9話-2 塔に上る その六 塔のボス、現る! バベルの頂上に差す陽の光を浴びる

【近所には山岡家しか有りませんが、其処で『こってり』はまあまあ学んでいます……が、かの天下一品はそれ以上とも聞きます。】(『7話-3 塔に上る その三 それは「天下一品」!』より外訪楠様の書き込み)


 この書き込みを見たとき出た言葉がこれ。

自然ナチュラルにネタバレしないで!」


 本題である。

 その日。

 私は久しぶりに異世界への門(というか、天ぷら屋さん。詳しくは第1話「そこは異世界だった」を読もう!)へ向かうために電車と徒歩で向かった。

 なお、脳の中のBGMは『モンスターハンター』より『英雄の証』を流していた。

「あー、すいません。売り切れです」

 店に入るなり店主から言われた言葉が、これである。

――え? 私朝食抜いているんですよ?

 そう、池波正太郎のエッセーなどで「天ぷらなどは一食抜いて食べること」という文言を忠実に守るため、私は昨日の夜にジムに行ってたっぷり汗をかき(主に下半身を鍛えて)牛乳とサラミを食べて、それから約十時間以上、何も食べていない。

「そうですか、また来ます」

 笑顔で店を去る。

「すいませんねぇ」

 背中に言葉を受けつつ、腹が減る。

『そういや、夢枕獏の小説で腹減って鬼になる一説があったなぁ』

 と、帰りの電車に乗るための道すがら脳内神様が言った。

『天美よ、今こそ、山岡家に行くのです!』

 そう、空腹と言うのは実はチャンスなのである。

 長らく(?)続いた『塔に上る』の締め。

 塔のラストボス、「山岡家」の登場である。

 駅での待ち時間で、とりあえず500mlのジュースを一気飲みする。

「サラミと牛乳とオレンジジュース……野菜食え」

 天界の池波先生をそう思ったかもしれない。


 さて、山岡家である。

 全国展開をしている。

 主に国道沿いに展開し、家族連れと言うよりトラックの運転手が喜びそうな内装。

 コロナ禍の今では撤去されたが何故か脂ぎったゴルゴなどが置いてある。(というか、ラーメン屋さんにある漫画って何故か殺し屋系の漫画が地味に多いですよね)

 カップルでも大丈夫な一風堂とは真逆である。

 武骨な昔ながらのラーメン屋であり、実は拙作「WONDERFUL WONDER WORLD」の序盤で石動が食べたラーメン屋さんのモデルである。


 家に帰り、車に乗り、国道沿いを走り山岡家に入る。

 郊外と言うこともあり豚骨のにおいが店の外まであふれる。

 戸を開ける。

「いらっしゃいませ」

 確か、午後二時あたりだが猛者もさたち(おじさん)でカウンターが埋まっている。

 食券を買い、テーブル席に座り注文する。

「味などはどうします?」

 店員が聞く。

「味濃い、脂多め、麺普通で」

 昨日までのジムの努力を全部無にする注文である。


 この時期、山岡家は海老味のラーメンを出す。

 で、私は海老が好き。

 普段は、山岡家にはいかない私がこの時期に行くラーメン屋。

 ある意味では風物詩である。

「おまちどうさまでした。海老醤油とんこつの煮卵、バラ海苔トッピングです」

 去る店員。

「いただきます」

 スープを啜る。

 スープと言うより脂がダイレクトに体に入る。

 四十代にとってはいきなり巨大な拳で殴られた感じだ。

 しかし、これを求めていたのだ。

 かの北斗の拳のベストアバウトであるケンシロウ対ラオウでの台詞。

「この痛みこそ心地いい」(だったような)

 スープに浮かぶ角切りの脂、海苔、叉焼、メンマ、麺。

 それは辛く、でも、極上のひと時。


 今まで戦ってきた(何?)強敵たちを思い浮かべる。

 亡き強敵たちを思う。

 なお、今回に限り強敵と書いてラーメンである。


 何とかスープを少し残して食べ終えた。


 ええ、四十代にはきついんですよ。


 さて、次はどこへ行こうかな?

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