第21話 大変なことになったよぅ

「凄い、卵フルコースだ」

 夜。奏汰はテーブルに並んだ料理を見て、普通に驚いていた。

 卵料理、ここに集結。そんなメニューだ。

「無理して全部食べなくても大丈夫ですよ。残りは冷凍しておきますから」

 ベヘモス、好きなものからどうぞと笑顔だ。

 カップ麺は許せない執事だが、ルシファーの夜の生活に関わる卵料理は積極推奨らしい。

 はぁ、執事。

「凄いだろ。ベヘモスとシェフのニスロクが協力して、奏汰の国の料理も勉強したんだ」

 すでに席に着いているルシファー、えっへんと自慢していた。

 ははあ、これだけ褒めてくれる主人ならば、屋敷に仕えている人たちも張り切っちゃうよね。

 奏汰はぐったり。

「どうぞ、奏汰様。日本ではだし巻き卵というものが有名だと聞きまして、再現してみました」

 ベヘモス、いそいそとだし巻き卵を勧めてくる。ちゃんと箸まで用意してあった。

「あ、ありがとう」

 そんな気遣いを無碍に出来るわけもなく、夜頑張りたくないから食べないなんて言えるはずもなく、奏汰はだし巻き卵をぱくり。

「うまっ」

「それはよろしゅうございました」

「ベヘモス、俺様にもくれ」

「すぐにお持ちします。奏汰様はこちらもどうぞ」

 ベヘモス、そう言って茶碗蒸しを差し出してきた。本当に日本の定番料理が色々とある。

「うわあ、いい匂い」

 でもって、茶碗蒸しの蓋を開けると香るいい出汁の匂い。本当に凄いよ、ここのシェフ。

「美味いなあ。日本人ってのはこんなに美味いものばかり食べているのか」

 ルシファーも初めての和食に感動していた。顔がとろっと溶けている。イケメンも台無しのだらけた顔だ。

「毎日じゃないけどね。でも、定期的にお出汁の味とか味噌汁は恋しくなるかなあ」

 奏汰、茶碗蒸しにちゃんとぎんなんまで入っていてビックリしてしまう。

「ほほう。なるほどな。魔界で言うとなんだろう。葡萄酒煮込みとか?」

「なに、その洒落た定番」

 真剣に考えるルシファーに、そんなものを食っているのかと奏汰は驚く。

「だってほら、天界だと葡萄酒ってまあ神聖なものって感じじゃん。それをがぼがぼ大量に使う料理は、まさに嫌がらせ料理じゃん」

「いや、なんなの、その軽いノリ。そしてやっぱり天界を目の敵にして生きてるんだな」

 たまに神や天使を意識した発言があるが、そこは気にするんだと奏汰は確認。

「まあ、昔ほどじゃないけどな。それこそ中世なんかだと人間界もキリスト教で盛り上がって戦争とかしてたからさ。俺様たちも頑張って天使たちの力を削ごうとしていたよ。ううん、でもまあ、最近じゃあ、たまに嫌がらせしておくかって程度だな。だから料理とか性癖とか、そういうところだけ残るんだよ」

「な、なるほど」

 世の中が平和になったということですね。未だに宗教で揉めている国はあるけれども、天界や魔界が張り切るほどじゃないってことですね。

 奏汰は不思議なもんだなあと呆れるのだった。



 さて、久しぶりの和食にテンション上がって卵料理をたっぷり食べてしまった奏汰は――

「ナニコレ? こんなに即効性があんの?」

 すでに反応している股関にもじもじ。

「普通はそんなにビンビンにならないはずだけど、奏汰は人間だからなぁ」

 そんな奏汰にやったねと喜ぶルシファーだ。これは今夜、たっぷり楽しめるぞ~♪

「ちょっ、ホント……」

 しかし奏汰、まだ何もされていないのに、ルシファーに見られているだけで出そうで困る。

「ああ、ほらほら、早く」

 ルシファー、もじもじしてる場合じゃないよん~♪ と奏汰を抱き締めた。途端に奏汰が震える。

「ううんっ」

「えっ、まさか」

「まさか、です」

 奏汰、もう消え入りたいくらいだ。

 こんな、こんな……抱き締められただけで……

 一回でズボンがびっくりするくらいに濡れているのも恥ずかしい。

 しかもまたすぐに熱を持っている。

「効きすぎだな」

 さすがのルシファーも、異常事態だとびっくりしていた。



「はい、こちらサタン城。は? 何ですって?」

 いきなり夜に電話が掛かってくることも珍しいが、その相手がルシファーで、しかも奏汰のアソコの調子がおかしくなったと相談されたら、ベルゼビュートだってフリーズする。

「だ・か・ら! 奏汰にドラゴンの卵を食べさせたら効き過ぎたの!!」

 ルシファー、助けてよと声が大きくなっている。これはよほどの事態らしい。

「ともかく、出さないと無理ですよ。身体の中でその、暴走している状態ですからね。まあ、気絶しちゃえば後は楽です。ルシファーが頑張ればいいだけです」

「ううっ、そんな殺生な」

 奏汰とイチャイチャしたいし、ちょっと行きすぎたこともやりたいルシファーだが、基本的に奏汰が苦しむようなことはしたくない。

 それなのに、それなのに、イキ過ぎで気絶させた上に、さらに出させなきゃいけないなんて。

「仕方ないですよ。奏汰は人間なんです。ドラゴンの卵はいわば毒。身体から排出してやるのが一番ですよ。まったく、どれくらい食べたんですか?」

 ぐずぐず泣き始めるルシファーに、ベルゼビュートも心配になる。

「それがさ。ベヘモスが調べたんだけど、鶏の卵五個分くらいだって」

「・・・・・・人間にはそれでも多いってことですね。いい教訓です」

「ううっ、ベルゼビュート~。助けて~」

 助けてほしいのは奏汰だろうに、べそべそとルシファーが泣き始めちゃったよ。ベルゼビュートはきょろきょろと辺りを確認。サタンがいないことを確かめてから

「ともかく、すぐに行きます。いいですか。それまで、ちゃんと手伝ってあげるんですよ」

 奏汰は大丈夫だろうか。ベルゼビュートはぐずぐず泣いている大悪魔のルシファーよりも、精力剤が効きすぎてしまった奏汰が心配なのだった。



 結果から述べると、奏汰は一週間寝込むことになった。

 その横でルシファーも三日寝込んだ。

 何やってんだ、この悪魔は。

 寝込んで八日目、ようやく座ってお粥が食べられるようになった奏汰は

「なんで全部飲もうと思ったんだよ」

 ルシファーも寝込んだ原因に関して追及していた。

 そう、ルシファーが寝込んだ原因は腹痛である。それも、奏汰の出したミルクを腹一杯に飲んでしまったためという、救いようもない、どうしようもない理由でだ。

 人の出したもん勝手に飲んで、それで腹痛を起こしてしばらく下痢って。

 なんの嫌がらせだよ。

「だ、だって、俺様のせいだから。せめて気持ち良くしたかったし、いっぱい出るからもったいなかったし」

 ルシファー反省しまくっているからか、人差し指と人差し指をツンツンしながら説明する。それに奏汰は色んな意味で顔を真っ赤にする。

「たしかに手でされるより口の方が気持ちよかったけど」

「だろ?」

「だろ、じゃないんだよ。ベルゼビュートまで巻き込んで」

「いや、だって、全部出さないと駄目だって言うし」

 奏汰はああもうと頭を抱え、あの日のことを思い出して茹で蛸のように真っ赤になった。



 あの日、ドラゴンの卵のせいで下半身の暴走が止まらなくなった時――

「奏汰、大丈夫だよ」

「そうです。出すだけです。ほら、足を開いて」

 二人掛かりであれやこれや。

 もちろん奏汰は身体の暴走を何とかしたいので、身を委ねるしかなかった。

 しかし、ああ、しかし――

「可愛いですね、奏汰」

「だろ。ここ、ずっとびくびく震えてるんだ」

「ああ。ここが気持ちいいんですね」

「こっちも、こんなにきゅうきゅう動いて」

 二人の言葉攻めは本当に恥ずかしかった。そしてその様子を二人にずっと見られているのも恥ずかしかった。さらに反応する場所総てに与えられる刺激が、恥ずかしかった。



「死んでしまいたい」

「ぬあっ。駄目! 絶対に駄目だからな!!」

 あれこれ思い出してどんよりする奏汰の言葉に、ルシファーはそんなこと言わないでよと絶叫。

 まったく、あれもこれも誰のせいだよ。

「まあ、冗談として、ドラゴンの卵、凄すぎだろ」

 奏汰、この悪魔様を相手にしているうちにさらに逞しくなっていた。すぐに思考をチェンジ。

 あの卵、一体どんな成分が含まれているんだ。ただの精力剤とは思えない。

「そう言えばそうだな。悪魔でも卵一個全部食べると奏汰みたいになっちゃうらしい。ベルゼビュートが言ってた。かなり危険なものだったんだなあ」

 ルシファーもあれってどうなっているんだろうと首を傾げる。

 幸い、イキっぱなしになったものの、奏汰が死んでしまうこともアレが枯渇することもなかったわけだが、いやはや、危険な代物だ。

「ううん。調べてみる価値はあるかもな」

「おっ、化学者奏汰、ドラゴンの卵の謎に挑む! だな」

「まあ、当面の研究テーマに・・・・・・でも、その前に体力の回復だな」

 まだまだ重たい腰と、あの精力剤のせいなのか、たまに寝ている間に出ちゃう現象のせいで疲れている奏汰は、まだ立ち上がる気力はないのだった。

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