第14話 お寺②

 仕方がないので、寺務所の中の電話を貸してもらうことになった。ボタンを押そうとして、指先が、無意識にくるりと円を描いた。全く、自分でも何を焦っているのやら。気をとり直して家の番号を押した。


 呼び出し音が三回ほどなって、母が出た。

「もしもし、母さん」

 ひとこと喋った途端、母は、えらい剣幕で捲し立ててきた。今、何処にいるのかだの、何をしていただの、挙句に警察から電話があったと訳のわからないことを言い出す始末だ。

 お寺に居るので、これから向かうと言ったら、迎えを寄越すと言われた。車で行くから別に要らないよ、と断ると、寝ぼけたことを言うんじゃない、と怒られて電話を切られた。一体どうしたんだ。大丈夫か?


 迎えが来るまで寺務所で待つことにした。ソファに腰掛けて、住職さんと世間話をしていると、奥さんがお茶とお菓子を運んできた。こちらがお世話になってしまっているのに、何だか悪い気分だ。


 ひとまず電話代だけでも、渡そうと思って、財布を取り出した。お金を下ろして来なかったから、あまり入っていないだろうが、少しくらいはあるだろう。


 財布を開けると、お札が一枚入っていた。良かった、これで何とか体裁がつく。ほっととして、取り出すと、見たことのない紙幣が現れた。青いインクでしかめ面をした男が印刷されていた。狐につままれたような気分だ。こんなものが、どうして入っていたのだろう。


「おやおや、五百円札ですか。これは珍しい」

 そう言って、住職さんは笑った。


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