帰還者は異世界最強の勇者~魔法とスキルで現代のお悩み解決します~

黒乃 緋色

帰還者

 時間はまだ動かない。


 そこかしこに巻き上がる硝煙と砂埃。

 飛び交う先端の尖った銃弾と黒くて丸い砲弾。

 何かを叫ぶ兵士。

 腕がちぎれた兵士。

 血まみれで動かない兵士。

 倒れ折り重なる兵士達。


 俺は黒い煙を上げる戦車のキャタピラに背を預けてへたり込んでいる。

 目の前にはアサルトライフルを抱えた兵士達が……2、4、まあ10人ぐらいかな。その銃口を俺に向けてちょうど何かを叫んでいるところだ。

 俺は少し離れた場所に転がっているカメラを見つめた。


「え? 何でそんな事になってんのって?」


 このタイミングで聞く?


「じゃあ、とりあえず10分前まで話を戻すか」


 あ、そうだ。


「Music start!」


 俺はカメラに向かって指を鳴らして人差し指を向けた。


「いいね、一回やってみたかったんだよコレ」


 *****


 戦地のど真ん中に降り立った俺を待ち構えていたのは銃弾の嵐だ。


「ちょっくらやりますか」


 ディストーションを効かせた歪んだギターサウンドが聞える。ちなみにこれオープニングテーマね。


「超クール」


 前後左右から向かってくる銃弾をパンクロックなサウンドに合わせて躱す。やっぱりBOSS製のエフェクターは良い音してるわ。


 近くにいた迷彩柄の服を着た金髪の兵士が叫びながら俺に対してアサルトライフルを連射した。すかさず横に走って照準をずらすと、進行方向と反対に側宙をしてから、その兵士に接近して銃身を掴む。


 握りしめた俺の手には発砲によって温められた熱が伝わってくる。普通の人間なら熱傷するかもしれない。まあ、俺は大丈夫。


 俺がその銃身を曲げて銃口を空に向けると兵士は「No way」と声を漏らした。


 しかし、回した目が再び俺に向く。何かを必死に叫びながら銃身の曲がったアサルトライフルを振りかぶった。


 軽くジャブをぶつけると兵士の黒目が瞼の裏に移動してその場に崩れ落ちた。

 ごめん、英語あんまり分かんないんだよ


「ここからベースとドラムが入って、ほら重厚感が出る。これほんと名曲だわ」


 同じように他の兵士達も気絶させていく。20人目ぐらいかな、兵士の頸椎に手刀を当てた俺の目の前で轟音が鳴る。それと同時に体にぶつかる突風と土煙。土煙が晴れると少し離れた場所で戦車の砲筒がこちらを向いていた。


「戦車か」


 再び、戦車が砲弾を発射した。その反動で車体が後方に揺れる。

 黒い砲弾が急激な速度で迫ってくる。俺は片手をかざした。


「何故って? 決まってる」


 俺は片手でその砲弾を受け止めた。


「ちなみ、オープニングテーマはここで終わり」


 そこから戦車へと向かう。手から離れた砲弾が地面につく頃にはすでに俺は戦車の側面を見ていた。


 右手に力を込めるとバチバチと音を鳴らして青白い光が走る。そう、雷魔法の一つだ。


『雷神の鉄槌』


 電気を纏った俺の拳が戦車の側面に穴を空けた。そこから電気が流れ込んだ事で戦車内の電気系統はショートしたはずだ。


 それだけじゃない、雷神の鉄槌による衝撃で車体が吹き飛んだ。四回、五回と転がった後、斜めになった戦車はドシンと揺れながらキャタピラを地面に戻した。


 車体の隙間から黒い煙が立ち上る。


「何で魔法なんか使えるんだって? 選ばれた人間だからな俺は。え? ちゃんと説明してくれ?」


 俺はカメラを二度見した。細かいなぁ。


「あんまり細かいと、女に嫌われるよ?」


 お前はモテてるのかって?

 当たり前だ。


「見てみろ」


 俺が指差した方向には金髪の女兵士がいる。


「熱い視線を向けてきてるだろ? うおっ!」


 撃ってきやがった。上半身を捻って躱したから良かったけど、俺じゃなかったら体に穴が空いてたな。


「あれだ、殺したいほど愛おしいってやつだ」


 とりあえず殺されたくないので女兵士の頸椎に軽く手刀を当てて眠ってもらった。

 普段は女性に手を上げたりしないんだけど、状況が状況だから仕方無いよな。うん。


 こんな事をしている間にも戦火は広がり続けている。


「あぁもう! うるせぇなぁ! 分かったよ! 説明したらいいんだろ」


 異世界に転移して、魔王を倒して帰ってきたんだよ。それから可愛いJKと知り合って、何でも屋を始めた。そんで迷い猫を探したり、異世界を行き来したりしてたらとんでもない依頼が舞い込んできた。


「てかお前、流れ弾とかに当たるなよ?」


 長い間、ある二大国は目に見えない争いを続けてきた。どちらの国が世界をリードしているかという不毛な争い。ただ、外交的な制裁などが主で、武力行使などは一切無かった。何故ならば、本気で戦争を始めたら双方共倒れもあり得るからだ。


 けどある日唐突に、戦いの火蓋が切られた。世に言う第三次世界大戦だ。


「その戦争を止めてくれって依頼……あ」


 ゴトリと音を立ててカメラが地面に落ちた。俺はその後ろに視線を向けて確認する。


「ダメだ。完全にヤラレてる」


 だから気をつけろって言ったのに。

 落ちたカメラのレンズは大丈夫なのか。ちょっと離れてるから見えないけど。


 その時、俺の頬に何かがぶつかった。その衝撃に俺は吹っ飛ばされて戦車のキャタピラに背中を強打してしまう。

 そしてアサルトライフルの照準を覗き込む兵士達が俺を取り囲んだ。


「まあ、こんな感じで今に至るって訳」


 一人の兵士が仲間の顔を見合わせた後、「Fire」と叫ぶ。瞬間、兵士達が持つアサルトライフルの銃口が火を吹いた。


 ふざけんな。


『炎神の憤怒』


 俺の周りを渦巻く炎がいくつもの銃弾を蒸発させる。あまりの熱気に兵士達は悲鳴を上げて離れていった。


 ゆっくりと立ち上がった俺の前に一人の男が立ちはだかる。


 スキンヘッドの黒人でかなり良いガタイをしてる。サングラスで目は見えないが俺を見ている事は確かだな。


 一目で分かる。


「お前、俺と同じだろ?」


 男は何も言わない。どうやら答える気はないらしい。

 代わりに首をボキボキと鳴らし、胸の前で拳と拳をぶつけて笑う。


「それが答えか」


 いいね。俺は首からぶら下がったチョーカーを掴んで引きちぎった。

 魔力抑制装置だ。


「死んでも恨むなよ」


 言い終わった瞬間、俺は奴との距離を詰める。

 奴もまた、俺に向かって突き進んできた。


 どうやら俺と同じ考えみたいだな。


 互いの最初の攻撃は……右ストレート。俺の拳と奴の拳がぶつかり合う。完全なる力比べ。


 ぶつかり合った拳を中心に光と衝撃波が球状に広がっていく。


 そう、俺達は『帰還者リターナー』だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰還者は異世界最強の勇者~魔法とスキルで現代のお悩み解決します~ 黒乃 緋色 @hiirosimotsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ