1. 陽光

円い太陽の投げる光に沿って、重たげな家々が建っている。

周り一面を樹木に囲まれたその村には、一寸先の主要都市から訪ね来る人間もほとんど居らず、野山の獣すら寄りつくことを避けた。

そんな日頃の寂しみに増して、今は秋の中頃である。村の良き朋友ほうゆうであった草葉は彩りをやめ、風が大いに空を打った。


村の最奥、林道でへだたれた場所に一つの教会がある。


まだ夜が明けて間もない中に、一人の若者がいた。麦畑を思わせる金の髪を揺らし、整った目を大きく開いて辺りを闊歩かっぽしている。赤地の防寒着には獣に似た文様があり、若者の足使いに合わせて威嚇いかくをしているように見える。彼は外周を二、三度巡ったあたりでふと顔を上げ、二階の窓辺にフワリと立ち昇る湯気を見た。


「ヤア、神父様」


若者が声をかけると、二重造りの窓から更に白いものが現れた。


「お早うございます、タルヴィ


神父と呼ばれた男は白髪を背後で結び、真黒な平服を着て、親しげな目付きで若者を見下ろしている。


「なあんにも心配要りません。足跡ひとつ見ちゃいませんから」


「有難うございます。……明日の見回りは私がやりましょう」


タルヴィは耳を疑った。


「な、何故ですか」


「貴方にはいつも、危険な仕事ばかり任せてしまっているので……」


神父が目を伏せたのを見て、タルヴィは言った。


「これは俺がやるべき事なんです。俺はあんたのように美味い飯を作れないし、のやつみたいにすげえ知識も持ってない。だから、俺にしか出来ないことをやるって決めたんです」


「あんたが死んじまったら、もお嬢ちゃんもきっと長く持たない。だから……俺にやらせてください」


神父は浮かない表情をしていたが、すぐに微笑を取り戻した。


「分かりました。明日もお願いします」


「ええ!」


「そろそろ二人も起きてくるでしょうし、朝食にしましょう。今日は野菜を多めにしてみました。もうすぐ冬ですからね」


漂う果実の香りに誘われてか、数匹の栗鼠りすが木陰から二人を覗いている。朝の陽射しがだんだんと強くなり、震えた木々に手を差し伸べた。

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