file.10 初期展開①

 物語開始直後からの展開を細かく追って行きます。



●シーン1 三年二組教室内

 2022年4月7日木曜日。令和4年度一学期始業式。

 舞台は始業式が終わってみんなが集合したHR。書類配布に不自由のないように出席番号順になっていた席を担任の梅沢うめざわ先生がくじ引き席替えでバラバラにしようと言い出す。


 席替えの結果、高坂君は窓際の一番後ろ。花恋さんがその隣。高坂君の前には生田くんが座ることに。後々出てくる安達さんは廊下側の一番後ろ。


 花恋さんが高坂君に声をかける。


「よろしくねっ、高坂君」


 昨年のケーキ屋の件(プロローグ参照)から彼の名前を知っている花恋さんはそう言ってしまうが、高坂君からしたらなぜ名前を知られているのは意味不明。この段階では自己紹介もまだである。


「なんで名前……」


 花恋さんは慌てる。


「あぁ、そっかっ。私のこと、覚えてたりしないよねっ……」


「?」


 疑問が残るままHRは自己紹介のコーナーへ。順番が回って来て花恋さんも事項紹介をする。どうやらつい最近まで留学に行っていた模様。そしてなんだか、クラスからも人気。去年から引き続き同じクラスだと言う人がいくらかいる。


 高坂君も順番が回って来て、自己紹介をする。当たり障りのない普通の。



 HR終了。

 安達さんが花恋さんの元へ真っ先にやってくる。


「部活行こ、花恋」


「あ、うんっ」


 始業式の日から吹部の部活があるのは結構一般的。安達さんは最寄が上野毛かみのげ駅なので、帰りも立川までは花恋さんと一緒に帰ってくる。


 花恋さんは鞄を持って立ち上がり、高坂君に向かって微笑みかける。


「じゃあね、高坂君」


「え、あ、あぁうん。またね」


 戸惑いながらもそう返す高坂君。その様子を見ていた前の席の生田くんと安達さん。


「お前絹舞ちゃんと仲良いの?」


「花恋、エロ画伯といつの間に?」


「ちょっとその呼び方やめなって結衣っ」


「あっ、ごめんごめん」


 ↑このやり取りはプロローグの裏の所で安達さんが高坂君をエロ画伯呼びしたことを止めたシーンから引っ張っている。


「エロ画伯? お前そういうやつなの?」


 今年初めて同じクラスになった生田くんは何が何だかわからず、高坂君を眺める。


「別に、どう呼ばれようと……」


 高坂君は荷物を持って足早に教室を出る。




●シーン2 立川駅周辺ラブホテル前

 午後9時。

 高坂君は毎週木曜にある美術予備校(モデルは立川美術学院)を終え、制作スタジオに帰ろうとする。建物を出たところで、制服を着た女子高生が声掛けに合っているのを発見。そのまま、すぐそばにあるラブホテル〔イエローゾーン〕(モデルはBe・Zoneというラブホテル)の方へ無理やり引き込まれて行くのを見て、焦って後を付けていく。


 男三人に囲まれたその女子高生の顔が隙間から見え、それが学校で隣の席になった花恋さんであることに気が付く。


 鞄を肩に掛けなおし咄嗟に彼女の元へ走る高坂君。


「どけっ!!」


 そう叫び、三人を振りほどいて花恋さんの手を取りその場から走り去る。男たちも後を追ってくる。


 錦第二公園の角を曲がる。この季節にはこの公園は桜が咲き乱れていて、落ちた花弁が路面を点描している。(ピンク・花恋さんを助けるという高坂君の決意の伏線)

 そこから高坂君のスタジオがある錦町2丁目までは大きな通りが二つあり(二つとも信号はありません)、それらを横断して男たちから距離を取り何とか逃げ切ろうとする。しかし二つ目の通り(モデルはやすらぎ通り)で花恋さんが転んでしまう。そこにトラックの光が……。



☆ここまでが一話(の予定)。いきなりピンクの伏線もあり、急展開かつ先が気になる終わり方で、スピード感のある開幕かなと。



「危ないだろっ!!」


 ギリギリ急停車したトラックの運転手から怒号が飛んでくる。高坂君は花恋さんを立ち上がらせて、頭を下げる。周りの人の注目が集まり、追手たちは二人取り押さえるのを断念。そこから先は追って来ず、何とか制作スタジオまで逃げ切ることができる。



●シーン3 制作スタジオ


 手を繋いだまま玄関へ。お互いに肩を上げ下げする中、花恋さんが解れたように高坂君のブレザーを摑んで泣きつく。


「こ、怖かったよぉ……!」


 高坂君は戸惑いながらも、彼女の背中をとんとん叩いてあげる。


「大丈夫、大丈夫だよ。危なかったねっ」


 花恋さんは涙を拭いて、泣き声で高坂君にお礼を伝える。転んだ時の傷の手当てをしなきゃいけない、と高坂君はリビングへ彼女を招く。花恋さんは家族がいるのではないか、とドキドキするが、高坂君以外誰もいないことに気が付く。


 ケーキ屋さんの件から見て、家族想いの少年というイメージがあった花恋さんはその状況になんとなく違和感を持つ。


 高坂君は花恋さんの傷の手当てをする。

 花恋さんの携帯には檸檬さんから連絡が入っていた。しかし花恋さんが檸檬さんに連絡を返してもつながらず。

 

 ↑この時すでに自宅は火事になっており、檸檬さんも巻き込まれている。(煙を吸い込んで意識不明で搬送されるが、少量だったため体に影響が残ることはなかった)


 消防車のサイレンが遠くで聞こえている。


 怪我をしている花恋さんをもう一度夜の外に出すのは危ないと思った高坂君は、連絡が取れるまで花恋さんを家に置かせてあげる。



 一人でゆっくりさせてあげるべきだと考えた高坂君は花恋さんをお風呂に入らせてあげる。


 花恋さんはもちろん遠慮するが、結局入らせてもらうことに。


 

 花恋さんがお風呂に入ってから彼女の着替えがないことに気が付いた高坂君は花恋さんに知らせて自分の部屋着を持って脱衣所へ。そこで花恋さんの脱いだ制服にひどく皺が寄っているのに気が付く。


 部屋着を置き、制服を持ってリビングへ戻る高坂君。カーテンレールに制服をかけ、スチームアイロンで皺を整えてあげる。


 続けてスカートをとしたところで、スカートのポケットの中から花恋さんが服用している低用量ピルが床に落ちる。


↑花恋さんはお風呂あがり、一人になる時に飲もうとしてスカートに忍ばせていた。


 高坂君はスカートとそれを拾い上げたところで、花恋さんがお風呂から戻ってくる。



 ☆ここあたりまでが第二話になると思います。ちょっと変えるかもわからないです。




●シーン4 制作スタジオ 夜


 慌てて高坂君から薬を奪って背中に隠す花恋さん。


「ご、ごめんっ。勝手に」


「あ、あのっ、これは……」


 もちろん高坂君は低用量ピルに関しても知識を持っているので、花恋さんのこの反応も理由は分かっている。

 

 襲われていた時の恐怖感から、性的に活発な子でないことはなんとなく予測出来ているので、低用量ピルの服用の目的は避妊ではなく、月経困難症の類であると推測。


「人前じゃ、飲みにくいもんね」


 そっと寄り添うように優しく声をかける。


「絹舞さんが秘密にしてるなら誰にも言わないから安心して。具合、悪くない?」


 花恋さんははっとしたように顔を上げる。


「おかしいって、思わないの?」


「どうして? 絹舞さんの身体には必要なお薬でしょ?」


 花恋さんは初めて理解してくれる男の子に出会う。

 過去のいじめを思い出してその場に泣き崩れてしまう花恋さん。高坂君もしゃがんで彼女の肩に手を置く。


「大丈夫?」


「な、何でもない……」


 花恋さんは涙を吹き払いながらそう言う。


 ぐぅぅぅ。


 お腹を鳴らす花恋さん。高坂君は自分のお腹とも相談して、夜ご飯を用意することにする。


「お腹空いちゃったよね。今なんか用意するから」


「え、そこまでっ」


「いいから。あ、水必要かな。お薬飲むのに」


「水筒あるから、大丈夫……」


「そっか」


 高坂君は立ち上がってキッチンへ向かう。


 ご飯を用意して、ソファの方へ向かうと花恋さんは背もたれに凭れながらぐったりしている。


「絹舞さん?」


 静かに寝息を立てながら肩を上下させている。相当疲れているのか、肩をそっと叩いてみても起きる気配はない。


 高坂君は花恋さんの身体をそっと抱き上げ、寝室へ運ぶ。ベッドに横たえて掛け布団を掛ける。腰あたりをとんとん叩いてあげると、ふにゃぁ、と幸せそうな寝言を吐く。


 作ったご飯を何とかしようと立ち上がろうとすると、花恋さんに手を摑まれる。


「いやぁだっ、いかにゃいで……」


 もちろん寝言。どんな夢を見ているんだと思いつつ、高坂君はその場に再び腰を下ろす。花恋さんの寝顔を眺めながら、握られた手をただ握っているだけ。

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