第24話 視察団 日本上陸

一行を乗せた政府専用機が新世界基地を離陸してから12時間 たち、目的地である東京国際空港に近づいてきた。

現在時刻は7月22日の17時(惑星の半径、自転速度の関係上地球とは時差が異なる。


ポーン

『当機は只今より着陸を開始します。座席のテーブル、フットレスト、リクライニングを元の位置に戻し、今一度シートベルトの着用をご確認下さい』


使節団代表のドレイユ氏の中ではどんな風景が見られるのか、緊張、興奮 2つの感情が湧き上がっていた。


窓の外から見える海上には数え切れない程の航跡が走っていた。


やはり、この国も海運がメインの運搬手段の様だな。

横を見ると、遊園地に行く子供みたいに落ち着かないシャレル技官の姿があった。


「シャレル技官は楽しみでしょうがない様だな 」


「もちろんですよ!これから着陸する空港には色んな国の航空会社が乗り入れていると聞いています。どんな機が見れるのやら」


「君が楽しみにしているのは空港の方か。 そんなに一度に1つの飛行場に何機もいるわけでは無いだろう。ほれ、ムーの飛行場でもそうだろう」


「どうなんでしょうかね。それも含めて楽しみです」


窓の外では、だんだんと地上が近づいてきた。


ゴンッ キュキュッ

メインギアが接地。

ガタガタガタガタ

ノーズギアが接地して誘導灯を踏む振動が機内全体を揺らす。


着陸したかと思った瞬間エンジンが離陸の時以上の唸りをあげた と思うと身体が前に引っ張られた。


窓から主翼下にあるエンジンを覗くとエンジンが変形していた。


逆噴射だ。これにより747のような巨人機も比較的短距離で停止する事が出来る。


衝撃的な着陸だった.....。

そして今度は窓から外を覗くと.....何だこれは‼︎?

さらに衝撃的な光景が広がっていた。


そこでは飛行機が列をなして離陸の順番を待っているのだった。色取り取りにカラーリングされている。全てが民間機のようで、どれもが違う航空会社のようだ。

これは自分の知っている飛行場では無い。砂地の滑走路に他は何も無い駐機場、乗客は多くて1日に1000人程度。それがムー共和国にある民間用の飛行場だった。だがこれは何だ....。この驚きを十分に形容する言葉が見つからない。


こうしている間にも次々とひっきりなしに大きいものから小さいものまで離陸、着陸している。しかも滑走路は1本ではないようだ。


そして空港が途轍も無く広い。着陸してから5分たつのに未だに空港の中を移動している。途中橋を越えた。これ程巨大な飛行機が橋の上を走るなどどれ程の建築技術を擁しているのだろうか....


機が空港の中を走り回ってようやく駐機場に止まった。

各々が荷物を取り出し、日本国の外交官の案内に従って飛行機から降りた。駐機場に降りるのでは無く、「ターミナル」と言われる建物に飛行機との間に渡された「ボーディングブリッジ」を歩いて移動した。


もう正直驚く事が多過ぎて驚く事に慣れてしまった。明白な事は、この国の外交担当は東洋世界の雑多な島国を相手にする東洋世界課の領分では無いということだ。この案件は直ぐに私の手から離れるだろう。


ターミナルの中は人でごった返していた。そして、どう見ても殆ど一般庶民であった....。何と飛行機が金持ちだけの移動手段では無いのだ。


いよいよ空港を出て、この国の首都である東京に向かう。(羽田は東京都内であるのだが...)


迎えの車が数台、視察団を待っていた。どれも黒塗りで公用車のようだ。


乗ってみるとまぁ特に何がというわけでもなかった。内装はムー本国の外務省公用車とさして大差はない。あえて言うなら揺れが少ないのと、音が静かという事くらいだろうか。


一団を乗せた黒塗りの車数台の車列は羽田空港国際線ターミナルを離れ空港西インターから首都高羽田線に乗った。


ほう、首都の近くにハイウェイがあるとは首都はそんなに発展していないのか?(ムー共和国では高速道は都市圏内は通らない、通常郊外に建設するものだ)


車列は空港島と大田区を繋ぐトンネルを抜けいよいよ都市圏に入った。


数分すると、都市高の左手の防音柵から副都心の高層ビル群が見えはじめた。


高層ビル自体はムー共和国でも珍しくない、技術的には不可能ではない。だが、その高さと数、そして使われているガラスの枚数の多さが問題だ。ビル全周がガラスで作られているのでは無いかと思うほどであった。 そして右手に見える 超高層建築物。「東京スカイツリー」高さが634mあると言う。これ程高い建物は見たことが無い。ムー共和国にはこれを作るだけの建築技術は無い。


都市高一号羽田線の品川付近に近づいた。

首都高の両側に並ぶ建物の高さが高くなってきた。こうなって来ては、東京がそれほど発展していないという予想は完全に裏切られた。

高速道路の下がどうなっているのだろうか....とにかく超過密である事は間違いない。


そうこうしているうちに、車列は飯倉出口を降りて、虎ノ門の大使館が多い通りに差し掛かった。


いくつかの大使館には基地には掲揚されていなかった国旗が掲げられていた。もちろん、これまでに見たことがある国旗は1つも無かった。


坂を登って少ししたくらいだろうか。車列は大きなホテルの玄関前に止まった。

「長旅ご苦労様です。日本に滞在されている間の宿はこちらです」

車を降りて、荷物はボーイに任せ一同は一旦ホテルのロビーに集合した。


「お疲れだとは思いますが、お渡ししたい物が有りますので荷物を部屋へ荷物を運び込まれた後、2階の小宴会場に集合して頂きます」

視察団はそれぞれの部屋の鍵を受け取ると、一旦荷物を部屋に運び込んだ。


5分後、全員が2階の小宴会場に揃った。

部屋の内装は、宴会場というより小規模の会議室と言った方がいい。


「それではお座りください」

長篠氏に言われるままに座ると、外からスーツの男が数名が箱を抱えて入ってきた。

そして、男達は箱の中から小包サイズの白い箱を取り出し視察団の前に1つずつ置いた。


「こちらは日本政府からのプレゼントと思って頂いて構いません。それでは、箱を開けてみて下さい」


開けると、何やら手帳サイズの四角い物体が入っていた。これは見覚えがある。 日本に来てから殆ど全て手の人が持っていた何かだ。使用方法が全く理解出来なかったが、まさかそれをくれるとは....。


「それでは、右にあるボタンを押し続けてみてください」


言われた通りにボタンを押すと.....面が光った!

更に文字が現れた。 テレビなのか....?

いやに薄い。


暫くするとと、ムー語(地球圏でのフランス語)で

『ホームボタンを押してロック解除』

と言う文字が現れた。


「起動したようですね。それでは画面下中央のボタンを押してください」

スーツを着た男が教えた通りに操作していく。

どうやら、テレビでは無いようだ。

その後も言われるままに情報を入力していく。

自分の操作に呼応して文字や絵が動くという体験は初めてだ。

使い方を教えてもらうたびに自分の常識が崩壊していく。情報処理に関してはこの小さな箱1つにムーの最新の技術を注いだ機械式の通信装置は負けている。


本当なら、驚くところだが、正直理解可能な範疇を超えていて思考が追いつかない。 技官の方を見てもかなり驚いてるようだが、もっと問題なのは経済調査担当の文官だ。頭を抱えて何やら一人ごとを呟いている。

確かに、この“スマートフォン”の核である大規模集積回路とか言う電算回路の存在は衝撃的だ。それと合わせて、この“スマートフォン”が常時接続されている“インターネット”。これら2つの存在が軍事、経済、産業その他に与える影響は計り知れない。


魔術か何かを見ている気がする。いや、ここまで来ると本物の魔導を超えている。


分かった事は、この国が持っている科学技術はムー共和国の科学技術は勿論この世界随一の魔術立国である神聖メルト皇国の魔法技術の結晶 魔素自律判断回路を凌ぐ可能性もある。


スマートフォンの使い方を大方教えて貰ったあと篠崎氏から明日の朝の集合時間と今晩のホテルの夕食の会場を伝えられその場は解散となった。


解散すると、直ぐにホテルのラウンジに視察団全員集合して今まで見てきた事の整理をする事にした。


話し合いは視察団の長であるドレイユから始めた。

「諸君、それではこれまでの短い時間で色々と衝撃的な物を見てきたが報告書を作るためにも是非ともそれぞれの専門分野からの知見を聞きたい。じゃあ、経済産業局のフェリエ君、君から頼むよ」

一同の注目は、30代前半くらいの爽やかな雰囲気を纏った男性に向けられた。

「それでは僭越ながら。一見しただけでもこの国の経済規模がかなりのものである事は十二分に分かります。敵対するのは以ての外ですが、あまり近づき過ぎるのも危険だと感じました。もし本格的に貿易が始まった場合、共和国内の企業で太刀打ち出来る所は無いでしょう。

今まで東洋世界諸島群の諸国とは技術格差を利用して圧倒的な状態で加工品を輸出して、農作物や鉱産資源を輸入するという構造でしたが。域内全域の主導権が彼らの手に渡ってしまうのも時間の問題でしょう。


彼らの技術力、資本力が脅威であるのは間違い有りませんが、彼らの技術を獲得するために親密な関係を築きたいと言うのも本音です。


とにかく経済産業分野から見ても彼らは脅威です」


「ふむその通りだな、確かに彼らの資本力は脅威だ。これは要注意事項だな。次は、軍務局のルデュク海軍大佐、貴官の意見を聞きたい」


次に指名されたのは40代の筋肉質の男だ。


「はっ。自分が一番気になった点はやはり彼らの軍事技術です。


移動前に彼らの拠点で簡単な説明を受けた時に貰った資料を飛行機での移動中に読んだのですが、どれも信じられ無い内容ばかりでした。


まず、誘導弾。これは我が海軍では構想にすら至っていませんでした。

資料を読む限りメルト皇国で開発中と噂の魔力感知誘導弾の完成形に近いと思われます。

この誘導弾というのが実用されているのが事実であれば、我が海軍の艦艇では発射母艦を見ることさえせずに全滅する事は必至でしょう。


そして、イージス防衛システムとフェイズドアレイレーダー。このシステムにより航空機による攻撃も封殺されてしまいます。これでは、少なくとも科学技術サイドの国では彼らに傷一つ付ける事も不可能でしょう。


これではバステリア帝国が一方的に敗れたのも納得出来ます。


そして最後に大陸間弾道ミサイルです。

資料に書かれていた中で最も強力な兵器と思われるのですが。 今回のバステリアとの戦いには使用されませんでした。 もし彼らがその気になれば軍隊を動かす事なくバルカザロスを無に帰す事が出来たようです。


さらに恐ろしい事に、この兵器には共和国原子物理学研究所が研究中の核反応を利用した弾道を実用化し搭載しているようです。


軍事面から考えると絶対に敵対してはいけない相手です」


「成る程、あまりの凄さに現実味が無いな。これを中央に報告するのは骨が折れそうだ。そう言えば大佐、出発間際に渡されていた資料の何だったか.....あの海軍の共同演習だったかな?あれはどうなんだ」


「確か.... リムパック でしたな。詳しくはまだ読んでいませんが、私個人としては是非参加して見たいですな。後ほど詳細を読んで後に報告致します」


「よろしく頼む、大佐。 それじゃ次は......


その後20分程このような意見交換があった後、各々は部屋に散って行った。


オリンピックの開会式迄の間彼らは、日本政府職員同行で、自由に行動が出来る。

彼らは一体何を見るのか?







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