第9話 銀の大樹 ユグドラシル

「今日は酸性雨がひどいな……」

 外を眺めながら、ユミルに話しかけた。


「……」

 ユミルはあまり話をしたがらない、でも私の気持ちは通じているように感じている。


 あれから数週間経っているが、私のプラントでの作業を黙々と手伝ってくれる。培養土を運んだり、苗の植え方も覚えた。

 不思議と彼女が植えた苗はすぐに成長し、通常の10倍の効率で水を生成した。


 時折ゆるむユミルの口元が、私の心を癒してくれる。


 まだユミルを外食に連れていってやったことがない、たまには奮発ふんぱつして街に一軒しかないレストランに連れていってやろうと思っていたが、生憎あいにくの酸性雨だ……。


「ユミル、どうする? 今日はレストランやめておくか?」

「……」

「やっぱり行ってみたいか?」


 コクリと頷くユミル。


「よし、防護服をしっかり着込んで出かけるとしようか」


 ブーツと酸化防止コートをユミルに着せて、前のチャックを首元まで上げた。ユミルはただじっと、私を見つめていた。


 部屋を出て、薄暗い街路を雨が濡らす中、二人でレストランに向かう。

 はぐれないように、ユミルの手をぎゅっと握ると、少しだけ握り返してくれた。


 明かりが見えてきた……。レストランはもう、すぐそこだ。

 

「……その娘から離れろ」


 声をかけられ、ふと目をやると、銃を構えた男が一人立っていた。


 私は咄嗟とっさにユミルをかばうように、前に覆い被さった。


「誰だ、お前!」

「そいつは人間じゃない……。暗黒物質ダークマター界から落とされた侵略兵器―—シード種子だ。惑星に寄生浸食し、都市を壊滅させる危険な怪物」


「ユミルは……私の娘だ」

「惑わされるな! お前の娘なんかじゃない。量子脳波動を読み取り、イメージをコピーしただけの模造品だ」


「逃げろ! ユミル」

 そう叫ぶと同時に私は両手を上げ、男に向かっていった。


 足が路面を叩く度に上がる水しぶき、

 後ろを向き、走り出すユミル、

 銃の照準を合わせる男、

 すべてがスローモーションのように感じた。


 男は銃床じゅうしょうで私の頭を殴ると、再びユミルに銃を向けた。

 私は転倒し、濡れた路面にへばりつく。

 銃のスコープレーザーがユミルの背中で赤く光る。

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