まひる

 幸せってなんなんだろう。


 やさしい声

 ふわふわなぬくもり

 天使のようなほほえみ


ぼくにはエンがないもの。


おかねもちだったあの家でさえ、くれなかったのだから。


 

そうおもっていたのに、さいごのさいごではじめてあったおとこの子がくれた。


 あんなに気持ちよくて

 あんなに温かくて

 あんなにやさしいものだなんて


しってしまったら、もっともっとほしくなってしまうのはただのわがままなのだろうか。


 ‘‘もう抑えきれない’’


‘‘溢れ出しちゃうよ’’


‘‘だってこの愛は’’


まぼろしだとわかっていながらなんども見た夢をまた見るぼく。


きれいな空の下で、3人に愛をササヤカれる。


"これを見るのもさいごかな"


景色が真っ白になっていくから、ぼくは死をうけいれたんだ。



 ポヨン


ぼくはまだ死んではいないことはすぐにわかった。


そして、あの家にもどったわけではないこともリカイする。


せなかに感じたのはヒヤリとするつめたいカベではなく、ムチムチした温かくてやわらかい何かだったから。


‘‘ぼくはほんとうに楽園に来たの?’’


おねがいしていたぬくもりを感じてこころからもあたたかい気持ちがわき上がってきておもわずほほえんだ。


しかし、その安心もすぐにきえた。


次に感じたのは


くびのうしろから圧力とゴキュゴキュという音。


おなかからは舌がさわっている感じとペチャペチャいう音。


生々しく、みみに入ってくる。


最後に見たピンクのカレとはすい方がちがうし、しかも2人同時だなんてとリカイしたら、パニックになった。


‘‘しっ、死んじゃう……’’


そう思ったとたんにクラクラしてきたぼく。


ドクドクと血がうごくおとが大きくきこえてきて、ぼくはますますあせる。


‘‘早くどうにかしないと’’


ぼくはコロされるなら、カレがいいんだ。


だから今は……生きたい。


声を出そうとゆっくりと口を開き、空気をかるくすってすぐにいきおいよくだした。


 

 「たす……アッ、アアッ!」


でも、でたのはさけび声ではなくて、変な声だった。


起きたからだはあつくなって、もっともっとと気持ちが上がってくる。


ほしいのはたすけではなく、気持ちよさへと変わっていく。


「あっ、おきたぁ?」


細めた目でおなかの方を見ると、大きくて細い目でこっちを見ながらペロッとしたあと、大きい前歯を見せて笑うおとこの子がいた。


まえの髪が長く、真ん中で左と右に分けられた髪の色は明るいキミドリ。


「だ、れ……?」


息が切れながらでなんとか言うと、ほっぺたをプクッとしてブウって声を出すキミドリ色のカレ。


「ゆうちょ! まあにぃのことわすれたらあかんでしょ、めっ!!」


怒られたぼくは見覚えがなくてコンランする。


それに、ゆうちょってなんだろう?



 「ひる、いきなり言われても戸惑うでございましょう。最初は夕馬ゆうまと呼んであげなきゃダメでございますよ」


いきなりおちついた声がうしろからきこえてきたから、びっくりしてからだがビクンってなった。


「あらあら、ごめんあそばせ。驚かせるつもりはなかったのでございますよ」


ふふっとしずかに笑って、ぼくのあたまをやさしくなでる感じから、おとなの人な気がした。


ゆうま……なんかしっくりくる名前だ。


まるで今まで忘れていた名前だったかのように感じたんだ。


 

 「朝日真昼あさひまひる、ゆうまはきょうから、ぼくぅのおとうとだからぁ、よろしくねぇ」


ニヒッと笑うキミドリ色のおとこの子……まひるさんはおなかをかんだあと、またムチュウでペチャペチャとなめはじめた。


ハイイロのハダギを着たまひるさんは子どもみたいな話し方に合わないおとなみたいなからだをしている。


クロい感じのハダにムキムキした筋肉がモリモリしているから、ほんとうにきゅうけつきなのかとおもってしまった。


それにこの人の弟……きゅうけつきの弟が人間ってフシギな感じがする。


ふとそうおもっただけなのに、まひるさんは目だけで見てて、アカい舌を下から上へうごかす。


ぺッ……チャッ!


「アアアッ!」


スイッチを入れられたようにさけんだ声をきいて、クククッと笑う小さい声とブルブルを感じた。

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