第22話 本気で好きになりましたよ

「あれ? そういえば、卵の残りはどうなったんだ?」

 研究するのはいいけどと、奏汰は置いておくとされた料理の数々はどうなったのかと気になる。

「ああ。あれは奏汰が食べたら危ないからって、ベルゼビュートが持って帰ったぞ。今頃、毎晩サタンと宜しくやってるんだろう」

「あっ、そう。てか、悪魔は大丈夫なんだよな」

 ルシファーは奏汰がヤバくなった日も冷静で普通だった。ということは、ちょっと料理で食べたくらいでは作用しないってことか。

 しかし、サタンとベルゼビュートが付き合っているってのも変な話だよなあ。魔界トップ2だよ。

「まぁ、悪魔はもともと精力が強いからなぁ。奏汰とは水準が違うのかも」

 そんな疑問は感じないルシファーは、だって悪魔って欲望に忠実な生き物だしと付け加える。

「ああ、そうか。人間の基本的な欲求は全部強いのか。お前って大食いだし大酒飲みだし、よく寝てるし。せ、セックス好きだし」

 三大欲求制覇してるよなあと、奏汰はベッドにもぞもぞと潜り込みながら納得。

「そうかな。そんなに食っちゃ寝していないはずだけど」

 おかしいなあとルシファーは首を傾げるが、奏汰がこうやって寝込むまで、先に起きていたことがないのはどこの誰だ。

「寝顔は可愛いからいいか」

 しかし、寝ている顔を見ると悪くないかもって思っちゃうのも事実でと、奏汰は悶々としてしまう。

 ああ、なんかドラゴンの卵で暴走したあたりから、色々とルシファーに対して余計に好意的に見ている気が。

 ってそうか、一週間がっつりルシファーに看病されたもんなあ。

 責任を感じたルシファーはしおらしく、いつもの俺様態度もなりを潜め、せっせと奏汰のためにあれこれ世話を焼いてくれた。

 ベヘモスに手伝わせるのは準備だけで、着替えも食事も、あまつさえトイレや風呂まで世話してくれたんだから、そりゃあ好意的に見てしまう。

 そしてこっちも、もう隠すところがないってほど総てを曝け出してしまったわけで――

「ヤバいなあ」

 自然と顔が真っ赤になる。

 好きって気持ちが大きくなっちゃうじゃん。

 布団の隙間からこそっと覗くと、そのルシファーはもう悩むのを止めて、奏汰の横に座ると書類を捲り始めた。こういうところは真面目だ。

「なあ、事業って上手くいってるのか? ってか、この町の店舗ってほぼお前のものなの?」

 仕事の邪魔になるかなと思いつつ、かねてからの疑問をぶつけてみる。

「そうそう。みんな事業主ってのにはなりたがらなくてねえ。まあ、責任あるし考えることが多いからだろうね。バイトはすぐに見つかるんだけど。お金は欲しいからね。昨今、人間界に遊びに行くのもお金が掛かるしさ。ってなわけで、大体の店舗は俺様のものかな」

「へえ」

「商売敵になるといえばアスタロトくらいだけど・・・・・・あっちの商売は地味だから大丈夫だし」

「ほう」

 一応他にもルシファーと似たようなことをしている悪魔がいるのか。

 まだまだ魔界は奥が深いのだった。



 夜、奏汰に新たな試練が待ち構えていた。

 ヤバい! 意識しちゃうとヤバい!!

 今まで、まぁ、なんとなく流されてここまで来た奏汰だ。あれこれセックスと呼べることまでやってるくせに、どこかで本気じゃなかった。

 それが一波乱あり、本当に本気でルシファーを好きになっちゃった!!

 もう認めるしかないなんて消極的なことは言えない。大好きじゃん、俺。

 奏汰はドキドキしてしまって、非常に困惑してしまう。だから、ルシファーが肩に手を置いた時、思わずぱっと振り払ってしまったほどだ。

「か、奏汰、どうしたんだ?」

 今日も一人で風呂に入るのは無理だろうと手伝おうとしたルシファーは、奏汰に手を払われてビックリしていた。

 い、今まで拒否されたことなんてなかったのに! ま、まさか、体力も回復してきたから、俺様が嫌いだと全拒否するつもりか!?

「い、いい。自分一人で入る」

 その奏汰は顔を真っ赤にして拒否。

 今、この状態でルシファーに風呂に入れられるなんて、ドラゴンの卵を食べていないのに、アソコが反応しちゃうじゃん。

 ずぞっと後退る奏汰に、ルシファーはショック。

 これ、やっぱり拒否されてる!?

「む、無理だよ。昨日だって立ち上がれなかったのに! 一人でお風呂なんて入れない!!」

 急に何を言うんだと、ルシファーは無理やり奏汰を引き寄せた。このままでは完全に拒否されかねない。ただでさえドラゴンの卵騒動で負い目があるルシファーは必死だ。

「やめっ」

「逃げるな」

 ぼふっとルシファーの胸に収まり、奏汰のドキドキはピークだ。一方、ルシファーはどこにも行くなよとぐりぐり奏汰の頭にほっぺたを押しつけてしまう。

 しばらくお互いの体温を感じていると、徐々に冷静さも生まれた。

 ああ、やっぱり好きになっちゃったんだよなあ。

 奏汰はしみじみ。

 やっぱり奏汰しかいないよなあ。

 ルシファーもしみじみ。

「あ、あのさ」

「うん。俺様が嫌いになったとか、言うなよ」

「い、いや、逆で」

「え?」

 そこでルシファーもようやく、奏汰が手を振り払ったのが拒否ではないことを知った。そして、どういうことですかと少し身体を離す。

 すると、目の前には頬を真っ赤にし、目をうるうるとさせる奏汰。

 か、可愛い! 最強に可愛い!!

 ルシファー、思わず鼻息が荒くなってしまうが、そこはぐぐっと押える。

「奏汰」

「俺、ああ、もう」

 ルシファーみたいに言葉にするのなんて無理だ。奏汰は再びルシファーの胸にダイブ。おかげでそのままベッドにどさっと倒れ込む。

「か、奏汰」

「完全に惚れました」

 諦めて白状すると、がばっと起き上がったルシファーによって体勢が入れ替えられる。

「うおっ」

 奏汰は自分に覆い被さってきたルシファーをまじまじと見つめてしまう。

 その目は、いつもよりも本気だ。

「奏汰、も、もう一回」

 でも、言っていることは恋愛初心者と似たような反応。奏汰はそれにくすっと笑うと

「好きになったって言ってんだよ」

 ルシファーの首に腕を回し、いつもよりも深くキスをしていたのだった。




「よう、奏汰! しばらく見ない間に所帯染みたな」

 二日後、お見舞いにやって来たサタンは、会うなりそんなことを言いやがった。

「ぶほっ」

 おかげで奏汰は食べていたお粥を吹き出す。

「それはそうですよ。ついに俺様たちは相思相愛ですから♪」

 しかし、ベッドの横に座るルシファーはにこにことそう宣う。おかげで奏汰はごふごふっとむせた。

「なるほど。トラブルを乗り越えてついに……か。くそっ、この屋敷に奏汰が馴染んでいるはずだ」

 俺のワンチャンなしか、とサタンは悔しそう。しかし、手に紙袋を持っていたのを思い出し、はいっと奏汰にプレゼントした。

「なにこれ?」

 やけに重い紙袋を開けると、中からお馴染みの栄養ドリンクが!

「うおっ! 嬉しい!! やっぱり元気出ない時はモン○ターかレッ○ブルだよね~」

 出てきた人間界の栄養ドリンクに、奏汰は満面の笑みだ。それに、サタンはやったねと得意気。

「ホストのルキアに聞いたんだ。人間が最も疲れた時に欲しいものをな!」

 そしてあっさりネタばらしをしている。

 本当にこの人、悪魔の王ですか。すんごい捻くれたところがないんですけど。

「なるほど、これが奏汰の欲しがっていた栄養ドリンクだったのか」

 ルシファー、モ○スターを一本取って、どれどれと飲み始める。

 おい、それ、俺のだ!

「俺も飲もう」

 奏汰はお粥もそろそろ飽きたしねと、同じくモンス○ーを飲み始める。

 ああ、安定の味わい。これが一番だよね~。ベヘモスお手製のドリンクも美味しかったけど、安心感が違う。

「奏汰、俺も欲しい」

 で、二人が飲んでいるとサタンも欲しくなったらしい。奏汰ははいっと、同じく○ンスターを渡した。

「このタイトルがいいよな~。まるで俺様たちのことを言っているよう」

 ルシファー、ぷはっと飲み終えてそんなことを言う。

 悪魔ってモンスターか? 分類としてはモンスターなのか?

「ワイルドな感じがするじゃん」

 しかし、ルシファーはきらっきらの笑顔でそんなことを言う。

 あの、ごめんなさい。君からワイルドさは感じません。

「俺はこの味が好きだなあ。いいなあ、やっぱり人間界は色々とあって。欲望に忠実なのは実に素晴らしい」

 その横でサタンは味がお気に召したらいい。

 しかし、発言は悪魔の王らしかった。

 うん、この人は見た目に騙されちゃ駄目なタイプだな。やっぱり悪魔だよ。

「奏汰、見舞いに来たぞ~♪」

 そこに人間界の栄養ドリンクを教えた人、ルキアがやって来た。そして俺からはこれ、とリ○ビタンDの箱を差し出してくる。

「いや、栄養ドリンクばっかり要らないよ」

 奏汰はありがたいけどさと苦笑。

 ここで重ねてくるあたりがルキアらしくていいよなあ。

「まあまあ。今後、夜の生活が充実したら毎日必要だから」

 でもってルキア、爽やかな笑顔でとんでもないことを言ってくれる。

 おい、どういう伝聞のされ方をしているんだ。

 奏汰はちょっと心配になったが

「そうだな。これで奏汰が回復するんだったら、俺様も輸入しないとなあ」

 とルシファーがナイスアイデアと笑顔になったので、まあいいかと放置するのだった。

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