マルナカ万度畑町店

 天気は快晴、貫けるような青空で目が眩む。

 絶好のドライブ日和。

 高速道路に入る前に念のためガソリンをいれ中国縦貫自動車道へ、そして分岐で鳥取自動車道へ折れ山入やまいりICで一般道へ降りる。山入ランプをしばらく走ると県道472号線へ入いる。この県道、いわゆる酷道こくどう揶揄やゆされる峠道で、辛うじて離合りごうができる道幅の山道に、申し訳程度のアスファルトが敷かれている。右手は土手、いや崖になっているのだが、ガードレールは無い。杉や檜などの針葉樹が両脇に茂って日の光をさえぎり薄暗い。つづら折りにくねった道の要所要所に、カーブミラーが設置されているが薄く苔が鏡を覆い意味を成していない。


 肝を冷やしながら祈るようにハンドルを切り、峠道を下っていると、木々の間から海岸線に沿った小さな町が見えた。

 やっとのことで林を抜けると万度畑町まんどはたちょうに到着した。

 午後1時ちょうど、カーナビの到着予想時間は1時間半であったが、実際は2時間を要した。

 万度こんにゃくを探すため、手始めにスーパーマーケットをあたる。閑散とした国道沿いにマルナカ万度畑町店を見つけ、だだっ広い駐車場に入る。

「マルナカーマルナカーなかなかじゃん」耳に残る陽気なスーパーのテーマソングを背に、買い物かごをカートにのせ、こんにゃく売り場へ直行する。しかし、万度こんにゃくは見つからない。目当てのこんにゃくを陳列していたスペースは空なのだ。『万度こんにゃく119円!』手書きのポップが陳列什器の吐く冷風でゆらゆら揺れる。

 缶コーヒーを2本セルフレジで会計を済ませ喫煙所へ向かう。


 喫煙所には先客の老人が一人いた。

「あのいいですか?」

「何ね?」

 老人は訝しがる視線を向ける。

 よそ者にいきなり声をかけられたのだ致し方ない。しかし、ここで引くわけにはいかない。半ば命掛けでここまで来たのだ。

「ちょっと伺いたいことがあるんですけど、万度こんにゃくをご存じですか?」

「万度はごっつぉだけん手に入らいらだっただらー」(万度はごちそうなので手にはいらなかっただろ)

「どうしても食べたいんですよ」

「ほんなら冬至の祭りを万度芋まんどいも神社でやっちょーけん行きてみたら」(それなら冬至の祭りを万度芋神社でやっているので行ってみたら)

 老人は矢継ぎ早に早口でまくし立てる。

 気になる言葉があったような。

「万度芋神社ですか」

「そう万度芋神社」

 おおきな手掛かりを得た。

 神の導きだろうか?

「ありがとうございます」

 缶コーヒを老人に手渡す。

「だんだんね」(ありがとうね)


 老人から目当ての情報を得た後は、世間話をいくつかしてよきタイミングで喫煙所を後にする。

 カーナビの目的地に万度芋神社を入力しマルナカを出た。







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