14話 狂気の行きつく果ての姿

 コメダ珈琲。

 中部圏で圧倒的に支持されるコーヒーチェーンである。

 私の住む関東圏にも進出をしている。

 友人に連れられて何度か行ったことがある。

 そこにあったのは過剰なまでのサービスであった。

 はっきり言って、私は背筋が凍った。

 がぶ飲みの出来るアイスコーヒー、『スナック(軽食)』と名乗るフルボディー級のサンドイッチ、必ずついてくる微妙に美味しい塩豆。

 特に『シロノワール』はパンにアイスクリームを乗せたものなのにとても美味しい。

 そこに導いてくれた友人は今、結婚し育児真っ最中だ。

 自然と足が向かなくなった。


「隅田さん、コメダ珈琲知っています?」

 病院(リワーク)のスタッフさんが私を呼んだ。

「ええ、知っていますよ。何度か行っています」

「え、嬉しいな。じゃあ、ピザトーストあるの知っています?」

「あるんですか? 私、ピザトースト好きですよ」

「じゃあ、食べなきゃ。ピザの中に卵サラダがあってタバスコかけて食べると最高ですよ」

「は?」

 私は意味不明な顔をしていただろう。

 その時、私はピザトーストを甘く見ていた。


 数日後。

 私はコメダ珈琲の店内にいた。

 コロナ厳戒下の中、コメダ珈琲は多くの人がいた。

「アイスコーヒー。砂糖ミルクを入れてください」(コメダ珈琲のコーヒーメニューの中には最初から砂糖とミルクを入れてくれるものもある)

 そして、こう言った。

「あと、ピザトーストもお願いします」

 ウェイターにメニュー表を渡す。

.

 店内は家族連れもいたが、昼時を避けたためか妙に静かだった。

 最初にアイスコーヒーが来た。

 手加減のない砂糖とミルク。

 ふと、目の前に友人がいてさっきまで見ていた映画の話をしている姿が浮かんだ。

――コロナになってから会ってねぇなぁ

 袋に入った塩豆を小皿に入れ、食べる。

 初めて食べたときは抵抗があったが、今では普通に食べられる。

「ピザトーストです」

 その異形の姿を見た時、かなり呆けた顔をしてたはずだ。

 一層目・パン

 二層目・卵サラダ

 三層目・パン

 四層目・ピザトースト

 まず、素手で食べてみる。

 卵サラダが出る。

 その部分も食べる。

 半分食べた時、私は返り血(こぼれた食材やソース)に染まっていた。

 ふと、横を見るとナイフとフォークという武器があった。

 今までモンスター(ピザトースト)に素手で立ち向かっていた私って一体……

 

 道具を使うと食べやすい。

 人間は道具を使う動物だが、先人たちに感謝したい。

 改めて食べると美味しい。

 でも、量は半端ない。

 朝食を抜いて正解だった。

 それでも、キツイ。

 もう、ここまでくるとサービスというより何か狂気を感じる。

 確かに、多くの飲食店(企業も含む)は客に満足してもらおうとしている。

 でも、コメダ珈琲張りの量を出す店を私は知らない。

 しかし、その狂気こそが客を魅了し人気のある店にしているのだろう。


 最後の一切れをコーヒーと共に流し込み食べ終えた。


 その狂気に敬意の念と感謝をしつつ会計を済ませる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る