てくてく詩集

ホタテ風味

「ダイエットをする」、そう言い放（はな）った舌の根も乾かないうちに、……そこに私はバターを塗（ぬ）るのか……。

罪悪感がつべこべ言ってる。(あーあ)って、(どこぞの先生に言ってやる)って。(お前の決意は、クラッカーより長生きできた試（ため）しがないよな)って。(お前にもプライドがあるなら、のっぴきならないとか二度と口にするな)って。

……ちょっとヤバいわよ、このままじゃダメだ、耳がダメになる、……いや、その前にメンタルをやられる……死んじゃいたいとか思う前に、死ぬほど食べて、はやく記憶喪失（きおくそうしつ）にならないと……じゃなきゃ、いつか心がダメになる、……死とかやばいわよ……これは……のっ……よんどころない事情よね……だとしても、……もうすべておしまいだ……。ご破算（はさん）で、散々で、酸素が吸えない。お先真っ暗、電気どこ？　過呼吸（かこきゅう）なんて夢の夢。ほふく前進とかしたって奈落（ならく）の底だ。ダメだ、不時着（ふじちゃく）したってただではすまない。

だから私は一か八か、馬の耳にこっそり念（ねん）じる。頼むから念仏（ねんぶつ）を聞いてくれ……。後生（ごしょう）だからそうしてくれ……。

……ぅぅ……ヤバい……、……バターがうまそうで死にそう……、いっそひと思いに吐露（とろ）してくれぇ……。

『おいしす、おいしす。……ああ、おいしす。我（ワレ）は、とてもおいしそう』

《バターはエネルギー》。これは全然言いすぎじゃない。ていうか心配のしすぎだ。

ねぇ私の双肩（そうけん）。お願いだから無駄な力を抜いて。だって、肩凝（かたこ）りとか無駄すぎるでしょ。無駄な地獄は嫌すぎるわよ。あんたに分かるか？　上司の体面（たいめん）のためだけに、遅くまで残業させられる惨（みじ）めさがぁ……!!

ああ！　このバターめ！　いったいどこでベロチューなんて覚えたんだ!!

……頼むから私の記憶から消えてくれ、……おいしかったのはありがとうだけどさ……。

カロリー高すぎでしょあんた……。……あんたさ、カロリー押さえたらもっと人気でるのに、もったいないと思わない？　イメチェンで、気分転換（きぶんてんかん）とか、どう？　ねぇ？　ちょっと？　ねぇってば？

手前味噌（てまえみそ）が超うまいとか、……なに言ってんのよ。……恥（はじ）を塗るとうまくなる？　気は確か？　味噌状のものに何かを塗るなんて……。あんた、ヤバくなったね、あんた昔よりだいぶヤバくなったね……。

心理学的観点（かんてん）からいうと、北岸（ほくがん）よりも、南岸（なんがん）の方があったかそう。

肉マンはとても熱い。餡（あん）マンはいっそマグマ。缶入りココアはホッカイロ。

食べ物で暖（だん）をとり、私はだんだん眠くなる、食べすぎな事実が遠くなる

ケチャップのついたフォークでシューマイを突き刺すと、どうしたって痛そうになる。

食べ物で遊ぶなって……？　人の心を弄（もてあそ）ぶのに比べたら、些細（ささい）なことじゃない……。あとからちゃんと食べるしさ……。

黒ゴマの面子（めんつ）は丸潰（まるつぶ）れ。それを見て、白ゴマが大爆笑してる……。……いいこと？　これが世の中の構図（こうず）よ。世界の真理がここにあるの。お願いだから目を逸（そら）らさないで……。

……私……誰かのダイエットの失敗を糧（かて）に生きている……、……私……そんな自分がホント嫌……、……もうほとんど生ゴミじゃんか……。

もう私の心は冷凍食品。カチコチで動けない。アイアムそのへんの石ころ。

だけど私は、地味に不死身。お手軽なのが保存食。宇宙食、宇宙人にも、お裾分（すそわ）け。

呼べ、シェフを！　料理のデリシャス言ってやるぅ……、まだ食ってないけれども!!

毒を食らわば沙羅双樹（さらそうじゅ）まで。ブラックホールは味オンチ？　ドレスコード？　ＴＰＯ？　そんなの知らないし、これからも覚えません。ところ構わず『くわばらくわばら』。それにしたって花言葉はいろいろあって食えないわ。もし仮（かり）に食べるなら、地盤沈下（じばんちんか）でまとめてぜんぶがいっそ楽。

闇（やみ）を飲むと……意外とおいしい。【ダイエットなんてそのすべてが欺瞞（ぎまん）】。

あんたから見て、暗黒道（あんこくどう）の床は、出汁（だし）で沁（し）みているか？　煮汁（にじる）を飲みながらニヒルに笑うアヒルの迫力。白鳥とか黒鳥とか言ってないではっきりしてよ……はいはい、灰色ってんでしょ……、……絵の具かよ……。人の気持ちってのはね、そんな簡単じゃないのよ。……絵の具とか何の意味もないわよ……だってあんなにカラフルだけど、……ぜんぶ同じ味じゃない……。

人の不幸は、炭酸水（たんさんすい）じゃとても割り切れない。お湯割（ゆわ）りで、なんとか飲めるかな、くらいな感じだよ……。

……人の不幸は買ってでも見ろとか……誰だそんなこと言ったの……訂正（ていせい）して……誰でもいいからはやく……。

はい。私泥酔（でいすい）時は、立ったまま地べたを這（は）ってます。そして、みるみるお腹（なか）は虚無（きょむ）になる。

夜空を見上げると、なんだか無性（むしょう）に気が晴れて、つむじを爽快（そうかい）気分にどやされた。

「もう知らん。それがすべてだ」

たぶんだけど、半年後とかには痩（や）せてる気がする。おそらくだけど、なんか都合のいい奇跡とかが起こって。

バターは宿命（しゅくめい）、バターはうまい、バターはすべての上位互換（じょういごかん）。

バターは真実、バターはヤバい、バターはあしたの天上天下（てんじょうてんげ）。

バターを避（さ）けては通れない、それが人生。だってバターはエネルギーなんだから。

今夜はおやつに、あれを思いっきり食べよう。

バターをホタテで炒（いた）めたやつを。