9話-番外編3 思い出のオルゴール(的な話)

 さて、ラスボス『山岡家』を攻略し(しているのか?)『ラーメン』を攻略した。

 もう、攻略すべき階はない。(まあ、まだ、探せばありますけどね。シリーズものとしてはいったん終わり)

 わずかな薬草(お茶)と剣(胃腸調整剤)で、よくぞ頑張ったと思う。

 今回は、ここまで見守ってくださった皆様に対して私の回顧録などを書こうと思う。

 そもそも、なぜ、私が『異世界』というか、まあ、ぶっちゃけ食べ歩きを始めたかの話。


 私が二十代の頃。

 インターネット創世期に私はネットに夢中になっていた。

 若い世代は知らないだろうが、インターネットは今よりも速度が遅く、月の定額を払えば無制限に使えることは無かった。

 ダイヤルアップなんて言葉もあった。

 写真や動画なんて安易に載せることもできない。

 それでも、ネットの中で私を知らない人たちがいて、優しく言葉をかけてくれることが嬉しかった。

 

 それでも、短大を卒業した私は働きに出なければならなくなった。

 今の様に引きこもりやニートが市民権を得てない、名前や存在すら知られていない時代。

 就活に失敗した私は実家に戻り親から白い目と批判で見られながら近くのトマトの選果場でアルバイトすることになった。

 なにしろ、今までロクに「働いたことのない」私からすれば見るもの聞くものすべてが知らないことだらけだし、周りも俗にいう「かかあ天下」を地で行くような女性ばかりで辛かった。

 給料が出た。


 多少の金額を親に支払い、私は手元の金を見た。

 バイトだから決して多くはないが、使い道に困った。


 それから、親は所用で出かけた。

 家にいてもインターネット代がかかるので散歩をした。

 少し遠出をした。

 お腹が空いた。


 そこにラーメン屋があった。

 我が家が車に乗ってよく利用するラーメン屋である。

――あ、結構近くなんだ

 車社会である群馬では近くでも車を使うことが多々ある。

 今、ポケットの中にはお金がある。

 生まれて初めて一人で飲食店に入る。


「いらっしゃいませ。四名様ですか⁉」

 見慣れた店員がいつものように聞く。

「いえ、今日は一人です」

 だんだん消え入るように小さな声になる私。

「はい、一名様、ご案内!」

 普段はテーブル席なのにカウンター席に座らされた。

 胸がどきどきした。

「ご注文は⁉」

「チャーシュー麺のカレー味、わかめトッピングで」

「はい、チャーシュー、カレー味。わかめトッピングですね!」

 

 この手の店で出されるカレー味というのは大抵、口の中で『ラーメン』と『カレー』が分かれるが、この店のカレー味は見事にマッチしていて美味い。

 麺も卵入りで私好みの中太麺。

 わかめは十歳の頃から白髪のあった私の抵抗。


「チャーシュー麺、おまどうさまです!」

 一人っきりで食べる好物のラーメン。

 夢中で食べた。

 この時はバイトの嫌なことも、家族のことも、過去のことも忘れることが出来た。

 さて、お会計である。

「千五十円です!」

 緊張しながらお金を渡す。

「ありあっした‼」


 思えば、これが異世界へ続く冒険の第一歩。

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