第23話 最終話
僕は消えた。存在価値である薔薇が成立しなくなったから。薔薇が成立しなくなったら、僕は消えるという事を兄は知っていたのだろう。
***神SIDE
チェギョンが消えた。兄を殺せなかったのね。
――兄を殺すことができたら……僕を消してください
あなたは、そう私に頼んだわよね。でも、殺すことができなかった。私も、悔しいけどあなたの処分を決めるとするわ。
***シスSIDE
チェギョンさんがいない。そう思うだけで、生きる気力も出なかった。部屋の隅に、膝を抱えるようにして座り込んでいるシス。この前の事を思い出す。
――シス……戻ったんだね
――僕の事は忘れて良いからね
チェギョンさんに言われた言葉が何度も頭の中でこだまする。
「忘れられるわけ無いじゃん……」
涙を一粒、また一粒とこぼし、膝に顔を埋める。チェギョンさんに会いたい。あの時に、会いに行った理由を伝えたい。あの時は、チェギョンさんに「死神でもいいから、私はチェギョンさんが好き」と伝えたかった。それだけ。それだけを伝えに行ったはずなのに、気付いたら倒れ込んでいるチェギョンさんがいて……消えるなんて。
あの出来事から一か月が経った。元気が無さ過ぎて会社にはまともに行けていない。こんなこと、そんなことで会社に行けないなんて、笑われるだろうけど、私はそれくらいチェギョンさんが大切だった。なくてはならない存在だった。
シスはふと、コーヒーが飲みたいと思った。脳が欲しているのだろう。このままだと、脳をあまりに使わな過ぎてどうにかなってしまうと、ね。シスは、服に着替え、近くにあるカフェに向かった。
***神SIDE
あれからチェギョンの処分について考えていたけど、良い処分が思いつかない。あの時、チェギョンと一緒に立ち寄ったカフェでカフェオレを飲んでいる神。すると、ある女性が店内に入って来た。その子から、尋常じゃない欲求を感じた。神はその子が座ったテーブルに向かい、その子の向かいに座った。
「こんにちは」
『あ、こんにちは』
「急にごめんなさいね、あなたと話がしたくて」
『私とですか?』
「そうよ。あなた、悩みごとがあるの?」
『まぁ、はい』
「そのことについてじっくり聞かせてくれない?」
私がこの子に近づいた理由は、その子から、人間ではない、あっちの世界の匂いを感じたから。
『私の、大切な人がいなくなってしまって。それで、全く生きた心地がしないというか、全く元気が出ないんです」
『そう。そうだったのね、まさか、その人、去る前に変なこと言ってなかった?』
「変な事。……はい、信じないかもしれませんが〝死神〟だって」
それを聞いた瞬間、決まった。チェギョンの処分を……。
『なるほどね。私、そういう話好きよ。もっと聞かせて?』
***シスSIDE
チェギョンさんがいなくなってから2か月後に私は会社に行った。久しぶりに行った会社では、社長がいないことが会社中に噂になっていて、社長の仕事は秘書が行っているそうだ。
そして今は、チェギョンさんがいなくなって半年という月日が過ぎた。チェギョンさんがいない今でも、会社で仕事を頑張る反面、チェギョンさんをずっと探している。でも、もうチェギョンさんは帰ってこないんじゃないかって、あれは私の夢だったんじゃないかって思い始めている。
シスが自分のデスクで資料作りをしているとハニ部長が声を出した。
『みなさん、聞いて下さい。デザイン部は、デザインを急ぐようにと社長命令が出ました」
社長命令? 社長はいないはずじゃ……。
でも自分の中でよくわからない感情が心の中をさ迷った。そして誰かが囁いた「走れ」って。シスは勢いよく立ち上がり、ある場所を目指して走った。廊下を走り、途中、混んでいるエレベーターではなく階段を駆け下り……辿りつた場所は、中庭だった。
息を切らしながら、探す。あの人を……あの人だけを……。
すると、ベンチに美しく、本を読んでいる人がいた。逆光でその人の顔は見えなかったが、シスは大きな声で叫んだ。
「チェギョンさんっ!!」
そう呼ぶと、その人はシスのいるところをまっすぐに見た。シスはその人の所へ走って近づいた。その途端、その人の顔が見えた。その人は本を閉じ、立ち上がった。シスはスピードを緩めず、その人に抱き着いた。
「チェギョンさん……」
『何泣いてるの、シス』
本物のチェギョンさんだ。
「チェギョンさん……」
言葉が出なかった。私はただ、チェギョンさんの胸の中で泣いているだけ。でも、チェギョンさんは何も言わず、その大きな手を私の頭に乗せてくれた。
***チェギョンSIDE
僕は人間になれた。神が僕にそういう処分を下したのだ。『あなたが一番望んでないことをする』と笑顔で。
シスは僕を見上げて言葉を発した。
『チェギョンさん……私、チェギョンさんが……好き』
チェギョンさんはシスの目を見つめた。その瞳はあまりにも純粋で美しかった。
「ごめん、そういうのは僕から言うべきだった。……僕も好きだよ、シス」
二人は固く、強く抱きしめ合った。そして僕はシスにこう言った。
「もう……君は僕のそばを離れてはいけない」と。
FIN
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます