I Hate Christmas

野宮有

I Hate Christmas

 サンタクロースの正体を知ったとき、わたしは生まれて初めて失望を味わった。

 平凡な日常からは想像もできないほど遠い場所にいる誰かが、ちょっとした奇跡を演出してくれる――そんな美しい物語に、幼いわたしはずっと憧れ続けていたからだ。子供が眠っている隙を見計らって親が枕元にプレゼントを置いていくなんて、あまりにも夢のない光景だと思った。

 大人に近付くにつれて、わたしたちは少しずつ現実の味を覚えていく。

 トナカイは空を飛べないし、しゃっくりが百回続いても別に死ぬことはないし、赤ちゃんはコウノトリが運んで来るわけじゃないし、子供の頃に交わした結婚の約束が果たされることなんてありえない。

「そういえば俺、この前彼女できたんだよ」

 高校からの帰り道を二人で歩いている途中、かつてサンタクロースの正体を教えてくれた彼が告げた。貸し借りしている漫画の感想とか、来週から始まる中間テストとか、そういう何でもない世間話をしているときと全く同じ口調で。

 彼は本当に、わたしのことをただの幼なじみとしてしか見ていないのだろう。子供の頃の約束なんてきっともう覚えていない。あんな子供じみた空想は、時間の流れに乗ってやってきた現実によって淘汰されてしまったのだ。そんなことをはっきりと理解してしまえるくらい大人になってしまった自分が、どうしようもなく恨めしかった。

 おめでとう、と白々しい笑顔で言いながら、わたしは乾いた冬空を見上げる。

 せめて雪が降ってくれればいいのに、と思った。

 そうすれば自然な流れで話題を切り替えることができるし、彼の方を向けずに上ばかり見ていることの説明もつく。頬を伝う水滴だって、きっと雪のせいにしてしまえるのだ。

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I Hate Christmas 野宮有 @yuuuu_nomiya

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