぞれに私のような幼子が乗っていた。

 翼がある子、爬虫類っぽい子、体が大きい子、角がある子、など――。

 種族が違うように見えるが、みんな本当に魔王の子なのだろうか。

 そんなことを考えていると、右腕らしき男がまた声を張り上げた。


「今から選別の議を行う。次期魔王候補として相応しい者のみ、魔王の血を継ぐ者として生きる権利を与える」


 選別!?

 選別と言われてすぐに思い浮かんだのが、ひよこのオス、メスを仕分ける作業だけれど、それではないよね?

 私はメスです。

 ……え、メスだよね? 幼女だよね?


 いや、私のオスメス選別はあとでいい。

 まずは今行われようとしている選別が大事だ。

 相応しい者のみ魔王の子として認める、という風に聞こえたけれど、認められなかったらどうなるの?

 生きる権利が貰えないなんて、生まれてすぐに死亡フラグ!?

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