010

 奏真が教えたおおよそ百倍の威力の魔法を放った雪音。今一度奏真は雪音の事を確認するために雪音の魔力量を目測する。


 すると驚く事が明らかになる。


「………おかしい。会ったときより魔力の総量が増えている」


 魔力総量、奏真で表すと数値にして75の魔力。自分が魔法を使う為の燃料だと想像するとその容器が総量マックス。

 その容器が増えることはあり得ない。

 多少成長して増えた事は確認されているがそれでも急には増えたりしない。


 何か異常な事が雪音に起きていると奏真は考えた。

 未だに雪音の魔力総量が増えていく。


「霧谷、今起こっていることが分かるか?」


 雪音の肩を持って奏真が聞くと雪音は目を反らしながら答える。


「えっと……もしかして森に大きな穴を開けた事ですか?」


 何かいけない事をしたと勘違いした。


「いや、それじゃない。お前の魔力に関してだ」


 そう言われて雪音は考えるように目を閉じる。そして開く。

 自分の魔力が前より増えている事に雪音自身も気が付いた。


「…………あ、魔力がます」


「戻って?………どういう事だ?元の魔力は今の量ではないって事か?」


「はい。領主様にお世話になっていた時はその………強制的に魔力を低下させる薬を常時飲まされていたのですが………その効果が切れ始めたようです」


「…………」


 ただでさえ元から魔力は多い方だった雪音の魔力はまだ増えると言う。

 それを知った奏真とアサギは言葉を失った。それと同時に領主が物扱い、忌まわしきエルフ族と知ってなお執着する理由を知る。


「一体どれくらいまで……」


 未だ増え続ける魔力は止まる様子を一切見せない。


 雪音の魔力が急増し始めてからおよそ一分が過ぎる。すると今度は、突然地面が大きく揺れ始めた。


 バランスを崩し倒れる雪音。アサギは片ひざを着き、身を低くする。奏真はじっ、と動かずその場で揺れているにも関わらず立ち尽くした。


「魔力が引き起こしたのか?」


 そうアサギが推測する。

 更に揺れから異変は加速する。


 大きく揺れたと思えば今度は雪音のすぐ近くの地面が隆起し始めた。

 盛り上がるように地面が膨張し、次第にその大きさを増していく。


 明らかに不自然な光景に奏真は雪音を抱えてその場を離れた。


 その直後、

 

 隆起している地面が耐えられずビビを入れると広がり、破壊する。

 破壊された所は大きな穴となり、そこから土が噴出した。まるで小さな火山のように。


 土が噴出したところからは何かが這い出るかのように、更に勢いよく手と思われる影が表れた。


 その大きさは出てきた手だけで二メートル近くはある大きさ。


「いや、これは霧谷の魔力じゃない………これは………」


 アサギの推測を否定する奏真。


 土の中から飛び出した巨大な手は近くの地面に手のひらを着き、胴体を押し上げようと地面を押した。


「霧谷の魔力に反応した何か、だ」


 更に強まる揺れ。這い出た手以外のところからも隆起が始まりいよいよ本体を現そうとする。

 巨大な手の隣から頭と思われる大きな影、そして更にその隣からもう片方の手。徐々にその正体を現す。


「そして、これは古代魔道兵器のひとつのものの類いだろうな」


 奏真のいう通り、モンスターや他生物にあるような体毛はない。この世界の現代には似つかわしくない見た目。


 現した上半身は全て鉄に近い金属系の材質で覆われている。人と同じように地面から出た腰から上は、頭、胴に別れ腕も二本。

 頭と思われる所には鈍く赤色に光る目のようなものがひとつ。

 両腕は関節があり手は四本指と手のひらから構成され、造りとしては人間の手に近い。


 一言で言うならばひと型「ロボット」。


 目のような赤色の光を放つそれが奏真たちを認識すると何か言葉のような音を発した。


「――――――ッ――」


 その後握り拳を作る。


「………ただのポンコツな訳では無いようだな。アサギ、避けろ」


 嫌な予感が頭を過る。

 アサギに命令した後、雪音の元へ走る奏真。倒れ込んだ雪音を抱え、その場から飛び去るようにバックステップを踏んだ。


 直後には奏真の目の前に大きな拳が地面へと振り下ろされる。


 ズンッ


 辺りに地鳴りが響き渡る。

 振り下ろされた所には小さくクレーターが出来ていた。


「これはくらったら無事じゃ済まなさそうだな」


 間一髪で雪音を抱えて回避した奏真は出来たクレーターを見てサラッと感想を言う。

 雪音は頭の中が真っ白になっているのか無言のまま微動だにせず奏真に抱えられていた。


 二人が無事なのを目で確認してアサギは立ち上がり反撃に応じる。


「攻撃されたし、ぶっ壊してもいいよな?」


 それはその古代魔道兵器への問い。答えられるかは別として、答える間も与えずにアサギは氷魔法を自らの頭上に展開、速攻で発射した。


 氷の塊がおよそ十発。古代魔道兵器へと近付くと数十センチ間近、【障壁シールド】で遮られる。


 ズガガガガッと勢いよく当たるが一切の傷を付けられずに防がれる。


「【障壁シールド】を使えるのか!?」


 古代魔道兵器によるまさかの行動にアサギは驚いた。

 そんなアサギに反撃の反撃。


 古代魔道兵器がピピッと何かの機械音を鳴らす。次の瞬間には炎魔法が古代魔道兵器の手のひらから創られた。


「………攻撃魔法も使うのか!?」


 それもボウリング球程の大きさの炎が七つ不規則に漂っている。


 再度、古代魔道兵器はピピッと音を鳴らした。


 何が音を鳴らしているのか、検討もつかないが、この今の音のだけは奏真もアサギも、雪音にも理解出来た。それは―


 ロックオン。


 アサギに定めたのか手のひらを向けた。

 発射―――と思われたがその魔法は他意により掻き消された。


「アサギ、トロール戦と基本的には同じ作戦で動け」


 掻き消した本人は奏真。

 雪音を下ろし、アサギの隣まで来ていた奏真は魔法を放っていた。


 奏真が出した指示、アサギはトロールとの戦いを思い出す。雑に立てられた作戦。

 その内容は挟んで裏を取れた片方がちょっかいをかけて動いたところを攻撃。


 しかし今回は更に作戦が追加される。


「ただ、今回はアサギに霧谷を守ってもらわなきゃ困る。俺にはあの規模の魔法を防ぐ術はない。だから今回は俺とアサギの役は交換だ」


 防壁系統の魔法、【防壁魔法】【障壁シールド】は魔法を防ぐがそれはある程度の威力ならば、である。あまりにも威力が高いと貫通してしまう。

 また【障壁シールド】は魔力総量によって大きく耐久力が変わるため奏真の魔力では防ぐ事は出来ない。


 奏真が掻き消したように使わせない事は可能であるが、それでは防戦一方になってしまい兼ねない。

 そのため奏真は雪音をアサギに守らせる指示を出した。


 今回は相手の気を引いた方ではなく奏真が無理矢理でも気を引かせ陽動役となる。


 早速奏真は、意識を反らされる為にアサギと雪音に反対側へ移動するように言う。


「俺が攻撃してる間に後ろへ回れ。合図があるまでは魔法を使わなくていい。全て守りに使え。霧谷に当てさせるなよ?」


「了解、どこを狙うかは指示してくれ」


 頷くアサギ。

 奏真は古代魔道兵器が追撃に応じようとしたためまた魔法を展開、速射。


 古代魔道兵器は【障壁シールド】で守らざるを得ない。


 更に連射してアサギと雪音が移動を終えるまで攻撃を続ける。


 魔力が減らない体質だからこそ出来る芸当だ。本来の奏真の魔力ではすぐに魔力を切らしあっという間に古代魔道兵器による反撃が再開されてしまう。


 アサギは奏真の魔法の連射を見て、雪音を先導して古代魔道兵器の後ろを回る為に移動を開始する。

が、そう簡単にはいかない。


 古代魔道兵器はアサギと雪音が移動するに連れて自身の体も横へ回転させ始めたのだ。それも奏真が放つ魔法を防ぐ為に【障壁シールド】をその場に展開させたまま。


 驚く間もなく古代魔道兵器による左ストレートが二人を襲う。

 動きを予測しているのかアサギと雪音の少し手前に飛来する。


「おっと?」


 アサギには見えている攻撃。雪音をお姫様抱っこで抱え更に少し加速して避ける。

 真後ろではズンッと地を鳴らし、金属の塊が地面をへこませる。


 結果的に無事奏真と百八十度角度をつけたが古代魔道兵器からは正面となってしまう。これではアサギと雪音が囮になったようなものだ。


「このやろう。腰付近にベアリングでもついてんのかよ!?」


 悪態をつくアサギ。勿論奏真も良くは思っていない。


「俺ごときの魔力じゃあ【障壁これ】で防ぐだけで充分ってか?ならその余裕なくしてやるよ」


 膨大な魔力を持つ雪音がいるとはいえ、奏真には全く見向きもしない古代魔道兵器に腹を立てる。

 連射している魔法の角度を変えて【障壁シールド】からずらすように散らす。


 これにより古代魔道兵器は背中にただ【障壁シールド】を張るだけでは防ぎきれなくなる。

が、すぐに対策されてしまう。


 散らす奏真の魔法に合わせて【障壁シールド】も複数枚展開し、散らす奏真の魔法全てを防ぎきった。


 この対策の早さに奏真は苦笑を漏らす。


「学習能力があるのか?」


 攻撃対象の優先や、攻撃に対して確実にかつ効率的に捌いていく。腕のいい相手と戦わされている気分になる。

 その事を考慮して、もう一度策を練るために古代魔道兵器から数歩距離を置く。


 アサギは雪音を抱えながら攻撃を避けているがいつ当たってもおかしくない。慌てずにしっかりと冷静に事を分析する奏真。


「……………」


 この間およそ二秒。


 頭の中で古代魔道兵器を倒す算段が思い付いた。奏真は再度接近を試みる。


 相変わらず奏真の事を舐めているのか、敵として認識するまでもないと言わんばかりに攻撃は一切してこない。魔法は【障壁シールド】のみ。

 状況はトロールの時と同じだがレベル的には古代魔道兵器の方が圧倒的に上。それでも奏真には勝つ算段がある。


 攻撃してこない古代魔道兵器へ最短距離で近付く奏真。懐へと一気に潜り込んだ。


 それでも古代魔道兵器に奏真を攻撃するような動きは見せない。

 【障壁シールド】を潜り抜け、古代魔道兵器の胴体へゼロ距離にまで迫った。

 魔法陣をそこに展開。直径二メートル程の大きな陣を描いた。奏真は遠慮なく攻撃を叩き込む。


 遠くからでは奏真の魔力的に威力、速度、射程が安定しない。防がれる事が目に見えているので奏真は防ぎようのないゼロ距離で魔法を放った。


 ズンッと大きな音を立てるが古代魔道兵器には胴体に亀裂が入るだけで充分なダメージは通っていない。


「ちっ………古物のクセにかってぇな」


 破壊目的で魔法を放ったつもりだったが予想以上にダメージが通らなかった事に舌打ちする。


 しかし、奏真のその攻撃が古代魔道兵器の警戒度を引き上げた。

 再度ピピッと音を鳴らす。


「脅威ヲカクニン。優先ヲヘンコウ」


 亀裂を入れた魔法が古代魔道兵器にとって脅威と認識する。奏真の方へぐるりと体を半回転させ振り向いた。

 そして、再度地ならしが響く。


 ここからが本番だと言わんばかりに、古代魔道兵器の埋もれていた脚部が姿を現した。

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