1月

 週明けから一週間、年末最後の勤務が終わり年末年始の休みに入った。私は12/30に帰省し、1/3まで実家でのんびり過ごしていた。その間、山下君のことを考えることが何度かあった。

 あの日の後、彼は私のデスクに来たことが2回あった。共に領収書の提出だったが、「天崎さん、コレお願いします」と言葉少なく、それ以上話すことはなかった。≪一夜の遊び≫なんだと納得するしかなかった。彼にしてみれば、「大人の女性(おばさんとは言わせない!)と一夜す過ごした」ということで、私にしても「可愛い若い男子を味わった」ということだろう。決して他言できないが、自慢したい気持ちはなくはない…。だからこれでいいんだ。



 のんびりした休みもあっという間に終わり、またいつものように仕事が始まった。年始から数日経っても「おめでとうございます!」と挨拶しているTV番組に正月の堕落した生活が思い出されるが、それはTVの中の話。仕事に没頭し体のリズムを取り戻すのだ。


「おはようござます」

 事務所に入ると、男性陣が帰省や旅行のお土産を配り歩いていた。

 社内の暗黙ルールで、≪お土産は基本食べ物≫≪各自でデスクに配布する≫となっていた。これは数年前に、置物などのお土産に嫌気がさした真澄さんが社長に提案したもので、それ以来趣味の悪い置物土産は見かけなくなった。

 出勤した私のデスクに上にも各地の地名が書かれた小さなお菓子が7個ほど置かれていた。関西や東北や北海道…いろいろ地名だが、中身は大体同じだ。かく言う私も地元の名前が書かれたお菓子を用意した。チョコでコーティングされたウエハースのお菓子。チョコの名産地でもないがこのお菓子は一番評判がいい。


「なにこれ?」

 私のデスクの隅に少し大き目のラッピングされた箱があった。

「あ、それ、山下君が置いていったよ」

 早く出勤していた前の席の真澄さんが教えてくれた。「なんか…相談にのってくれたお礼だって言ってた」と笑って見せ、すぐに自分の仕事に戻った。真澄さんは興味本位に物を聞いてこない。今はそれが非常にありがたかった…。

 ラッピングされた箱の中身は小さな香水とチョコレートのギフトセットだった。バレンタインの時期にはこういうようなセットを見かけるが、今時期に売ってるんだ…というのが第一印象。そして、チョコはいいが、≪香水≫が妙に意味深に感じてしまい、香りを嗅ぐことができずテーブルの引き出しにしまった。



 数日で正月ムードはなくなり、また通常の勤務が続いた。月内の数字を合わせる経理業務と、数か月後まで見据えた総務の業務が混在し戸惑うこともあるが、上手く切り替えて熟していくことができるようになっていた。まだ1月なのに2月の卓上カレンダーもデスクに置いている。

「そういえば、2月って誕生日だ…」

 カレンダーを見て、ふと自分の誕生日を思い出した。私は遂に来月30歳になろうとしている。これまでとは違うステージに上げられるようで恐怖すら感じる。中身は20歳の頃となにも変わらないのに…。


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