やひこ

 チュッ……チュッ……


まひるさんのすい方が変わる。


「ア、ンぁ……アン!」


それに合わせるように自然とこしがうごくぼく。


「あふれでてきよるわ……かんじてんの?」


「わから、ない……です」


「うそついたらあかんでぇ」


ペチャ、ペチャ


わざと大きな音を立ててなめ、口に付いた血をぐるりとふいて、ニヒッと笑う。


あごの右のほうにある大きいほくろが見えるから、ぼくは温かい息をだす。


「もっと気持ちようなってなぁ、まあにぃが全部受け止めたる」


またチュッチュッになってすい続けるまひるさん。


上だけぬいでいるキミドリの服がデンキよりも明るく見えて、目がチカチカする。



 ぼくはきりかえるためにこの部屋の中をを見ることにする。


ピンクと白のせんが入ったドアとかべにびっしりと写真がはってある。


左からしろ、ピンク、ミドリ、オレンジと4つに分かれているようだ。


そして、ぼくらがいるベッド。


 まひるさんの部屋?

 

 それとも、ピンク色のカレの部屋かな?


 

「やつがれのこと、お忘れでごさいませんか?」


いきなり、くびをグッとかまれてジュッとすわれた。


「アッ、アハッ……ァ」


くびがしめられたくるしさといきなり感じる気持ちよさにまたクラクラしはじめる。


「穏やかなやつがれでも怒ると怖いのでございます」


変になった息を直そうと、あごを上げてゆっくり

息をしたぼくはごめんなさいと言う。


「気にしてはおりませんよ。さて、かわいいお顔を見せてくださいませ」


両手をほっぺたに当てられて、右へとひっぱられる。


オレンジ色の前の髪の真ん中がちょんまげをおさえたような感じで目と口が三日月になっている顔が見えた。


なによりインショウに残ったのは口の左の方にある大きいほくろ。


まひるさんはあごの右の方にあったなとおもいだす。



 「お初にお目にかかります。やつがれの名は朝日夜彦あさひやひこと申します……以後、お見知り置きを」


おとな……やひこさんにあたまを下げられたから、ぼく同じようにする。


「そんなに畏まらずフランクでよろしいのでございますよ。タメ口と呼び捨てが心地よいのでございます」


「えっ、でも……」


今までケイゴでしか話したことがないから、とまどうぼく。


「じゃあ、まひるにいちゃんっていうてみ?」


変わらないまひるさんはかるく言う。


「あひるにいちゃん」


かんじゃったぼくにだれがあひるやねんと言って本物みたいなモノマネをするまひるさん。


「3文字+にいちゃんは上手く言えへんねや……せやからよびすてな?」


おとなみたいに笑ったまひるさんはまたペチャペチャとなめはじめた。


「グワークワッ、クエー!」


「対抗すんなや」


やひこさんのモノマネにつっこんだものの、クククッと笑った。


「やつがれは蔑まれたいのでございます」


またやひこさんの方を見ると、ほっぺたをテカテカと光らせて笑っていた。


「貴方様に虐げられたら興奮いたします」


うふふと笑うやひこさんにぼくは変な人だとおもったんだ。


 

 昼、夕、夜……あとは朝。

 

「もしかして、兄弟ってこと?」


ビクビクしながらやひこにきくと、賢いですねとまたほほえみかけてきた。


「わたくしが長男、ひるが次男でございます。三男はあなたを助けたようちゃんでございますよ」


ようちゃん……彼が三男か。


すごくおとなに見えたんだけど、この2人よりわかいんだ。


「目の前のチビちゃんより、ようちゃんは若いのでございます」


少しがさがさした声でヒニクを言うやひこはおほほと口をおさえて笑う。


「だまれ、ございますやろう!」


こわい声がきこえてまひるの方を見ると、ガルルとうなっていた。


お願いだから、ケンカしないで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る